第36話 弟子、投資法の使い方を知る

同じ買う原因、つまり条件で売買する。

それを棋譜きふとして記録する。

ある程度棋譜が集まったら、成功した時と、失敗した時とを分けて検討する。

本に書かれている条件は、自分の理解で間違ってないか?

本に書かれていない条件は、存在しているのか?

最低でも、これくらいの検討は必要だろう。

そして検討する為には、最低でも数十、判明しなければ数百、数千の棋譜が必要となる。

その棋譜は、自分が用意しなければならないのだから、最低でも数十の売買はしなければならない。



「このことを知らない人は、投資本に書かれている投資法を数回試して結果が出なかったら、直ぐに諦めるでしょ。」

「そうですね。」


考えながら、遥香が言う。


「そう考えると、ハルはまたまたラッキーだね。」

「そうなんですか!?今回はどうしてですか??」

「棋譜を作るには、必ずしも実際に資金を動かす必要は無い。日足のチャートで取引するなら、買ったつもり、売ったつもりで棋譜が作れる。実際に始めるまでの2年間、棋譜作りに勤しめるんだから、ラッキーでしょ。」

「そうですね。うん、ホント、ラッキーです。」

「でも、君の叔母さんは、つもりでは棋譜が作れない。何故だか分かる??」

「結衣ちゃんが作れない理由??」


考え込む遥香。



その姿を見て、ちょっとドギマギする結衣。

結衣は、自分を悪い例として出される心当たりがあった。

それは、以前、よろずのに同じようなことを言われて試したのだが、半年も続けられなかった。

最初は問題無かった。

でも、やり続けていくうちに、本当に売買してたらこれだけ儲かったのにと考えてしまった。

そうなると、つもりでの売買は出来なくなり、実際に売買をしてしまった。

そして、ちょっとした相場の変わり目で損が続いてイヤになり、棋譜作りを途中で断念してしまったのだった。



「結衣ちゃん、どうして作れないの??」

「えっ、それは~~、えっと、やっぱり実際に売買出来るじゃない、あたしは。だから、実際に売買した方が、よりリアルでしょ。だからなの。」


結衣は、ニヤつくよろずのの視線を気にしながら、何とか叔母としての威厳を保とうとした。

その痛々しい努力を見て、よろずのはこの件に関してはそれ以上何も言わなかった。



「でも、書くとしても、どうやって書けば良いんですか??」


遥香が聞く。

未経験の遥香としては、書きたくても書けないのが現状だ。



「だから、これからは、分析のための手法を教えるからね。まずは、平原の話からだね。」

「平原ですか?」


よろずのの言葉を遥香がなぞる。



平原の真ん中に一人取り残された時。

助かる為には、街を探して歩くことになる。

こういう時に、当てもなくさまよう人はいないだろう。

例えば、人の痕跡は探さないか??

人が通った跡の道を探さないか??

無理なら、太陽や星を見て、方角だけでも知ろうとしないか??



「それは、するでしょ。自分がどこに居るか、やっぱり気になるもん。」

「普通は、そうだよね。オレも気になる。」


遥香の意見に、よろずのも同意する。


「それで続きはどうなるんですか?」

「そんな時に人が通った道を見付けたら、その道を辿るよね。」



誰もが道を見付けたら、その道に沿って進むだろう。

途中、背の高い木や草が生えているようなところでは、道を外れて人の痕跡がないか探すだろう。

ただ、無ければ、また道に戻って街を探すことになる。

まさか、そのまま道を外れて行く愚か者はいないだろう。



「それは、誰だって戻るよ。そうじゃ無かったら、最初から道を探さないでしょ。」

「つまり、ハルは道を基準にして、街を探していると言うことになるね。どうして?」

「それは、人が居ないかもしれないけど、当てもなく探すより、見つけられる確率は高いでしょ。それに、何か目印が無いと、どっちに向かっているか分からないし、進んでいても、本当に進んでいるか分からなくなって不安になると思う。」


遥香は、思っていることを率直に答えた。

よろずのの反応を気にしながら・・・・。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る