第5話
【三軍の子 瑠夏の話】
私なんて、お話できることないですよ。そもそも、三軍の私なんて、クラスにいる価値なんてないんですから。え? 柚がどんないじめを受けていたかって? そりゃあ、最悪最低ですよ。
最初は陸上部で始まったいじめらしいんです。それがいつの間にかクラスでもいじめられるようになって。
柚は、最初一軍にいました。波と仲が良かったんですから。それがなぜか急に一人ぼっちになって三軍に降格です。理由は分かりません。
いじめに気づいたのは、柚が一人ぼっちになり、柚の席が隣とかなり離れていたからです。普通、隣同士は席をくっつけるんですが、30センチくらい離されていました。席替えは自分たちで席を考えるのですが、あ、もちろん、一軍の子たちが決めるんですよ。「柚の席は誰の隣にする?」って、押し付け合いみたいになっていました。
そして、陰口の嵐です。陰口っていうよりも柚に聞こえるような声で言っていましたよ。
波ちゃんなんて、きつい言い方するし悪口言うし、にらんでくるしで、美人になんて思えなかったですよ。
先生は、気づいてなかったと思いますよ。何も対策していなかったので。あー、いじめアンケートはありましたけど、それって意味あるんですかね? いじめがそこで分かったところで、教師は動くんですかね? いじめアンケートやってるので、いじめなんて、何もありませんって、見せかけのアピールしてるだけにしか思えませんけどね。
あ、そういえばこんなことがありました。
ある日の昼休みになぜかクラスの女子全員でトランプをすることになったんです。いつもはこんなことしないのに。怪しいなとは思いましたよ。でも、波ちゃんがいたから、逆らえなかったんです。
トランプは、ババ抜きをしました。ババ抜きをする前に
「負けた人は罰ゲームね」
と波ちゃんが言いました。嫌な予感がしました。
ババ抜きをしている時、波ちゃんたちがヒソヒソ相談しているのが見えました。ニヤニヤしたむかつく表情。今でも忘れません。
案の定、柚が負けました。
「あらー、柚負けちゃったね。可哀想。でも、ルールだから罰ゲームしなきゃね」
「じゃあー、3年生の廊下をダッシュで走りなさい」
当時、私たちは1年生だったから、3年生の廊下を走るなんて考えられないことだった。それどころか、他の学年の廊下を歩くことさえ、躊躇される雰囲気だった。
私だったら、泣き出して、絶対走れなかった。
けど、柚はなぜか泣きもせず、無言で3年生の廊下を走った。
3年生は、いきなり1年女子が廊下をダッシュしていたので、何事かと教室から廊下を見ていた。
3年のバカっぽい腰パン男子は、
「俺たちに興味あんのー? 気を引きたいのー?」なんて、言ってたし、
「きもー。なにあいつー」
って、パンツ見えるくらいのスカート丈のギャルは、金髪に染めた巻髪を指でクルクルしながら、言ってた。
その間、波ちゃんたちは、勝ち誇ったような微笑を浮かべていた。
「悪魔だ」
私はそう思いました。
柚が走り終わった後、美記ちゃんが
「さすがに今のはやばくない?」
って言ってたけど、今更遅いだろって思いました。なんで終わってたから言うんだよって。いじめが発覚したときの、保険なんですかね? 私は波のこと止めましたよっていう言いがかりをしたいだけの。
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