第5話 もう1人の選ばれし者



3日目。


私達はドラゴンの巣から1km離れた所で休憩を取った。


「さて、作戦通り二手に分かれて捕まえよう。俺らを監視しているのは2人だけだ」


作戦はこうだ。


私とサラさん、ドルグさんはここで待機。


アルス様とミラさんは二手に分かれて二人組の背後にまわり捕らえる。万が一の為、逃げ場はここに着くよう誘導する。



アルス様達は森の奥に入っていった。


―――――バサッ――――


奥の方で草木が揺れる音がする。


数分後、二人組を捕らえたアルス様達が戻ってきた。


「こいつらは…Bランクの冒険者だ」

どうやらドルグさんはこの二人組を知っているらしい。


「……うっ……」

気を失っていた2人が起きた。


二人組は意識が朦朧としながら私達を見ていた。


「ゆ…許してくれっ!俺らはただ、頼まれただけなんだ」


二人組が慌てながら許しを請う。


「ほう、頼まれた、か。誰にだ?全て正直に話すなら許してやるよ」


ドルグさんが物凄い威圧感を放ちながら2人に問いかけた。


「は、はい。実は俺たち、リック様から勇者様を監視し、ドラゴンの巣に向かうよう仕向けろ…と」


二人組はガクガク震えながら答えた。


「リック…だと…。あの野郎、まだ…」

ドルグさんが拳を握り歯軋りをしていた。


「リックって誰ですか?」

どんな人だろう。私は気になって聞いてみた。



「俺の聖剣【エクスカリバー】を抜く事ができた、もう1人の選ばれし者だよ」


アレス様は苦い表情で言った。


「俺がエクスカリバーを抜いた後、ペルちゃんと同じ様にあの白い石に戻していた。俺が抜いた1ヶ月後に、エクスカリバーを抜く事ができたのがリックだ」


「え?てことはリックさんもエクスカリバーを使う事ができるんですか?」


私は疑問に思った事を聞いてみた。

ってことは、複数の人が聖剣と契約出来るということになるからだ。


「いや、リックはエクスカリバーを使う事はできない。俺が先に契約しちゃってるからね」


なるほど、じゃあリックさんはエクスカリバーを抜く事ができても契約はできない、ただの抜ける人ってだけなのか。



「今回のリックの目的は、アルスの殺害よ。アルスが死ねば、次契約出来るのは確実にリックだから」



「実はよく、手下を使い夜襲されてたんだよ。でも俺を殺す事はできなかった。だから痺れを切らし、今回の作戦に出たんだろうね」



5年間一緒に住んでいたが、全然分からなかった…。

たしかに、アルス様の部屋の窓はよく割れていた。

アルス様が一度も私と一緒に寝なかったのは、夜襲を警戒してのことだったのか。



「で、リックはこの先にいるのか?」

ドルグさんは二人組に問いかけた。


「はい。雇った他国の冒険者達と共に待ち構えてます」


「何人いる?」


「俺たちは詳しい話を聞いていませんが、おそらく20人はいるかと」


20人…かなりの大人数だ。

アルス様達は大丈夫だろうか?


「まぁいいわ。これでリック達を捕らえて、アルスへの夜襲が無くなるなら」


ミラさんは溜息を吐きながら言っていた。


「あなた達、一応このまま付いて来てもらうわよ」

ミラさんはそう言って、ロープで縛られた2人を立たせた。


立ち上がった2人をドルグさんが連れて行き、私達はドラゴンの巣に向かった。



――――――――――――――――――――


私達はドラゴンの巣に着いた。

もちろん、ドラゴンなんていない。


でも、話に聞いていた冒険者達もいなかった。


あれ?このまま何もなく終わり?


私が不思議に思っていると、


「ペルちゃん。私の近くから離れないでくださいね」


サラさんが私に小声で言った。


「来るぞ」


ドルグさんの言葉と同時に、森からゾロゾロと冒険者達が出てきた。


アルス様とドルグさんは剣を抜いて構えた。


アルス様は聖剣【エクスカリバー】

ドルグさんは右手に片手剣、左手に大きな盾


空気が一気に張り詰めた。



「リックがいないわね」

ミラさんが冒険者達の方を見て言った。


「隠れているんだろう…」

ドルグさんがそう呟き


「おい!リック!居るのは分かってる!隠れてないで出てこい!!」


大きな声で叫んだ。


―――ガサッ――ザッ――ザッ――


草木を掻き分け、こちらに歩いてくる音が聞こえる。



「久し振りだな。アルス」


リックと思われる男が、アルス様を睨みながら近づいてきた。



「久し振りだな。リック。散々せこい真似してくれたが、やっと堂々と姿を現してくれたか」


アルス様が応える。



「ぬかせ。俺より先に聖剣を抜いただけで、剣術も俺に劣る雑魚がっ…」


え?リックさんって、アルス様より剣術が上なの?

それに、聖剣を手にする前からアルス様とは面識があったのかな?


「お前ら。遠慮はいらない。やれ」


―――リックの言葉を合図に戦闘が開始した。

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