第8話

【陸上部の顧問の話】

 あの須美たちの怪我のことですか? あー、あれはね、結構きつい怪我でしたよ。

 柚がスパイクで刺しちゃってね。わざとではないですよ。わざとやって、刺せるほど簡単じゃないですから。

 柚は、自分のせいって知った瞬間、顔が曇っていました。当然ですよね。だから、僕は慰めましたよ。

「気にするな。そういうこともあるって。柚のスパイクが偶々当たっちゃっただけじゃん。ま、一緒に見学してあげたらいいんやない?」

って。

 怪我した日、須美と柚のお家に電話しようと思ったんです。全治3ヶ月の怪我だし、そういうのは家庭連絡しなきゃなので。

 でも、その日、僕の息子が38度の熱が出ちゃって。部活終わった後にその連絡がきたんです。だから、早く帰らなきゃだったから、電話できなかったんだよな。

 その代わり、須美と柚に親に今日のこと話すようにって言いましたよ。次の日、二人に聞いたら「話しました」って。だから、安心してました。

 いじめですか? そんな女子の友達関係なんて分かりませんよ。いじめがあってなんて、知らなかったです。

 波なんて、成績はあんまり良く無いけど、人柄は良いんですよ。話しやすいし。

 部活でも、波の周りにはいつも友達がいましたから、まさかいじめの主犯だったなんて。びっくりです。

 僕が生徒に虐められていた? たしかに嫌がらせは受けていましたね。口ごたえはするし、声はでかいし、暴力は振るってくるしで最悪な連中ですよ。あ、最悪な連中なんて教師が言っちゃダメですよね。

 彼らのせいで、僕は休むことが多くなりました。朝、目が覚めると起き上がれないんです。で、涙が出てくるんです。

 車に乗れたとしても、

「このまま、ガードレールにぶつかれば死ねるな」

 なんて、思うこともあります。憂鬱ですよ。

 学校に行けてもね、教室に入ろうとすると足が動かなくなるときあるんですよ。不思議ですよね。そのまま、教室に入れず、帰宅することもありました。

 白髪も増えたし。

 正直、教師なんて辞めたいです。

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