第32話 弟子、投資の資格を知る
そこでよろずのは、一つの問題を出した。
「高所恐怖症で、命綱があっても、絶対に橋なんか渡りたく無いと言う『相対的danger』に該当する人が、『high risk』に変わる場合がある。どんな場合だと思う??」
「えっ、そんなことあるんですか??」
そう言って、遥香は真剣に考え始めた。
『相対的danger』が『high risk』になる!?
『danger』が『risk』になるんだから、『return』があるんだよね。
あ、『相対的danger』には、もともと『return』があったんだ。
そうなると、成功率が上がる・・・。
良い『hedge』の方法を見つける!?と遥香は考えた。
「何か良い『hedge』の方法を見つけることですか??」
遥香は、辿り着いた答えを口にした。
「悪くは無いけど、『hedge』ってそんなに簡単に出来ないよ。出来るなら、誰もがそれをやって、『safety』に変化させるでしょ。」
「そうですよねぇ~。」
言われて遥香は納得した。
「正解はね、『return』を大きくすることなんだ。」
「『return』を大きくする??」
またまた考えもしなかったことを、よろずのが言った。
丸太を渡れば早く着ける。
でも、高所恐怖症だし、命綱があっても渡りたくない。
いくら早く着けると言われても、絶対に無理だと言う。
そんな相手でも、早く着くことによって、恋人とか、大事な命が助かるとしたらどうだろうか!?
自分が薬を持ち、あと1時間以内に到着すれば助かる。
谷を下ると2時間以上かかり、丸太を通れば30分で着く。
「それだったら、丸太を通ります。」
遥香は素直に言った。
「つまり、これは『return』が早く着くことから、大事な人が助かることに変わったからだよね。だから、同じ状況でも、『return』が変われば、『risk』も変わるんだよ。」
「そうですね。良く分かります。」
「ここで、問題になるのが、『risk』と『return』の整合性なんだ。」
そう言ってよろずのは、さらに細かく説明を始めた。
そもそも、自分にとって、その行為が『safety』なのか、『risk』なのか、『danger』なのかを正確に判断しなければならない。
その為には、まず自分の能力を正確に知る必要性が出て来る。
その次に、『return』を質と量で把握。
その結果により、チャレンジするか、しないかを決めることになる。
自分の実力や、『return』を見誤っていたら、正しい選択が出来ない。
「そう言う風に考えを組み立てるんですね。」
「まぁね。ハルは、『敵を知り、己を知れば、百戦危うからず』って言葉を知ってる?」
よろずのが、またまた問いかけた。
「そのフレーズは、なんか聞いたことあります。」
「これは、投資で言ったら、『リスクを知り、自分の実力を知っていれば、100回投資しても大損しない』って意味なんだよ。そしてこれには続きがある。」
「続きがある?」
「リスクを知らず、自分の実力だけを知っていたら、勝つか負けるかは分からない。」
「はぁ・・・。」
「リスクを知らず、自分の実力も分からなければ、投資する度に大損する危機に遭う。」
「なんか凄い言葉ですね。投資する度にって・・・。」
遥香が感嘆したように言う。
「これは、孫子第三謀攻篇にある一節だよ。だから、ハルがまずしなければならないのは、自分の実力の把握、次にリスクマネジメントの理解になる。この2つが整ってから、初めて本格的な投資の勉強になるんだ。」
「分かりました。一日も早く本格的な勉強に入れるように、頑張ります。」
笑顔でそう言う遥香の横で、またまた結衣が横で口を開いた。
「ねぇ、萬野くん!あたしにも、同じこと教えてくれた!?」
「何度も説明してますよ!!」
結衣は、余り覚えていなかった。
やはり、投資の具体的な話の方に注意が行ってしまい、こう言う具体的でないところは大事ではないと判断していたようだ。
だからと言って、結衣が愚かだとか、欲深過ぎると言うことには、ならない。
誰もが、具体的な話の方が分かり易い。
誰もが、投資に直結する話の方が気になる。
でも、誰もが、投資方法を使える訳ではない。
使う為には、資格がいる。
この資格は、適当に実技をやったり、学科をやったりするだけで得られる形式的な資格とは違い、己の中にだけ存在する試験官と対峙しなければ得られない。
だからこそ、この部分の説明によろずのは、大部分を割く。
それこそ、この資格さえ得られれば、どんな投資法を使っても成功できると、よろずのは本気で考えている。
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