第9話

【川内柚の手紙】


家族、警察の皆様へ

 対面で話せる自信がなかったので、文書にします。

 まず、虐められていたときの話をします。

 私は、陸部のみんな、クラスのみんなから虐められていました。主犯は、沼田波です。私の親友でした。

 最初は陸上部で虐められました。無視、仲間外れが主でした。身体的には傷つけられませんでしたが、精神的には、かなり傷つけられました。

 部活で、ペアになるときは、いつも一人ぼっち。下校する時も一人ぼっち。3人が横一列に並んで歩いていて、うちを入れされないように妨害するんです。でも、下校は部活ごとに一緒に帰らないといけないから、下校の時間は地獄でしたね。

 クラスでも虐められていました。あの人たち、うちに聞こえるように悪口言うんです。だんだん幻聴まで聴こえてきて、授業中もずっと悪口を言われているような気までしました。耳鳴りもひどかったです。

 もちろん、食欲もなくなりました。給食なんて、全く食べれませんでした。私たちの学校は、ランチボックスと言って、お弁当みたいになっているんですが、パンを残したときが大変なんです。残したパンはランチボックスに詰めないといけませんから。私の場合、パンは一口も喉を通らなかったので、まるまる残すことになり、ランチボックスに詰め込むのが大変でした。

 席なんて、めちゃ離されましたよ。見たら誰でも分かるくらい。

 ミルメークが出た時は必ず階段から振りかけられました。みかんを投げつけられたこともありました。

 唯一、昼休みだけが救いでした。大好きな本がたくさんある図書室に行けるんですから。本は好きで、一人で読んでいました。

 トイレはあんまり行きたくなかったですね。トイレに行くと、必ず誰かきて殴られるんです。お腹とか服で隠れるところを狙ってくるからタチ悪いですよね。お腹とか腿とか腕なんてアザだらけでした。

 なんで、こんな目に遭わなきゃいけないんだろう。うちは生きてる価値ないんだよね。生きててごめん。って何度思ったことか。毎日思っていました。死にたいって毎日思っていました。

 でも、親に心配かけたくなかったので、学校には休まず行きました。親にも虐められていたことは話していません。うちは、親のことが大好きです。世界で一番好きです。だからこそ、言えなかったんです。親の悲しんだ顔見たくなかったから。親には笑顔でいてほしかったから。私のこと、誇りに思ってほしかったから。親はうちにとって、大切な存在だったからこそ、言えなかった。


 沼田波のことは、恨んでいました。親友だったはずの人に裏切られたんですから、波とは、小学校のころから一緒で、いつも何をするにも一緒でした。

 なのに、こんな酷いことをするなんて。裏切り者は、死ねばいいのにって毎日思っていました。死んだら、このいじめもなくなる。そう信じていました。現に、沼田波がいなくなって、虐めはなくなりました。この呆気ない感じはなんなのか。

 でも、虐められたせいで、人間不信です。人を信じることは、まだ到底できそうにありません。しばらく時間がかかりそうです。いや、もう一生、人間のことは信じることはできなそうです。

 

 沼田波のことを殺したのは、うちだと思っている人が大半なようです。しかし、それは間違いです。

 たしかに、殺意はありました。でも、殺してはいません。これは本当です。信じてください。

 人間不信って言っている人間に信じてって言われても、できないですよね。

 でも、本当に殺していません。

 沼田波を殺したのは………


                 川内柚

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る