世界を救わない叛逆の天邪鬼
yyk
第1話「プロローグ」
深夜未明のコンビニ。
寝癖だらけの髪にジャージ姿で日課となっている漫画雑誌の立ち読みを終えて店を後にする。
やはりコンビニに立ち寄るのは深夜がいい、昼間は賑わい過ぎていて立ち読みするには不便だ。
「――それにしても相変わらず、つまらん漫画ばかりだ……」
とんでもなく厚かましい発言であると自分でも思っているが実際に『この世界』の漫画はつまらない。
内容はともかく掲載作品の大半は三話打ち切りでもおかしくないレベルのひどい絵か、もしくは写実的過ぎて漫画ではなく絵画を見ている気持ちになるような作品ばかりなのだから……。
それ故、オレみたいな現代人には非常につまらなく陳腐で面白くない漫画だと感じるのは必然か。
「まぁコンビニ、雑誌、漫画という概念が生まれたのはここ数年の出来事らしいし、仕方ないか」
どうやらコンビニをこの場所、ケイオス協商連合国のコラク領サローク。
通称冒険者の町と呼ばれるここにオープンしたのは『大商才』といういかにもなスキルを持った異世界人だそうだ。
同郷人のオレからするとすぐにピンときたわ。
こんな文明の遅れたファンタジー世界にコンビニだなんて、そりゃそうだろうなという感想しか出てこなかった。
「いやそんな事はどうでもいい! この巫山戯た世界に転生して約二か月……こんなんじゃ前の世界とそう変わりないじゃないか!」
というのもオレの異世界での二か月は基本暇で、こうして用もなく深夜のコンビニに立ち寄っては暇を潰し現状にブツブツと不満を言いながら帰路につく、これを繰り返し毎日を無駄に過ごす。
無意味で自堕落な生活、世界が変わって尚そこから抜け出せないでいる。
「ネガティブになるなー明日だ明日! 明日こそ何かすごい事を始めるぞ! ……うん」
オレが異世界でも何も変わらない日常の中、ふと思う。
さっきのコンビニを作った転生者とやらはスキルを駆使しつつとは思うが己の力で様々な地域を巡り販路を確保、学のある優秀な店員を数人雇用し、お世辞にも治安が良いとは言えないこの世界で24時間営業を行うシステムをゼロから作り上げる努力をしているのだ。
それはすごい事だと思う……いやまぁスキル使ってんだろうけど。
――人間の根本は死んでも変わらないそれを痛感する、オレは努力が嫌いだ、神により特別な力を持って生まれ変わればそれだけで幸せに生きられると思った。
今の所、楽に生きることは出来る。
でもそれは退屈でつまらない刺激のない人生であって幸せかと聞かれるとそうではないのかもしれない。
――この世界『超大陸ファンタズムその全人口の約1~5%』が特殊なスキルを持つ転生者。
正確な統計は無いもののかなりの数の転生者がいるのはまず間違いない。
異世界で自分だけが特殊能力持って無双できると思ったやつざまぁなんだがそれを言うとブーメランが飛んでくるのはご愛敬。
「だが転生者が多いからこそ、こんな未開な世界でも転生者を受け入れる環境があるのは皮肉だな」
と言うのもこの世界に初めてきた右も左も分からぬ異世界人は基本、保護の名目で現地の保護施設へと案内されるのが一般的なルールとなっているようで基本的に市民は異世界人に良心的だ。
もちろんただの慈善事業ではなく国にとって強力なスキルを持つ転生者を放置するよりも囲った方がメリットが大きいが故の損得勘定でそうなっている部分があるのだろうけど。
実際オレも事故って死んだかと思った次の瞬間、急に見ず知らずの町に投げ出され途方に暮れていた時に優しい僧侶のお姉さんに声を掛けられてこの町の施設に連れてこられた。
「あの施設、町の宿屋なんかより遥かに豪華なんだよなぁ」
かつては要人の接待に利用されていた町はずれにある豪華な屋敷が今は異世界人保護施設となっているそうで、つまりはそれだけ熱意を持って異世界人を手駒として手中に収めておきたいこの国の気持ちの表れだろうか。
施設と聞いて初めは馬小屋みたいなものを想像していたオレを良い意味で裏切ったのは記憶に新しい。
現在のオレはそこで一人のメイドと生活している。
このメイドがまた優しくて親切でオレの孤独で憔悴しかけていた心の支えになっているんだよな。
「……おかしいなそろそろ屋敷が見えてきてもいいんだが」
道に迷った? いやそんなわけはないコンビニから屋敷までは距離こそあれどほぼまっすぐの道のりで迷いようがないはずだが……。
――嫌な予感がする、自然と足が速くなる。
夜が濃くて前が見えなくなっているそんな訳でもなさそうだ……。
30分程走っただろうか?
本来なら屋敷が見えてもおかしくない距離。
「――ッツ!?」
目の前に見えた光景は無残に積み上げられた屋敷としての形を成していない瓦礫の山。
瓦礫の山に立つ一人の女性のシルエット。
雲が切れ月光に照らされハッキリと映し出されたのは長く美しい紅髪を持つ物憂げな表情を浮かべた鈍く輝く白銀の鎧を身に纏った女騎士の横顔。
そして少し離れた場所に倒れこんだ銀髪のメイドが一人。
「メリィ!!!!!」
オレはメイドの方に急いで駆け寄りそっと抱き抱える。
「大丈夫か? メリィ」
「……ウッ!」
――息はある、目立った外傷も特には見当たらない。
動けなくなる程度に攻撃を加えられているが命に別状はなさそうだ。
「そこのメイドは大丈夫だよ、少しおとなしくなってもらっただけ……それに悪いのはそっちの方だよ最初に手を出したのはそのメイドで私に彼女と戦う意思はなかった」
女騎士は月夜に怪しく光る紅の瞳をこちらに向け冷めた声で言い放つ。
まるで自分は悪くないとでも言いたげなその態度にオレは感情を露にする。
「で? 遺言はそれだけか? 自分が何してるか分かってんのかテメェ」
メリィはこの屋敷に仕えるメイドであり、この二か月付きっ切りでこの世界の事を何も知らないオレに全力で向き合ってくれていた付き合いはまだ短いが大切な友人だ。
というかほぼ引きこもり同然のオレにこの世界で優しくしてくれていたのはメリィだけであって。
そんな人を傷つけられて――これがキレずにいられるかよ。
「ちょっと待ちなよ――だから私は戦いに来たわけじゃない、ここにいるという異世界人に興味があってだね」
「嘘を吐くなよ……戦う意思がない? 屋敷を壊しそこにいたメイドを襲えば目当ての異世界人が向かってくることなんて百も承知だろうが」
女騎士はその発言に対し少しの笑みを浮かべ、ほんの数秒何か考え事をした後にゆっくりと口を開いた。
「なるほどなるほど、それはちょっと誤解だけど……まぁいい、ただ考え方が私と似ているな――フフッやはり思った通り君は私と同じ匂いがするようだ、どうだい?ここは私と――」
「バカタレ! オレは毎日高級シャンプー使ってんだぞテメェみてぇな血なまぐさそうな匂いがするわけねぇだろうが!!!! オレには分かってんだテメェ悪人面なんだよ」
「人の話は最後まで聞くものだ、それに人を見かけで判断するもんじゃないよ」
女騎士は軽くため息をつき、剣を構えた。
「……話をする気は無さそうだね」
「ッたりめぇだ」
騎士は哀れみとも悲しみともとれる暗い表情でこちらを見据える、それが何かオレの中で引っかかる。
だが今はそれどころじゃねえコイツは敵、どうやら見逃してくれそうもない。
「――分かった、少しだけ見せてもらおうか君の力を……始めるよ、我が名は破壊の魔人シアンいざ尋常に」
「いいぜ、アンタは負けるから無駄だと思うが一応騎士道に乗っ取ってオレの名前を教えといてやるオレはアマノサク!! 速攻で終わらせてやるッ」
――こうしてオレは魔人シアンと戦う事となった。
そしてこれは人生ってやつを変えるキッカケ、ようやく動き出す異世界での退屈しない毎日のプロローグだ。
勢いで戦う事になったがどうしよう…………オレ実戦経験ないや。
~~~~~~~
名 前:アマノサク
レベル:1
スキル:【天邪鬼】Lv1
サクの能力値
H P: 25
こうげき: 10
ぼうぎょ: 10
まほう: 7
すばやさ: 15
かしこさ: 99
そうび:上下ジャージ 1080円
:短剣
称号「なし」
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