第19話 弟子、楽しく議論する

ここで、ちょっと息抜き。

社会における投資の必要性を思い出してもらうために、具体的な例を挙げて説明する。



「観念的な話ばかりだと疲れるからね。ここからは休憩も兼ねて簡単な話をしよう。」

「じゃ、あたしはお茶とお菓子を用意するね。」


結衣は、そう言って2人を残してキッチンへと言った。



「簡単な話ですか。」


尋ねる遥香。


「そうだよ。ハルの高校時代の友だちの中で、実家が商売やってる子っている??」

「和菓子屋の子がいます。」

「名前は??」

紅梅こうばい芹佳せりか。」

「セリカちゃんね。じゃ、今から例え話をするね。」

「はい。」


どういう例え話か、ちょっとわくわくする遥香。



「セリカちゃんは、和菓子屋の娘だけど、ケーキが大好きで、子供の頃から自分で作るほど大好きでした。余りに好き過ぎて、和菓子屋さんの娘なのに、将来はケーキ屋さんになりたいと考えていました。」

「ホンモノの芹佳とは、ちょっと違うけど・・・。」


よろずのの仮の設定の説明に、苦笑いする遥香。


「そこは無視、無視。それで、セリカちゃんは、親に内緒で洋菓子の専門学校に行くほどでした。そして、ハルが休みに実家に戻った時に、セリカちゃんがめちゃくちゃ美味しいケーキを焼いてくれました。その味は、百貨店で売られているケーキよりも何倍も美味しかった。」

「うわっ、芹佳がそんなケーキ焼けるなら、食べてみたーい!!」


笑いながら喜ぶ遥香。

例え話が、どうやらツボに入ったらしい。



「だろ!?そうやって、セリカちゃんは、ケーキの腕をドンドン磨いていきました。そして、専門学校を卒業したのを契機に、自分はケーキ屋をやりたいと両親に相談しました。」

「それで??」

「当然、両親は大反対する。和菓子屋が洋菓子を売るなんてもってのほかだと言って、大反対で取り付く島も無い。」

「無いわぁ~、芹佳の両親、芹佳にめっちゃ甘いもの。芹佳がケーキ屋やりたいって言ったら、店舗改装すると思う。」


一人頷きながら言う遥香。



「これは現実のセリカちゃんの話でなく、仮定のセリカちゃんの話。仮定のセリカちゃんが、こういう状況になったとき、ハルはどう助言する??」

「どうって??」

「ケーキ屋やりたいのに、やらせて貰えないとき。」

「うーん、やっぱりおじさん、おばさんを一緒に説得するかな!?」

「いくら説得しても、相手にされなかったら!?」

「それなら、家を出で、ケーキ屋さんに就職できるように応援する。」

「でも、セリカちゃんは、自分でケーキ屋やりたいんだよ。それを我慢して就職させるの??」

「だって、お店出すにもお金ないし、まずは貯金する為に働かないとダメですよね。お金が貯まるまでは、我慢して修行すべきですよね。」


真剣な感じで、遥香が言う。



「そうだね。ハルの助言は、世間一般の常識的な大人と同じだね。何の創意工夫もない。」

「それなら師匠は、どういう助言を芹佳にしてあげられるんですか??」


遥香は、常識的な大人と同じと言われて、かなり心外だった。

自分は、そういう常識的ではないという自負があったので、心の底ではかなりムッとしていた。


「オレなら、セリカちゃんが、どこまで本気で店を持ちたいかを確認する。そして、本気で店を持って、自分のケーキを多くの人に喜んで食べて貰いたいと思っているなら、試食会を開くように提案する。」

「試食会ですか!?」

「そうだよ。友人、知人の親しい人から、その友人まで、広く呼び集めて、試食会を開く。そして、みんなにケーキを試食してもらう。」

「うん。」

「そして、みんなから開店資金を集める。このケーキが美味しい、売れると思った人は、いくらでも良いから開店資金を出してくださいと頼む。」

「なるほど、クラウドファンディングですか。でも、みんな殆どが学生でしょ、それほど裕福じゃないし、お金が集まらなかったらどうするの??」


遥香は、真っ当な質問を返した。



すると、よろずのは、笑いながらその思いを否定した。


「集まらなかったら、セリカちゃんのケーキが、お金を集めるだけの美味しさを備えていなかっただけだよ。ハルは、試食会を開いたら、必ず開店資金を集めてあげないといけないと考えたでしょ。そう考えるのは、常識的な大人だよ。ハルなら、そういう風に考えてほしくない。」

「あたしなら、どう考えるべきなんですか??」

「まず、資金を集めなければならないと考えてはダメ。資金は、セリカちゃんのケーキが集めるものなんだから。美味しければ資金は自然と集まる。集まらなければ、それほど美味しくないってことだよ。」

「それは一方的過ぎなくないですか??美味しいけど、お金が無いから出せないってこともあるじゃないですか!?」


よろずのが突き放すように言うので、思わず遥香が食って掛かった。


「別に、自分が出さなければいけない訳じゃない。ケーキが美味しくて、セリカちゃんは成功できると感じて本気で応援したければ、お金がある人にセリカちゃんのケーキを紹介しないか??」

「あっ・・・・。」


遥香はこう言われて、確かに知り合いに芹佳のことを紹介すると思ったのだった。

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