第15話 弟子、損切り投資を詳しく知る

損切り投資は、損切り、つまり損をした段階で直ぐに撤退する投資法のことを言う。

だから、損切りと言えば、小さくても損をすることだと考えている人も多い。

しかし、よろずのが言うところの損切りは、損をする前に売ることを心掛ける投資を意味する。

損をする前に売るなどという理想的なことができるのか・・・。

実は、できるし、そんな難しいことではない。

それは、銘柄を買うというより、銘柄の動きに乗っかるという感覚で参加したら良いのだ。

銘柄それぞれが持っている騰がる動きを利用して利益を出す。

これが、損切り投資の基本となる。

勢い良く騰がっている銘柄を探して、その動きに乗っかる。

そして、銘柄の動きが弱まったところ、鈍ったところで、撤退する。

そうすれば、損はしないで切れるという行動がとれる。

言葉で言えば簡単なのだが、実際に言葉通りに動こうと思っても動けない投資家が多い。

これはやはり、相場自体を固定的に観る癖がついてしまっているからだ。



「はぁ・・・、なるほど。騰がる動きが鈍ったところで切るんですか・・・。」


遥香が頷きながら言う。


「そう、だから、騰がる動きを捕まえる能力が無いと、そもそも損切り投資というものは出来ない。」

「騰がる動きって、こうチャートが騰がっているヤツですよね。」

「そうだよ。」

「それなら、簡単そうに思うんだけど・・・難しい???」


結衣の顔を見ながら遥香が言う。



よろずのの説明を聞いていると、遥香には何が難しいのかが分からなくなってきた。

そのあたりの心の変化を表情から見て取ったのか、結衣は遥香に軽く注意を促した。


「ハル!!簡単に、簡単そうなんて言うんじゃないの。簡単そうに見えるけど、簡単じゃないんだからね。」

「どうして簡単そうなのに、簡単じゃないの!?」

「それは、実際にやってみると、騰がってるか、下がってるかの見分けがつかないからよ。」

「騰がってるか、下がってるかの見分けがつかないって。それこそ分からないんだけど。」


結衣に言われて、遥香の疑問は更に深まってしまった。

騰がってるか、下がってるか、正反対のことの判別がつかないと言われて、全く意味が分からなかった。

だから、心のままを遥香が言うと、なぜかよろずのも遥香に乗っかって来た。



「そうだよね。騰がってると下がってるって一目で違いが分かると思うんだけどね。」

「ですよね。」


よろずのに言われて、頷く遥香。


「どうしてそういうことを言うのかな!?分からないということを、あたしに教えてくれたのは誰かな!?」


結衣が引きつった笑顔のままよろずの対して、優しく言う。

実は、こういう表情の時の結衣は怖い。

結衣が、本気で怒っているときは、なぜか笑う。

だからよろずのは、ちょっとからかい過ぎたと反省し、急いで結衣をおちょくるのを止めた。

そして、まじめに遥香に説明し始めた。



「ま、あれだね。一方的に騰がる動きだけってことは無いんだよ。多くの場合、騰がる動きの中に下がる動きがあるから分からなくなるんだよね。」

「騰がる動きの中に下がる動きがあるって、どういうことですか!?」


遥香が聞く。


「ほら、3歩進んで2歩下がるという歌詞があるでしょ。最初の3歩進んでいるところだけを見れば、前に進んでいることに疑いようがない。でも、2歩下がっているところだけを見れば、後ろに下がっていることに疑いようがない。動く前と、動いた後だけ見れば、たった1歩だけ進んだんだと思う。」

「はぁ、そうですね。」

「でも実際は、3歩進んで2歩下がってるから、5歩動いた訳でしょ。つまり、同じ一連の動きでも、どのタイミングを見るかによって、印象は大きく変わってしまう。多くの投資家は、こういう相場の動きがもたらす印象を基準にして売買をしようとするから、騰がっているのか、下がっているのか分からなくなる。」

「難しいですね。分かったような、分からないような・・・・。それなら、具体的にあたしはどうしたら良いんですか??」


よろずのの説明を聞いても、遥香はなかなか納得できないようだった。



「それは、目的のところで説明したように、投資期間を重視することだよ。銘柄の動きのどの部分を切り取るかで、同じ日に、同じ銘柄で投資しても、結果は大きく異なるからね。」

「そっかぁ~~。」

「こういうことで損切り投資をやろうとするなら、銘柄の動きというか、勢い、流れを見極められないといけないことになる。」

「なるほどぉ~。分かりました。」

「じゃ、どういう風に理解したか言ってみて。」

「損切り投資は、銘柄の買われているという動きに乗っかるってことだから、出来高に注意するってことですよね。」

「うん、まぁ、そうだね。」


遥香の口から出来高という言葉が出てきて、遥香が勉強してきたことを、よろずのは改めて実感した。

しかし、必ずしも出来高を見れば分かるという訳ではないことを、今の段階で言うべきかどうか悩んだ末、後で言うことにしたよろずのだった。

せっかく勉強してきたことを直ぐに否定しては、遥香自身のヤル気を阻害してしまうかもしれないと思ったからだった。

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