第18話 弟子、極められないことを知る
時間は、あっという間に経つ。
よろずのが結衣のマンションに来て2時間が経過した。
「じゃ、そろそろ約束の時間だね。」
よろずのが時計を見ながら帰りたいアピールをした。
教えるのは2時間というのが、結衣とよろずのとの間で取り交わされた約束だった。
が、遥香がその約束の履行を
「えっ、まだ2時間しか経ってないですよ。」
「いや、もう2時間も経ったよ。疲れたでしょ。」
「いえ、ぶっ続けで5時間くらいは大丈夫です。それくらいの体力はあります。」
熱心な目で訴える遥香に、仕方なくもう少しの間付き合うことにしたよろずのである。
「じゃ、今日はあと一つだけだよ。」
「ヤッター、ありがとうございます。」
喜ぶ遥香の横で、白い眼を向ける結衣。
- やっぱり萬野くんも若い子には弱いんだね!! -
こういう思いが、心の奥底でフツフツと湧いていたのだ。
よろずのは、それに気づいているのか、いないのか、スルーして話し始めた。
「ハルは、
「
「そう、孫子。」
「尊師って麻〇ピーーーですか??」
「違う、違う。孫子。孫の子と書く孫子だよ。」
そんしと言われて、まさかそういうガチな間違い方をされると思っていなかったよろずのは、さすがに焦った。
その尊師なら、本当に洗脳云々を言われてしまうじゃないかと思った。
孫子を知らない遥香に対して、結衣が簡単に説明した。
孫子は、2000年以上前に書かれた兵法書であること。
孫子は、未だに日本でもビジネス書として読まれていること。
孫子は、よろずのの研究対象であり、よろずのの投資の基礎には孫子があるということも。
「へぇ~、そういう本があるんですね。そう言われれば、聞いたことあるような気がします。」
全く知らないと言えない遥香がは、愛想気味に言う。
「じゃ、次に会う時までに読んでおいてね。」
「はいっ。」
「その孫子の中で、戦いの流れは、正攻法と奇策の2種類が交じり合って作られている。材料は、たった2種類しかないのに、その交じり合い方は無限にあると書かれている。」
「正攻法と奇策ですか・・・。」
「ま、孫子を説明してないから、そこには食いつかなくて良いんだけどね。言いたいことは、2種類の原料しかなくても、その混ざり方は無限にあるってこと。」
「混ざり方??」
「つまり投資で言えば、上げ下げでチャートが描かれるでしょ。その上げ下げの動きで描かれるチャートも、無限に描くことができるってことだよ。」
「無限に描けるってことは・・・。」
「孫子では、極めつくすことができないと書かれている。つまり、投資の勉強についても、極め尽くせない。つまり、終わりがないと言うこと。更に言えば、正解がないってこと。」
「正解が無いってどういうことですか??」
よろずのの言い方に、遥香はついて行けなかった。
正解があるからこそ解けるのだというのが、一般的な常識だ。
「それはね。研究し続けたら、これだっ!!っていう答えに辿り着くと考えてるでしょ。」
「そうですね。答えが無かったら、研究しても意味が無いですよね。」
遥香が言う。
「その答えが無い。」
「答えが無いのなら、研究しても意味が無いですよね。」
「そう考えるでしょ。だから、最初の話のY=X+Zに戻るんだよ。」
「場合分けですよね。」
「まぁ、さっきはそういう言い方をしたけど、今は違って、研究し続ければ、正解には辿り着けないけど、正解には無限に近づくことができるってことだから、無意味じゃないんだよ。」
「無いものに、無限に近づくことが出来るのは、意味が分からないです。」
真顔で遥香が言う。
「正解って、決まったもの、固定されたものでしょ。固定されずに絶えず微妙に動いていたら、定まらずに正解にならない。でも、そこに近づくことはできる。」
「あー、なるほど。そういうことなんだ・・・。」
「だから、正解に無限に近づくために研究する。でも、正解には絶対に行き着けないから、投資法に関しては、断定的な言い方はできない。だから、オレが教えることは、今日この瞬間までの研究成果に過ぎない。もしかしたら、明日になったら180℃違うことを言うかもしれない。それは、今日と明日の経験の差がそうさせるんだよ。」
「なるほど。永遠と研究が続くんですね。」
「そう、極め尽くせないから、し続けるしかない。」
「投資がすごい世界だということが分かりました。だから、本気でやってみたいです。誰にも負けないような投資家になりたいです。」
「やり続けることに意味があるからね。」
笑顔で頷く遥香を見て、ちょっと嬉しくなるよろずのだった。
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