第8話「激突」

 「おわッ!」

 

 当たればひとたまりもない戦闘斧の一撃を躱す。

 

 間髪入れずにまた次の一撃。

 

 反撃する隙を与えてもらえない見事なコンビネーション攻撃を見せるオーク。

 この連撃に救いがあるとするならば予備動作が遅い事と動きが単調で読みやすい事くらいか。


 一対一ならまず間違いなく勝てる雑魚だが残念な事に息のあった敵が三匹もいらっしゃる。

 オレの実力ではリスクを取った立ち回りをしないとこの状況の打破は難しいだろう。

 まったくこのザマは戦闘というよりスリリングな曲芸に近いのかもしれない。


 「カカカ、オマエ、ナカナカ、タノシマセテクレル」

 

 「……チッ、舐めやがって」

 

 オークは総数10匹。


 リーダー格だと思われるオークはその場を動かず、9匹の下っ端オークがオレとメリィとライラに対し三匹ずつに別れて行動し、それぞれが少し離れた場所で戦っている。

 混戦を避けて絶対的な数的有利を取る行動する辺り、馬鹿なりに知恵があるのが厄介だ。


 こんな時改めて痛感する事がある。

 オレのスキル『天邪鬼』はスキル持ちの敵に対し絶大な効果を発揮するが、こういうスキルを持たない敵に対しては有効打が圧倒的に不足している。


 「だが、オレだって! やるときゃやる」


 リスクを取る覚悟を決めたオレは一匹のオークをターゲットに接近戦をしかける。

 これまで戦闘斧の射程外でのらりくらりと攻撃を躱していた人間が自ら近づいてくる事にオークは歓喜し醜く顔を歪ませ笑う。


 「ゲゲゲッ、バカメ、ミズカラ、コロサレニ、クルトハ」


 オークは天高く斧を振りかぶる。

 

 「オワリダ」


 「お前がな!!」


 ヤツの動作から考えると次の一手は間違いなく振り下ろし攻撃。

 それが分かれば、前にライラにやられたチョン避けで同じように躱せる――。


 ――シュン、と空を切る音と共に隣に斧が通過する。


 一瞬心臓が止まりかけたが読み通り。


 「今だッ!!」


 斧が地面に突き刺さり、前屈みの姿勢になった隙だらけのオークの喉元に一閃。

 切られた喉元から血が吹き上がりオークは絶命しその場に倒れこむ。


 攻撃こそ最大の防御か。

 他のオークはこいつに接近している間一切攻撃してこなかった。

 気が付いたんだ、やはり奴ら同士討ちを避け互いに一定の距離を開けて立ち回っていた事に。

 

 つまりお前らの敗因は馬鹿なりに中途半端に頭が回る事だ。


 「後二匹か……対処法が分かれば大分楽にいけるな」





 「――ほうサクのやつ……私の受け売りみたいな事を、可愛い奴め」


 「ゴオオオオオ!!」

 

 「ガアアアアアアア!!」


 「ハアア!!」


 サクの戦闘を興味深げに観察するライラにオークの三つの斧が同時に迫る。

 

 ライラはその斧に一切見向きもせず、その場から殆ど動く事なく敵の同時攻撃を完全に躱しきった。


 「ガッガガッ!?」


 「ゼェゼェ……ナン、ダ、コイツ、ゼェ……コウ、ゲキ、アタラナイ」


 先程からずっとこの調子でライラを取り囲む三匹のオークの攻撃は悉く通用せず、いとも容易く最低限の動きで躱す圧倒的格上の存在を前に戦意喪失寸前の状態になっている。

 

 そんな絶望を抱えたオーク達の事などまるで眼中に無いライラの視線はサクとメリィの心配にしか向けられてはいなかった。


 「メリィが二匹そしてサクがようやく一匹か……おーいそろそろ出張った方がいいんじゃない? ハイオークさん?」


 ライラは小高い丘の上から胡坐をかいて戦闘を眺めていたリーダー格のオークに声をかけたが返答は無い。


 「ふん、強情なやつね……引きずり出すか」


 ――ライラは超スピードで正面にいたのオークの懐に潜り込み、鎧に大穴を開けるジャブを腹に叩き込んだ。


 「グェ!!!」


 そのまま倒したオークの戦闘斧を分捕り、残り二匹を一瞬で両断、そのままその斧を片手でぶん投げオレの相手をしていたオーク一匹の頭に突き刺した。

 ここまでの時間がほんの数秒、まさに秒殺である。


 「ヒエッ……バッ、バケモノーーー!!!!」


 オレとメリィの相手をしていた最後の二匹がほぼ同時に背を向け逃げていこうとしたその時――。


 ――オーク二匹の首が同時に切断され周囲に生臭い血の雨が降り注いだ。


 「……バカモノドモメ、ハイソウハ、オレガユルサン」


 「やっとお出ましか――いい? サク、メリィこいつは貴方達の獲物よ」


 「……おっ? おう」


 ――目の前に現れたこいつは近くで見るとさっきまでのやつとの違いがよく分かる。

 さっきまで戦ってたオークは厚い毛と脂肪に覆われた典型的な太ったパワー系みたいなやつらだった。

 

 だが、こいつはオークと思えない鍛え上げられて引き締まった強靭な肉体を持っている。

 

 勲章の様にあちこちに刻まれた古傷、誰かと同じで両手斧を片手で楽々持つ筋力、鎧を装備せず防御を捨て速さを選ぶ自信――こいつは間違いなく強いと風貌だけで分かる。


 「まったくライラ様は私とサク様を随分と無茶させる……ですがこれしきの障害、軽く超えて見せましょう――」


 メリィはいつになくやる気の様で手のひらに拳をぶつけ気合を入れる。

 その目に恐怖は無く、逆に強敵との戦いを楽しみにしている様にも見える。


 「不思議な感覚だこいつは強ェハズなのに――オレ達ならこいつに勝てる……そんな気しかしねぇのはなんでだろうな、メリィ」


 (正直危なくなったらライラが何とかしてくれそうっていう安心感があるのかもしれないけどな。)


 ハイオークとの戦いは静寂から始まった。

 互いに距離を取り合い動かない、いや動けないといった方が正しい。

 

 隙を見せれば殺られる。


 「――ウゴカヌナラ、コチラカラ、イクゾ!!」


 痺れを切らしたハイオークが動く。

 

 狙いは――。

 

 「メリィ!!!!」


 「はい!!!!!!!!!!!」


 ハイオークとメリィの両者一歩も引かぬ激しい拳の激突。

 その衝撃で地面は大きく陥没し亀裂が入り周囲には暴風が吹き荒れた――。

 

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世界を救わない叛逆の天邪鬼 yyk @yyk__

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