第17話 弟子、儲け率を知る

成功する投資法は、2種類しかない。

だから、この2種類以外の投資法で成功することはできないと、よろずのは考えている。

このことを前提とした場合に考えられる余地は、いかに効率良く、この2種類の投資法を運用することができるかにかかってくる。

世間一般に言われている投資法は、この2種類の投資法を、効率良く実行する段階で分派したものだというのがよろずのの見解となる。



「それであたしは、どっちの投資法を選べば良いんですか?」


遥香から、当たり前の質問が出た。

2つしか無いと言われれば、誰もが2者択一を迫られていると考える。

が、よろずののの口からは、予想外の回答が出てきた。


「別にどっちでも良いよ。それに、今決める必要も無いからね。」

「そうなんですか!?」

「うん、別に急がなくていいよ。」

「へぇ~・・・・。」


なんか納得いかないような雰囲気が、遥香にはあることをよろずのは感じ取った。



そこで、よろずのは説明を付け加えた。


「例えば損切り投資をやると決めても、実際にその手法を選ぶとなると千差万別ある。その千差万別ある手法の中から自分に合った投資法をいかに見つけるかが、成功への道と考えていい。そして、見つけるためには、どうしても戻り待ち投資の知識も必要になる。だから、両方学ばないといけないから、直ぐに決める必要は無いと言ったんだ。」

「うーん。例えば、その千差万別ある投資法の中の一つだけを選んで私に教えてくださいって言ったら、直ぐに教えて貰えますか??」


よろずのには、遥香の言わんとしていることが分かった。

遥香は投資の経験が無いので、多くの投資法が存在しているという事実を理解できないのだ。

楽器をやってきた遥香にとって、演奏方法に千差万別は無いのだろう。

ある程度の決まりがあるべきであり、投資の世界でもそういうものだと考えているに違いない。

だから、その違いを、一つの手法を知ることで確認したいのだろう。



よろずのは、遥香の意思をこう考えて、敢えて教えることにした。


「分かった、教えるよ。」

「今のあたしでも十分理解できますか??」

「分かるヤツを教える。」

「じゃ、お願いします。」

「あっ、あたしも!!」


神妙な顔つきをしている遥香の横から、急に結衣が飛び出してきた。


「課長には、前に教えている方法です。」

「あっ、そう・・・・。」


急に興味を無くした結衣だった。

『やっぱ、邪魔する・・・・』とよろずのは思ったが、敢えて口には出さなかった。



「最も簡単だと思う損切り投資は、三本以上陰線が続いた後に陽線が出たら買い。その後、陽線が続く間は持続して、陰線が出たら売る。」

「・・・・・売るっと。」


遥香は小声で復唱しつつ、ノートに書き映していた。

そして、よろずのの言葉が途切れたので、次を催促するような目つきで顔を上げた。


「以上。」

「いじょう・・・って、えっ!?」

「だから、以上なんだよ。」

「これだけ??」

「これだけだよ。」


当然ながら、遥香は目を丸くして驚いた。

こんな一言が本当に投資法だったら、習う必要なんか無い。

そもそも誰でも簡単に出来ると思った。



「いいかい。これが基本形で、ここから儲け率を高めるための作業が始まる。この作業が大変であり、重要なんだよ。」

「儲け率って・・・・。」

「勝率と言っちゃうと、都度都度の投資の勝敗ばかりを考えてしまうでしょ。でも、投資は勝率ではないから、儲け率と言ったんだ。」

「なるほど。」

「だから、ここから儲け率を上げる為に、色々と試行錯誤して、分析することが必要になる。この分析するためには、知識が必要になるわけ。」

「そっかぁ~。そうだよね。だから、戻り待ちの知識も要るのか・・・・。」


察しの良い遥香。

こういう察しの良い生徒は、教えるのに苦労はしない。



「そうだよ。ただ、絶対に忘れてはいけないことがある。」

「絶対に・・・、はい。」

「それは、儲け率って儲け易さってことになるんだけど、儲けやすさを追求する余り、さっき言った2つの投資法で禁じられている手法でやってしまうことがある。」

「はぁ・・・・。」

「最初に言ったけど、儲け続けるためにはあの2種類しかない。でも、その時、一瞬だけ儲けるなら、他にいくらでも方法がある。ただ、続かないだけ。そのことを失念するから、みんな途中で居なくなる。」

「なるほど。」

「だから、研究を続けていくうちに、この2種類の方法以外の罠に落ちないように、最初に言ったわけ。」

「分かりました。損切り投資と戻り待ち投資以外はやりません。」


元気に笑顔で答える遥香だった。

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