第2話「初勝利」

 雲が再び月を隠し闇の世界が広がってなお不気味に光を放つ魔人の紅瞳スカーレットアイ

 その瞳を閉じた瞬間、闇夜に敵の姿が消え、一瞬でオレの間合いに詰め寄ってきた。

 

 疾いッ!! 


 「……くッ!」


 ――キンッ!

 高い金属音と火花が散りオレが何とか反応して構えていた護身用のナイフが遥か後方へと飛んでいく。


 「どうした? 君の力はそんなものじゃないだろう?」


 この一瞬の攻防でオレは普通に戦えばこいつには勝てないと分からされた気がした。

 

 ――畜生畜生畜生強いッ! 強すぎる。

 

 破壊の魔人シアン。

 こいつはヤベェ、自らを魔人と名乗っているただの変人てわけじゃないな。

 

 いやこんな時こそ冷静に立ち回れ。

 熱くなればなるほど戦いには負けるFPSで学んだ知識だ。

 まずは隙を作る。


 「……いや、オレの能力は殆ど最低値こんなもんさ、それより強えなアンタどんな鍛え方したらそんなハチャメチャに強くなるのかオレに教えてほしいくらいだ、なぁなんかあるんだろう?」

 

 「……生憎だが会話を引き延ばして距離を取ろうとするのは無しだ――よッ!」


 「うおっ!!」

 

 シアンの突きをすんでの所で躱す、いや躱せるように仕向けられたか――。

 躱した先に回し蹴りを合わせられオレの脇腹にクリーンヒットした。


 「グエッ!!」

 

 蹴りで吹き飛ばされたオレはその場にうずくまる。

 

 痛ッ痛エッ……痛……くない!?

 

 どういう事だ? 手加減されたか? いやそんなはずは?

 まぁいいこのままの状態で次の動きを待ち、奇襲する。

 とりあえず今はそれが最善手。


 「今ので君のアバラは破壊されたはずだ、もう起き上がれない君はピンチってわけだ……ん?」


 シアンはオレに止めを刺す為の歩みをピタッと止める。

 鋭い奴だ、油断の欠片もない。

 

 スッっとオレは立ち上がる。

 その姿にシアンは興味深げにオレに尋ねた。


 「ふむ、どうやら君は中々珍しいスキルを持っているようだ、再生系? 不死系? かは分かりかねるが攻撃や防御が点でダメなのは納得がいったよ回復特化って所かな」


 「……バレちまったか概ねアンタの予想どおりだ、残念ながらオレに一発逆転の望みは無くなったがアンタの勝利の望みも薄い――それに時間が経てば経つほど不利になるのはアンタだと思うぜ」


 「確かにね、町はずれとはいえこんだけ派手に暴れたら数時間後には騒ぎを聞きつけた衛兵なんかが駆けつけてくる可能性は高い――」


 ――繋がったッッ! オレの最後の逆転の目、実はある。

 さっきの会話はブラフ、あと一歩最後の詰めさえ間違わなければこの化け物に一矢報える。


 しかし焦るな。

 ここは待ち。

 勝利の為の最後のピースを引き出すぞ。


 「……こほん、アンタは自信があり過ぎるのさワザワザ『破壊の魔人』だなんてスキルをバラしてるも同然じゃないか、そんなスキルじゃオレは打ち破れねぇ……タイムアップまでオレが攻撃を全部防ぎきるだけの話さ」


 「見え透いた挑発だね、それに私はちょっとした有名人でね、私のスキルは既に多くの者に知られている……だから隠す必要ないのさ」


 ふん、バカめが。

 なるほどやはりこいつのスキルは破壊に関係があるスキル――なら賭けにでる価値はある!

 

 テメェのご自慢のスキルが『破壊』のスキルならそれを『再生』のスキルに逆転してしまえばいいッッ!!!!!!!


 「過去にも回復系のスキル持ち相手に何度もやり合った……対処法は簡単、再生が追い付かない程に破壊してあげれば良いだけの話さ、不死でもないなら私の勝ちだよ」


 「こい! 残念ながらオレはアンタから逃げも隠れも出来ねぇ! 受けきってやるぜアンタの攻撃!!!!」


 オレはどっしりと腰を構えシアンに向かい合う。

 

 緊張で額から汗がどっと流れ落ちた。

 相対すシアンは至って冷静な表情を崩さない。

 だがさっきまでまるで感じなかった強烈な殺気が感じ取れた。

 

 「――もう一度聞こう……選択権をやるデッドオアアライブだ、君はこの世界に転生して早々無駄死にするのかそれとも私と共に新たな世界へと歩みを進めるか」


 「オレはどっちも選ばねぇ、アンタに勝つ」

 

 「分からず屋め、ならばせめて痛みも感じぬよう冥府へと連れて行ってやるッ!」


 魔人シアンの攻撃の構えの瞬間、ヤツの表情が少し迷っているのをオレは見逃さなかった。


 その数秒後。


 ――凄まじい衝撃音と共に月を包んでいた雲が切り裂かれ大気を震わせるほどの殺気が込められたシアンの全力の一突きが防御することすら出来ぬまま一瞬でオレの心臓に突き刺さる。


 そして辺りには血の雨が降り足元には血溜まりが出来ていた。

 



 

 心臓を貫かれ大量出血により敗北。


 


 否、否、否ッ!! ――オレは生きている。

 

 読み通りッ! 敵の全力の破壊は逆にオレに力を与える再生へと逆転している。


 「――オレの勝ちだシアン」


 捕らえたッ!!!

 剣が突き刺さったままの状態でオレはシアンの両腕をガシッと鷲掴みにする。

 

 「こうなりゃ躱せねぇだろうが」


 「なっ!!」


 終始冷静だったシアンもこの状況には流石に驚いた表情を浮かべていた。

 

 そのわずかな動揺の隙にオレは渾身の頭突きをシアンに叩き込む。

 

 額が割れ血を流したのはオレだったんだけど……。


 「痛てて、おい、お前ここはオレがカッコよく決める所だろうが!」


 いやいやそんな事より。

 さっきの頭突きを誤魔化すようにオレは早口で喋りだす。


 「い……いいかよく聞け!!! お前の敗因は三つある、一つは『己の実力を過信した所』二つ目は『相手の能力を見誤った所』そして最後は――」


 「どうりゃああああああああああああああああああぁ!!!!!!」


 怒号と共に魔人シアンの肢体がくの字の状態で吹っ飛ばされ、装備していた鎧がバラバラに崩れ去る程の強烈な飛び膝蹴りが横から飛んできた。

 流石の魔人もこの痛恨の一撃には地面にキスしたまま起き上がることができずにいる。

 

 「――『仲間がいなかった』事ですねサク様」


 「はははその通り、ナイスタイミングだメリィ!!!」


 残念だったなシアン。

 お前はメリィがオレの超心強い仲間って事を知らなかった。


 ~~~~~~~


 名 前:カナヱメリィ


 レベル:20


 スキル:【】


 メリィの能力値


   H P: 150


 こうげき: 58


 ぼうぎょ: 15


  まほう: 30


 すばやさ: 22


 かしこさ: 18


  そうび:高級メイド服


 称号「Bランクメイド」


 ~~~~~~~

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