第9話 絶対に振り返らない!
「ふぁ〜……おはよう…」
私は寝ぼけながらも、アルス様に挨拶した。
「おはよう。ペルちゃん」
アルス様達はもうとっくに起きていたようだ。
ドルグさんとサラさんはもう居ない。
夜更かしした所為か、起きた時間はお昼近くだ。
「お昼ご飯――いや、朝ごはん?…とにかくご飯食べたら帰ろうか」
私は頷き、アルス様とミラさんと3人で最後の食事をした。
――――――――――――――――――――
「準備できた?じゃあ行こうか」
私達はアルス様の家の門を出た。
数百メートル歩いたところで
「待てっ!」
ドルグさんの声がした。
――――――ドタドタドタドタ―――――
ドルグさんと一緒にたくさんの冒険者もついて来た。
40人近くはいるだろうか。
みんな顔が険しい。
「どうしたんだ?そんなに引き連れて」
アルス様が問いかける。
「………なぁアルス。お前は…知っていたのか?」
ドルグさんが、険しい表情のまま言った。
「何を?」
「……っ。ペルが…。魔族であり、大魔王グラトバークの娘だと言う事だっ!!」
ドルグさんが怒鳴った。
「「!!」」
アルス様とミラさんが驚いた表情をする。
「大魔王の娘とは知らなかったが、ペルちゃんが魔族だと言うことは知っていたよ。で、ドルグはどうやって知ったんだ?」
アルス様はドルグさんを睨み返した。
「今、王都で騒ぎになっている。大魔王グラトバークが人間の国に戦争をしようとしているのだからな!!しかもその原因が、娘が攫われたからだ!まさか…お前がその犯人だとは思わなかった」
ドルグさんは睨んだままこちらを見ていた。
「ペルに我の過去を話した時、ペルはどういう気持ちで聞いていたんだ?我が魔族を憎んでいる事、魔族を滅ぼす気でいると知っていて、お前は…ずっと我等を騙していたのか」
「そ…そんな…私は―――」
「黙れっ!!魔族の話など聞きたくない。お前は我が敵だ。悪いがお前ら、大人しく捕まってもらうぞ」
ドルグさんと冒険者達は武器を構えた。
数人の冒険者がこちらに向かって走ってくる。
《光の壁バリア》
ミラさんが私の前に広範囲の光の壁を張った。
向かってくる冒険者の剣を、アルス様が受け止めた。
「ペルちゃん!走れっ!この森をひたすら真っ直ぐ走れ!そうすればペルちゃんの故郷に着く」
アルス様が剣を受け止めながら叫んだ。
「で…でも…このままじゃ――」
そう。このまま私が戻れば戦争は回避できるかもしれない。
だが、私を攫った犯人として、アルス様がどうなるか分からない。
殺されてしまうかもしれない。
「いいからっ!早く逃げろ!走ったら…絶対にこっちを振り向くな!」
「……っ」
私は森の方へ全力で走った。
「……………グスッ」
涙が出てくる。
「ごめんな…ペルちゃん。送り届けるつもりが、こんな別れになってしまった」
アルスは呟いた。
「……だが!こいつらはペルちゃんの元には行かせない!!」
―――ガキーンッ――――
アルスは剣を弾き冒険者を吹っ飛ばした。
アルスとミラはペルセラーナが走っていった森の方を振り返り
「「さよなら…ペルちゃん…」」
小さく呟いたのだった。
―――――――――――――――――――
あれから1時間程走っただろうか、
「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」
泣きながら走っている所為か、息が上がってきた。
涙が止まらない。
私は走りながら、楽しかった思い出が頭に映像で浮かんでくる。
「――グスッ」
フラフラしながらも走り続ける。
私は後ろを振り返らない。
〔走ったら絶対に振り向くな〕
アルス様からの最後の言葉だ。
だから、絶対に振り返らない!
―――スルッ―――
角を隠していたリボンが解ける。
私の、思い出が詰まった1番の宝物だ。
取りに戻りたい…。
だが、私は振り返らず走り続けた。
アルス様の最後の言葉を守る為に。
――ガッ――ドサッ―――――
木の根に躓き、転んだ。
「はぁはぁはぁ」
だいぶ息が上がっている。
「――グスッ…うわぁぁぁあああああぁぁん―――」
ダメだった。
涙は流しても、泣き声だけは我慢していた。
でも…耐えられなかった…。
どんどん涙が溢れ出てくる。
「―――ゎぁぁぁぁああああああああああ―――」
私は魔族として5年、人間として7年過ごしている。
人間として過ごした期間の方が長い。
もう、人間に対する恐怖など全くない。
むしろ居心地が良かった。
だからこそ
〔魔族の話など聞きたくない。お前は我が敵〕
と言うドルグの言葉はグサッときた。
今まで共に過ごした7年間の関係が崩れたのだから。
「―――ぅゎぁぁあああああぁぁぁぁぁん」
もう…立てない。
力が入らない…。
泣き声も…抑えられない。
私はうつ伏せに倒れながら泣いていた。
ただひたすら――泣くことしか出来なかった。
涙は出尽くした…。
――――ここから先は…全く覚えていない。
私は気を失った。
魔王だって聖剣使ってもいいじゃない!〜聖剣と魔剣、二刀流で平和を目指します〜 VAN @VAN1011
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