第31話 弟子、ヘッジを知る

『return』の有無の違いが、『risk』と『danger』の違いとなる。

そう考えると、多くの人は、この違いは絶対的な違いのように感じる。

しかし実際は、相対的な違いに過ぎない。

つまり、『return』が存在していても、それを手に入れられる確率が極端に低ければ、『danger』になると言うことだ。


そこでよろずのは、遥香が念の為に持っていたシャーペンとノートを受け取り、空白のページに、おもむろに書き始めた。

上から順に書いた。


❶『safety』

❷『low risk』

❸『high risk』

❹『相対的danger』

❺『絶対的danger』


「つまり、こんな感じて、5段階に分かれる。」


こう言いながらよろずのは、一番下の『絶対的danger』を指差しながら、説明を続けた。



『絶対的danger』は、『return』が存在しない『危険』を意味する。

『return』が存在しないのだから、『危険』を冒す必要性は全く無い。

そう言う『危険』が、『絶対的danger』だ。



『相対的danger』は、『return』が存在するものの、成功率が極端に低いことを意味する。

この場合の『return』は、判断を誤らせるエサでしか無い。

そう言うことで、絶対的だろうが、相対的だろうが、『danger』は、『danger』に変わりない。

やるだけ無駄だということだ。



『high risk』は、『return』が存在し、成功率がそこそこあることを意味する。

『danger』ではなく、『risk』なのだから、挑戦する価値はある。

ただ、成功率は低いので、必ず『hedge』して成功率を上げてからチャレンジしなければならない。



『low risk』は、『return』が存在し、成功率が高いことを意味する。

だから、そのままチャレンジしても問題は無い。

侮るようなことが無ければ成功するのであり、注意して挑めば良い。



『safety』は、『return』が存在し、失敗率が殆ど存在しないことを意味する。

普通通りに、何も考えなくとも成功する。

唯一の懸念は、手抜きとなる。

当たり前過ぎて、ついつい手を抜いて、『risk』を発生させることに注意しなければならない。



よろずのは、一気に説明した。

遥香は、その説明を聴き逃すまいと、首を振るだけの相づちで応じた。

そして、説明が終わると、遥香は聞きたいことを口にした。



「『hedge』って、何ですか?」

「『危険』を取り除いたり、成功率を上げたりする為の手助けのことだよ。」

「手助けってどんなことですか?」

「そうだなぁ~。綱渡りだったら、命綱を付けることとか、下にネットを張ることかな!?」

「なるほど。」



ここでよろずのは、再び綱渡りの名人を例にして説明してくれた。

その例は、山道を急いでいると言う話だった。

隣の山に行きたいけど、谷を下って上り直すには、かなりの時間がかかる。

そこに、細い丸太が橋代わりに渡してあった。



綱渡りの名人なら、苦もなく丸太を通れるだろう。

だから、彼にとって丸太の橋は『safety』だ。



普段から、丸太の橋を使っている人なら、注意して通れるだろう。

それなら、『low risk』となる。



丸太の橋を渡った事がなくても、高い場所が平気なら、勇気を出したら渡れるだろう。

特に、命綱があれば、以外に平気に渡れるかもしれない。

それなら、『high risk』となる。



高所恐怖症で、丸太の橋なんか絶対に渡りたく無い。

命綱があっても嫌だと言う人が、実は一番多いだろう。

これが、『相対的danger』となる。



そして、その丸太が腐っていて、人を支える耐久力が無いとすれば・・・。

これが、『絶対的danger』となる。



例を出して説明して貰えたことにより、遥香の理解は更に深まったのだった。

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