第38話 弟子、教わったことをまとめる2-1

2回目のよろずのの話を聞き終えて、遥香は思った。


- あたしは、やっぱり、世の中のことを全然知らないんだ!! -


自宅に戻って早々、遥香は教わったことの復習を始めた。



遥香にとって、自分の知識が増えることが楽しいと感じるのは久々だ。

元々、遥香は知識欲が旺盛な少女なのだ。

幼少のころから、直ぐに『これは何??』、『これはどうして??』と質問するような娘だったので、周囲からは面倒くさがられていた。

そんなときでも、高校生の結衣は面倒くさがらずに一つ一つ相手をしてくれた。

だから遥香は、特に結衣に懐いているのだ。



「さて、最初は、寡欲だったわよね。」


まず、遥香は、寡欲を正確に理解しようと、寡欲という言葉をググった。



寡欲・・・欲が少ないこと、またはそのさま



「なんだこれだけか・・・・。」


もうちょっと理解を深めるための説明があることを期待していた遥香だったが、何もないことに少し落胆した。

そこで、深めるために何かないかとググった結果の下の方を見てみると、四文字熟語があった。



恬淡寡欲・・・物事にこだわらず、さっぱりとしていて、欲望が少ないこと。

清淡寡欲・・・物事に執着せず、清らかでいて、欲望が少ないこと。



四文字熟語になっている二文字×二文字は、対義か同義の関係であることが多い。

この場合は、恬淡も清淡も、寡欲と似た意味だと解するべきだろう。


「そうなると、寡欲は、欲に執着しないって意味なんだ。」


遥香は自分なりの理解をした。



「欲に執着しないってことは、投資では儲けに執着しないってことだよね。そうなると・・・。」


ここで、よろずのが言いたかったことと遥香の考えが、かなり明確につながった。



遥香は、以前から人助けは、偽善としか考えていなかった。

学校の道徳の時間に人助けについて色々と教わったが、いつもそれはあざといと思っていた。

必ず、裏があると思っていた。

だから、そういうことを軽々しく口にする人を軽蔑していた。

ところが、よろずのから同じことを言われても、珍しく反発する心は無かった。

それはやはり、自分の為に人助けをする、と言われたからだ。

自分の為に人助けをすることに、裏があるはずがない。

人助けは、自分が犠牲になることと教わっていた遥香にとって、その考えは新鮮だった。

自分が幸せになるために、他人も幸せにする。

それも、どこぞの宗教家が言うような精神的な幸せではなく、明確な物理的な幸せのためにだ。

だから遥香としては、初めて実践しようと本気で思った。



因みに、これまでの遥香は、困っている人を見かけても無視していたわけではない。

普通に、助けていた。

ただ、このことは遥香にとっては普通のことであり、人助けとは思っていなかった。

人助けと言うのは、もっと大きいものだと考えていたからだ。



「でも、どうして先生は、師匠のような教え方をしてくれなかったのかな!?」


ここで遥香はふと考えてしまった。

自分が楽しみながら人助けしても良いのに、どうして学校でそのことを教えてくれなかったのだろうか??

学校では、人助けは自分を犠牲にした、楽しみから外れたものであるように言っていた。

よろずののように言ってくれていれば、自分の生き方も変わっていたかもしれないのにと思った。



実は、これには日本人特有の考え方がある。

つまり、楽しいことは、人助けではない。

自分も嫌なことを代わりにやってあげることが人助けだということだ。



例えば仕事もそうだ。

仕事を楽しみながらやっていれば、上司から叱られた経験のある人も多いだろう。

集団行動が基本の日本人にとっては、自分だけが楽しむということは禁止されているに近い環境にある。

これに対して欧米は、個人主義だから、個々で楽しむのは当たり前だ。

他人の犠牲になるなんて有り得ないし、楽しくなければやらないのが常識なのだ。

でも、日本と欧米の考え方の違いを知らない遥香には、当然ながらわからなかった。



「来週、聞いてみよっと。」


遥香は、早速、よろずのに質問することを見つけた。

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