第20話 弟子、出資を知る

よろずのは、遥香の友人の名を借りて、仮定の話をしている。

和菓子屋の芹佳ちゃんをケーキ屋にして・・・・。



「美味しければ、紹介する。確かに、芹佳のために紹介すると思います。」


遥香が言う。


「いいかい。ここで大事なことがある。」

「はい。」

「自分でお金を貯めてから開店するのが良いことのように、アホな大人は思ってる。」

「あ、あほって・・・・。」

「アホだよ。自分で貯金して商売を始めるのが、一番安全だと勘違いしているからね。」


言い切るよろずの。


「勘違いですか・・・??」

「そうだよ。どうして一番安全だと思っていると思う??」

「それは、借金してなかったら、借金の返済に追われないからですよね。」

「そうだよ。でも、借金の返済というのは、あくまで金融の話で、商売の話ではないよね。」

「まぁ、そうですね。」

「商売で大事なのは、借金の返済よりも、商品が売れるかどうかだよね。最初から売れないことを前提に予防線を張るなんてアホとしか言えない。それに、そもそも自分で貯めて開店したら、自分の商品が本当に売れるかどうか分からない。売れなかっても、借金が無ければ返済に追われないからなんとかなる。だから、借金はしない方が良いんだよって、本当にバカだよねぇ~~。」



すると、さすがに台所から、結衣の声が聞こえた。


「ちょっと、萬野くん。ハルの前で、バカだのアホだのを連呼しないで。もうちょっとキレイな言葉で説明して。」

「はぁ~い。すみせん。」

「借金は無いより、ある方が良いんですか??」


謝るよろずのに、すかさず遥香が質問する。


「ま、ちょっと借金の話は置いておこう。言いたいのは、本当にセリカちゃんのことを考えるなら、多くの人に出資という形で応援されて開店した方が良い。たしかに資金が集まらなかったら傷つくかもしれない。でも、それはケーキの味がイマイチだった結果で、更に美味しくすればいい。もし、イマイチな味のまま貯金で開店して売れない方が、セリカちゃんの受けるダメージは大きいよね。二度と開店は出来ないよね。それより、味見の段階で傷ついた方が、良いよね。その段階で諦めるなら、店は持たない方が良く、無駄になるお金を開店資金として注ぎ込むこともないんだから。」

「そうですね。」


遥香は、よろずのの説明の一つ一つに納得した。



「それに、ケーキが美味しいと思って出資した人は、全てが顧客になってくれる訳でしょ。自分で食べて美味しいと思って、出資したんだから。」

「そうですね。」

「更に自分が出資したんだから、成功してほしいと思うよね。そう思うなら、色々な人にここのケーキは美味しいよって宣伝するよね。」

「なるほど、そうですね。そうします。」

「つまり、最初から顧客がいて、宣伝費もかからないんだ。だから、オレは、セリカちゃんのためには、出資者を多く集めて開店させてあげた方が良いと言ったんだ。それに、他にも効果がある。」

「他にもですか??」

「銀行から借金すれば何が何でも返済しなければならない。例えば、ケーキは美味しくても、セリカちゃんがケガとか病気にかかったらどうする??借金なら、必ず返さないといけない。でも、出資なら、返済はしなくて良い。ただ、儲かった時だけ、配当金として利息代わりのものを分配すれば良いんだよ。つまり、危険負担っていう考え方なんだけど、セリカちゃんのことを思うなら、全てを一人に背負わせるのは酷いでしょ。」

「そうですね。そういうことかぁ~~。あたし、そういう考えがあること、全く知りませんでした。」


納得する遥香。



「考えというより、システムだよね。この世界は、多くの人が幸せになれるようにシステムが作られている。でも、知らなければ、勘違いしていれば、使えない。今の大部分の日本人は、知らないか、勘違いしているんだよ。」

「なるほど。」


遥香が感慨深げに頷いていると、結衣がお盆にお茶とお菓子を載せて、運んできた。


「萬野くんの説明、分かり易いでしょ。もし、ハルが理解できないところがあれば、それは萬野くんの説明が悪いんじゃなくて、ハルの知識が不足し過ぎているせいだよ。」


結衣は、そう言いながら、よろずのや遥香の前にカップを並べた。


「そうですね。勉強します。」

「それと、一番大事なことをもう一つ。」

「はい。」


表情を改める遥香。


「オレの説明を聞くまで、オレが言った出資者を集めて出店することを、危ないと思わなかった??」

「思いました。」

「今は、どう思う??」

「師匠が言うことの方が、正しいと思います。」

「つまりだ。本当は安全なのに、知識が足りないから危ないと勘違いしていることは、非常に多いんだよ。しっかりと自分の知識を積み上げて、本当に安全なことを、それこそセリカちゃんのためになることを助言できるようになっておくべきだよね。」

「はい、努力します!!」


元気に遥香は言い切った。

言ったことは必ず実行する遥香だからこそ、この後に実績が追い付いてくることになる。

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