第8話いつの間にか私の胸には

明日には、長期休暇である夏休みに突入する。ようするに金曜日だ。

あの日以降、私は葛藤していた。

あの日の二人だけの更衣室で──起きた出来事を灯莉の吐息や身体に触れられた感触を感知すると鮮明に呼び起こされることは明白だった。

身体が徐々に熱を持ち始め、火照りだし思考が鈍る感覚に陥ることを──彼女との接触を避けていたが、いつの間にか彼女との接触を避け始めるとある感情が胸に浮かび、漂い始めたのを感じるようになった。


もどかしい──というのか、彼女と話せない現状に苦しさを覚えるようになっていた。彼女のことがぽつりぽつり浮かび始め、趣味でさえ手につかなくなっていた。

灯莉を──求めるようになっていた。


彼女を避けてたくせに、彼女を遠ざけようとしてたのに──身勝手ながら、灯莉といれない現状に苦しみを感じてしまっていた。


LHRを終えた放課後の教室は賑やかさを取り戻し、クラスメート達は夏休みが始まったことに浮かれていた。


廊下をとぼとぼ歩いている灯莉の後ろ姿を見掛け、呼び止めようとしたが聞き入れてくれないだろうと追い掛けることにした。


彼女に追いつき手首を掴んだ瞬間、いつもより冷たいと感じてしまうほどに手に伝わる体温が低かった。


「灯莉っ、私は灯莉が隣にいてくれないとダメだった。長い間待たせてごめん、苦しい想いを......いっぱい傷付けてごめんっ!だからっ一緒に......帰ってくれないかな?灯莉」


胸の内に溜まっていた全ての感情や想い──を吐き出し、彼女の返答を待った。


俯いていた顔をゆっくり上げ、満面の笑み──ではなく、表現しにくい表情のままはにかみ、こう返答した灯莉。


「待ってた、よ......私も芽愛が隣に居ないと生きれないから。良かった、ありがとう......芽愛ぃ」


泣きながら、優しく温かい抱擁をしてきた灯莉に返事をするように抱き締め返した私だった。


泣き腫らした私達は、笑顔を浮かべながら和気藹々と下校した。



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