第3話「家無し」
オレは弱キャラが好きだ。
オレは雨が好きだ。
オレは物陰が好きだ。
オレは少数派の味方だ。
オレは一人が好きだ。
オレは邪道が好きだ。
オレはひねくれ者だ。
――分かってるそれはオレが人生において輝けないから、才能がないから、努力しないから、目立つ事が出来ないから。
正面切って競争する事を避けて逃げて。
自分は人と違うと思い込む事で心の平静を保っているからに過ぎないのかもしれない。
それがダメな事であると嫌というほどに分かっていても、穢れがなかった心を徐々に黒く染めていこうともその信条を曲げる事に叶わなかった。
……いや、変わろうと努力しようと何かしようと足掻いた時には既に人生が詰んでいた気がする。
そんな残念なオレが死後の世界(……多分)で手にしたのは相手のスキルを反転するスキル『天邪鬼』。
正直その辺りの記憶は何か靄がかかっていてよく思い出せない部分が多い……。
――それにしても……全く、ひねくれ者のオレらしい最低で最高のスキルだぜ。
目が覚める。
「んんっ」
起きたばかりで目が霞んでよく見えない。
ただ…………人影が目の前にいるのは分かる。
オレに一体何をする気だ?
「えいっ!!!」
体に刺さっていた何かが勢いよく引き抜かれる感触。
「……グホッ!!」
カランカランと近くに何かが転がる音が響く。
そしてその後体にぽっかり空いた穴が閉じていく感覚、痛みはまるで感じなかった。
遅れて誰かの声が聞こえた。
「……様! ……です? ……か…………しっかりしてください!」
――目の前にいたのは銀髪の胸がデカい羨まけしからん見知った顔のメイド。
「メリィ」
オレは体を起こし、静かに潤んだ眼の彼女にそう言った。
「ふん! まったくサク様は私なんかの為に無茶しすぎですよ」
泣きそうになっていたかと思うと次は怒り出したみたいだ。
メリィは出会った当初から感情の起伏が激しかったんだよな。
「はははごめんなメリィ、思えばこの世界に来て戦闘といえばお前との模擬戦くらいしかやった事がないオレがカッコつけちまってよ」
ここは魔物蔓延る異世界。
故に弱肉強食。
自分の身を守る最低限の護身術は必修科目みたいなもんらしく、ここの屋敷で過ごす間たまに稽古をつけてもらっていたのだ。
まぁ戦った事なんてロクにない現代人のオレじゃあ手も足も出ずボロ負けだったんだけどね……。
「ほんとにもう何考えているんですかサク様は! そこらの低級魔物じゃないんですよ、魔人ですよ魔人!本当に危なかったんですから!」
メリィはオレを本気で心配しているからこそ叱ってくれているのだろう、耳が痛い。
「確かにな、この世界に来てたった二か月しか経ってない新参者が相手するレベルのやつじゃあなかったな」
「――まったくだ、本当に面白いね君は」
「……ッ!? なっ!!」
この声はッ!!
オレとメリィから少し離れた場所に魔人シアンが立っている!!
鎧こそボロボロに砕かれているが足取りはしっかりとしてさっきのダメージを物ともしていない様だ。
魔人は口に含んだ血を吐き捨てこちらに向き直る。
「ん~今回は私の負けって事で……うん、やはり君は殺すには惜しい存在だ」
「お前起き上がれなかったハズじゃ、それにその言い方だといつでも殺せるって言ってるみたいでチョームカつくんですケド」
オレの目線はシアンを睨みつけたまま今にもあいつに殴り掛かりに行きそうなメリィを制する。
「ふふふ、あんまりに盛り上がってたからね起き上がるタイミング失ってただけだよ……あーあと君は殺さない……君は私と似たもの同士、近い将来同じ道を歩む時が来るよ……きっとね」
「言ってろ! そんな日は来ない」
「そうかしら?――」
話の最中シアンの視線が一瞬遠くへと移る。
「――おやおやお早い出勤で、異世界人様はモテモテで困るね、騒がしいパーティが始まる前に私はお暇させてもらうよ」
魔人シアンはそう言い残し、さっきの戦闘で見せた以上の超スピードで姿をくらました。
野郎……さては本気を出していなかったな……。
「!? ま、待て!」
「いや、メリィもう遅い、それに追いかけた所で多分奴には勝てねぇ……それにこの後は衛兵の仕事だろうよ」
さっきまでは魔人とのやり取りに集中して気が付かなかったが、オレ達より少し離れた場所から装備を固めた兵士達がこちらを目指し土煙を上げ大慌てで向かっているのが見えた。
「ふぅ、取り敢えず一難は去ったか…………だが屋敷はメチャクチャこれからどうっすかなー」
オレは地べたに座ったまま空を見上げ、ため息交じりに呟いた。
~~~~~~~
名 前:破壊の魔人シアン
レベル:???
スキル:【???】
シアンの能力値
H P: ???
こうげき: ???
ぼうぎょ: ???
まほう: ???
すばやさ: ???
かしこさ: ???
そうび:魔人の鎧【銀】
:魔人の剣【銀】
称号「破壊の魔人」
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