第7話「会敵」
「本当にいいのか? 町まで送っていかなくて」
キタハシ邸の外で団長はオレ達に心配そうに問いかける。
「私達なら大丈夫だ、団長殿達は引き続きサロークの守護を、それに今の状況で我々がサロークに戻る訳にはいかないだろう?」
少し前、ライラはオレ達に一つの提案をした。
団長達と一緒にサロークには戻らず、反対方向の町カナマに行こうと。
たしかにわざわざ魔人に襲われたサロークに引き返すのは阿保らしいし、その提案に反対するものはいなかったのだが団長の表情は固い。
「……よりによって山岳地域カナマというのはあまりお勧め出来たものでもないな」
「団長は何故そう思う?」
転生者のオレはこの世界の地理には詳しく無いため当然の疑問をぶつけた。
「ふむそうだな、まず第一あの町に行くには草木も殆ど生えない険しい山道を通る必要がある、そして厳しい環境に適応した強力な魔物ども、おまけにカナマの町自体も山賊やゴロツキが出入りする治安の悪さ……剣姫ライラの様な強者ならいざ知れず新米冒険者が不用意に近づくべき所ではないな」
「まじかよ……おいおいなんでそんなやべぇ所に行くんだよライラ」
団長がライラの意見に否定的だった理由が一発で分かる内容を聞いて、少しビビっているオレにライラはポンと肩に手を置き肩の力を抜くように促す。
「だからこそだ、荒療治にはなるが今更その辺のゴブリン1000匹狩った所で彼女らが魔人と戦えるレベルには程遠いだろう、それに急がば突っ切れという諺が私の故郷には存在していた」
「……回れなんですけど」
「しっ、サク、黙っていろ」
団長は呆れ顔でオレとライラの会話に耳を傾けていた。
「はぁ、確かにその通りかもしれん……がしかし民を守る兵士の本音としてはそんな無茶はしないで欲しいのだがな」
「心配するな団長殿こいつらはそう簡単に死にはせんしさせるつもりはない、それに危険地帯だからこそ魔人といえども近寄りがたい場所である関係上隠れ蓑にもなるし……それだけじゃないなによりカナマには私の仲間がいるのだ」
剣姫ライラの仲間というワードに団長の眉がピクリと動く。
メリィも予想外の言葉に少し驚いている様子だ。
「……成程、その仲間に危険を冒して会いに行く価値があるという事だな? どっちにしろ私が口を挟んだ所で決心は変わらぬか……いいだろう君達とはここで一時の別れだ、再会の時を楽しみにしておこう」
団長はオレ達ひとりひとりと固く握手を交わし、ドレイク達の待つ馬車の方へ歩いていく。
オレ達は馬車に乗り込み去っていく団長達に手を振り別れを済ませた。
そして目的の町カナマへと向かう歩みを進めた。
「……今日はここで夜営にしよう」
――キタハシ邸出発から、約半日。
目的の町カナマにたどり着く為に越えなければならない山の麓に位置した比較的見晴らしのいい場所で火を焚き休息を取ることになった。
「つっっっっっかれた……もう動けん」
オレは何かの干し肉と萎れたリンゴの様な果実を齧りながら不満を漏らした。
キタハシ邸周辺は領主のおわす場所という事もあり綺麗に整備された林道が続いていたのだが……。
その道を一歩外れた瞬間、代り映えの一切無いゴロゴロした岩が転がる足場の悪い荒れ地がひたすら広がっているという絶望のハイキングを半日やるという地獄。
普段運動などしないオレはおろかメリィでさえ顔には疲れの色が見えていた。
「……こんな程度でへこたれるなんて本当に君達が魔人を退けたのか疑問になるな」
バテバテのテンションの低いオレ達と違い、ライラは一切疲れていないご様子でいつもと変わらないテンションで話しかけてくる。
本当に人間か? この人。
「そんな事言われたって屋敷でぬくぬく過ごしてたオレ達はこんなキツイ経験したことないの! な? メリィ?」
「私も主人に仕える身故、屋敷を離れて道なき道を長距離歩いたのは初めての経験で……流石に疲れました」
疲労困憊のオレ達を見て、笑うライラ。
何故だろうこの笑いには悪意が感じ取れる。
いやな予感がする。
それから30分ほど経っただろうか?
風が止み、何もない時間が過ぎ退屈で眠りにつきそうなったオレ達にライラが突然口を開いた。
「疲れている所悪いが君達、どうやら眠りにつくのはまだ早いみたいだぞー」
「ん?」
ライラの芝居がかった棒読みに違和感を感じる。
これは絶対何かある。
「あららーあれを見ろ、あんな所に焚火を見つけた悪い魔物が見えるこれはやばいぞーー」
ライラが指差した先には十匹程度の錆びれて傷だらけの鎧を纏い武器を持った歴戦のオークの群れ。
「おい、ライラあんたこれが分かってて――」
さぁ? ととぼけるライラ。
鬼だこの人、やっぱり人間じゃねぇ!!
「ゲヒヒヒ、コンナミツカルバショデ、タキビ、カネダシタラ、ミノガシテヤル、ニンゲンタチ」
他のオークよりも特に古傷が目立つリーダー格のオークが下手くそな人語で投降を促してくるがそんなもんに乗るような人間は恐らくいないだろうよ。
しょうがねぇとオレは立ち上がり短剣を構える。
それに追従しメリィも立ち上がる。
「オレ達の休息の邪魔しやがってその罪は重いぜ……豚共が加工してハムにしてやろうか?」
オレはオークの群れに睨みを利かせ戦う意思を見せた。
それを見てオークも武器を構え、戦闘態勢を取る。
――こうしてオレ達とオークとの戦闘が始まった。
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