第11章 指輪の行方

 街路樹の大きなプラタナスの木々は、春だというのに、花どころかすっかりすべての葉を落としていた。要塞のように屋敷をぐるりと囲む高いレンガ造りの壁の向こう側にも、同じような木々が見えている。

 その中でもひときわ目を引く大きな木は、この国で起こった二度の戦火をも生き抜いてきたものだ。太く張り出した幹から、いくつもの枝が突き出ていて、まるで手の甲に張り巡らされた血管のように重なり、屋敷の窓に濃く暗い影を作っていた。

「まったく、厄介なことになりそうな匂いがプンプンするね」

 屋敷の正門から少し離れた位置に立って、しばらく屋敷の様子を見つめていたパトラの目線の先には、慌てた様子で正門から飛び出してきた影と、そこから遠くない場所でゆらゆらと動くもう一つの影があった。

 パトラはその様子を、遠くから聞こえてくる明るい声の大合唱に胸騒ぎを覚えながら見つめていた。正門から飛び出してきた影がハンナであることが判ると、パトラは安堵の溜息をひとつついて、再び正門の方に向かって歩き始めた。

「あ、パトラばあ様。今からレオの指輪贈呈の儀式に立ち会われるんですか。中はすごい人で、盛大なパーティです。私は、なんだか、気分が良くなくて、今から帰るところ……」

 ハンナの前まで来た時、その全身から漂う妖気が、これから行なおうとしていることへの警告のような気がして、パトラは一瞬立ち止まった。何かがハンナにとり憑いているのは明らかだった。強い《嫉妬》、《憎悪》と表現すれば簡単だが、それ以上の念の力だ。とり憑いたもの自体が、その念の正体を把握できていないのだろうと、パトラは全身で感じていた。

 その強烈な悪意のような感情を取り込まぬよう、パトラはハンナと目を合わせず、口を開くこともせず、細心の注意を払って心で呼び掛けた。パトラの予想通り、ハンナはパトラの心の呼びかけに気づき振り返った。パトラはハンナの心に『すぐに家に戻り、母親にこのことを伝えろ』とだけ告げ、屋敷へと入って行った。

 あの子は賢い子だ、きっとまっすぐ家に帰って言われた通りに母親に伝えるだろう。

 パトラは、走り去るハンナの後姿を目で追った後、もうひとつの影を探した。もうひとつの影はまだ同じところにあった。暗闇の中、大きな木の枝の上に奇妙なかたちの影が揺れている。

 しばらくするとその影は二つに分離した。小さな楕円形と大きな楕円形だ。バースデーソングは、いよいよ最後のフレーズになり、歌が終わると同時に大きな拍手の音と、クラッカーがはじける音、大きな声で今日の主役へのお祝いの言葉が飛び交っているのが聞こえていた。

「お誕生日おめでとう、レオ!」

 その大きな合唱のずいぶん前から、屋敷中の灯りは消えていた。蝋燭の火を吹き消すまでの演出かと誰もが思ったはずだ。が、最後の大合唱の後も、すぐにつくはずの灯りは灯らなかった。

 木の上にあったひとつの大きな影がするすると木から降りてくるのと対照的に、もう一つの影はゆらゆらと上へと登って行く。塀の外からその様子を見ていたパトラは、ハンナがさっき出て来ていた正門をくぐり、正面玄関へと向かった。

 黒い影は、あっという間に屋敷の玄関から中へと走って消えていった。もうひとつの上に登っていった影の先には、蜘蛛の巣のように張り巡らされた自家発電用の電線が見えている。

 非常用電源を付けろと誰かが叫ぶ声が聞こえた後、空から微かに焦げたような匂いがして、妙な音が聞こえた。クラッカーの残りが割れる音かとパトラは思ったが、どうやら違うようだ。

 数秒後、屋敷の玄関から小さな影が勢いよく飛び出して来て、玄関前にいたパトラとぶつかりかけた。パトラは誰かが出てくるのは想定内の出来事だったかのように、ふわりと紫のマントを広げて後ろに一歩下がった。

「来てくれてありがとう。パトラばあ様」

「話は後だ」

「うん。こっち」

 屋敷の中では、人々がざわつき始めている気配がしていた。パトラは、真っ暗になっている屋敷にちらりと目をやってから、小さな影の後ろについて暗闇を進んだ。

「僕ね、今朝から何回も廊下を走って、少しでも早く走る練習してたんだ。さっきは今までで一番うまくいった。入り口の花瓶がすごい邪魔だったけど」

 前を歩く影は、自慢げにパトラにそう告げた。どうやら何度も何度も動線を確認して練習していたようだ。もう目を閉じていても歩けそうな勢いで暗闇を歩いている。小さな小屋の前に来て、重い空気にパトラは思わず立ち止まった。

「パトラばあ様、ちょっと待ってて」

 小さな影が、手にしていた小さなランプに灯りを付けると、今日の主役、レオの顔が暗闇に浮かび上がった。ランプを横に置くと、レオはエサ入れの藁を外に出し始めた。エサ入れの下には真新しい板が見える。

「なるほどそういうことかい。けど、そんなに時間はないよ。あんたが消えて今頃大騒ぎだ」

「大丈夫。ちゃんと考えてあるから」

 レオの言葉が終わる前に、銃声のような乾いた音が連続して響いた。

「始まったみたい」

 甲高い叫び声の後、『銃だ!』という叫び声が聞こえた。連続する乾いた音と、その音をかき消すような怒号があちこちで聞こえる。

「パトラばあ様、早く!」

 レオは、板の下から顔を出し、パトラを呼んでいた。パトラは急いでレオの後に続き、エサ入れの下に隠されていた石の階段を降り、通路の突き当りの壁まで全力で走った。

「百歳の年寄りを走らせるんじゃないよ。まったく」

 パトラは、声を出すのも精一杯の様子で息を切らしていた。けれど、階段も廊下もレオにほとんど後れを取らずについて来ていた。その姿は、百歳だとはにわかに信じがたい。が、レオはその事には一切触れずにパトラを急かした。

「ごめんなさい。だけど、急がないと。誰にも気づかれちゃいけないんだ」

「で、その子はどこにいるんだい」

「あ、そっか」

 レオが一か所だけ色が変わっているレンガを押すと壁は少しだけ横にスライドした。

「たまげたねぇ。まったく手の込んだ……。聞いていたとおりだがね。こういう事かい」

「僕、上で待ってる。急いでね」

 レオは、パトラの言葉を遮り、可愛らしい笑顔を見せてからパトラにランプを手渡し、暗い通路を走り去った。

「僕、慣れてるから。最近は夜中にも良く来るんだ。とにかく急いで!」

 走りながら、小さくなっていくレオの声と反対に、地上の怒号や足音が地下まで響いてきていた。パトラは、やれやれと言った表情で、少し開いた壁の隙間から、部屋の中を覗き伺うようにゆっくりと部屋の中へ入った。

「あなたは、だあれ?」

 部屋の隅から澄んだ声が聞こえてきて、パトラは一瞬たじろいだ。声の方を見ると、天窓から斜めに降り注ぐ月明かりに照らされた小さな子が見えた。歳の頃は、レオと同じくらいだが、背格好はひとまわり小さいようにも見えた。怯えた様子も見せず、澄んだ瞳でパトラの方をじっと見つめている。

「人に名前聞くんなら、自分から先に名前を言うのが礼儀だよ」

「礼儀……って、なあに?」

「やれやれ、礼儀も知らないのかい? 全く、なんでこんなところに……」

「礼儀……って、なあに?」

 部屋を見回していたパトラは、ふうと溜息をつき、羽織っていたローブを脱いで傍らにあったベッドに放り投げると、部屋の隅にいる小さな子に近寄って行った。

 《礼儀》を、この小さい子にどうにかうまく伝えようと言葉を選ぼうとしたものの、すぐそばまで近寄って覗き込んだ小さな子のあまりに可愛らしい笑顔に、パトラは一瞬言葉を詰まらせてしまった。

「いいかい、礼儀ってのはね、え……っと、つまり、その、簡単に言うとだね、自分以外の相手が嫌な気分にならないようにすることさ」

「じゃあ、あなたは、今、嫌な気分なの? 僕が、名前を言わないから?」

「そういうことだよ。目上の人から先に名乗らせるもんじゃないよ。全く、礼儀がなってない」

 小さな子は、悲しいとも、困ったとも違う表情をパトラに見せた。

「じゃあ、僕は、ずっとあなたに嫌な思いをさせるよ。だって、僕には名前がないもの」

 パトラは驚いて、小さな子を見つめた。

「名前が無いだって? そんなこと……」

 そこまで言ってからパトラは、この子がこの部屋に閉じ込められている事実とその理由を頭の中で猛スピードで整理し始めた。精霊たちは、この屋敷を嫌っていて、滅多にこの家の話はしなかった。けれど、紅色べにいろ蝶が、この家には《もうひとり》いる。助けてあげられないのか。と、ハンナの母親のところへ相談に来ていると聞いていたのだ。

 パトラは、ある一つの仮説に行き当たった。

「まぁ、いいさ。あんたの名前ね、確認する方法がひとつだけあるんだがね」

「本当! 僕にも名前ができるの?」

「できるというか……。まぁ、とにかく、急がないと時間が無いんだよ。ここに連れて来てくれた子にね、頼まれたんだ」

「うん、知ってる。レオはさ、僕に秘密にしてたつもりらしいけど、僕、全部聞こえてたもの」

 小さな子は、前にされ下がっていた耳を一瞬ピンと立ちあげて、パトラに見せた。その様子を見て、パトラは、驚きながらその子の着ている緑の服に思わず目をやった。そして半ば呆れた顔になった。パトラは、その子の過去を思いどうしようもなく不憫な気持ちになった。何も言わずに準備に取り掛かりながら、こんなひどい仕打ちをするボバリー家に吐き気がする思いがしていた。

「レオが言っていた僕へのプレゼントって、これのことだったんだ」

 小さな子は、頬を赤らめて、こんなにうれしいことは無いという表情を見せて幸せそうに天窓を見つめて微笑んでいた。パトラは、懐から懐中時計を取り出した。間もなく午後六時だ。

 パトラはランプを床に置き、小さな子に近づいた。

 もしもレオが言っていたことが事実ならば、この子は……。

 パトラは、頭の中に芽生えた疑念をこの場で確認しようと決心していた。レオのために持ってきていた古い指輪の箱をポケットから取り出し、箱を開けて中の指輪が確かにそこにあることを確認してから再びポケットに丁寧にしまった。それからパトラは、小さな子に自分の右手の掌を上にして差し出して、優しく話しかけた。

「右手を出してごらん。ご飯食べる時の方の手だよ」

 パトラがそう言うと、その子はすっと左手を差し出した。

「おやまぁ、左利きかい? こっちじゃないよ。反対の手だよ」

 小さな子はまたパトラに言われるがまま、今度は右手を差し出した。おそらくレオから何か聞いていたのだろう。パトラの言うことに、小さな子は一つ一つ素直に従った。下弦の月の光が、柔らかく天窓から射し込み、パトラの掌に重ねた小さな子の手に重ねられた。それを見つめながら、パトラは古代から伝わる言葉を使い、小さな声で唱え始めた。


 パンパスグラスの精霊たちよ。

 この者の経験者となりうる可能性を信じるならば、

 その力を以ってこの者に試練の証を与えたまえ。

 この者の守り人となりうる可能性を疑わぬのであれば、

 その力を以ってこの者に精霊の力を与えたまえ。

 パンパスグラスの精霊たちよ。

 この者が、試練をものともせぬものならば、

 この者が、あなた方を守り続けるものならば、

 この者に希望の指輪を与えたまえ。


 パトラは、掌を重ねたまま、何度も古代の言葉で呪文を唱え続けた。そうしてパトラの声が、少しずつ大きくなっていくに連れて、パトラの手に重ねた小さな子の掌の下から、強い光が差し始めた。小さな子は、声も出せずにその様子をじっと見つめている。その瞳は恐怖の色ではなく、未知の者に対する好奇心で満ち溢れていた。掌の下の光は、徐々に大きく強くなり、繰り返された八度目の祈りの言葉が終わると、強力なフラッシュライトのような光が部屋全体に広がった。

 いつの間にかパトラの掌には二つに割れた指輪が姿を現し、小さな子の指に光を放ちながら蛇のように動きながらまとわりつきはじめた。その光は、薄暗い部屋に暮らしていた小さな子には強すぎる光だった。小さな子が反対側の腕で目を覆うより早いタイミングで光が広がったせいで、小さな子は、うう……と唸り声をあげて下を向き、ついにはその場に座り込んでしまった。

 指輪が小さな子の指にリングの形となって収まると、パトラは天に向かって手を広げ、そして大げさなお辞儀をしてから、小さな子の肩に手をかけ、その右手をやさしく両手で掴んだ。

 小さな子の右手には、さっきまでパトラの掌の上にあったリングがちょうどぴったりのサイズで光っている。パトラの思ったとおりだった。

 この指輪は、この子のものなのだ。

 リングに刻まれた古代の文字を確認しようと、パトラは男の子の掌を上に向けた。掌側にあるリングの表面を見たかったのだが、先ほどの光の直後に訪れた暗闇のせいで、そこに書かれているはずの古代文字は暗すぎてはっきりと読み取れなかった。

 何しろ百年以上の間、眠っていたリングだ。そこに刻まれた文字は小さく細かった。小さな子は、されるがまま手をパトラに預け、しゃがんだままの状態でじっとして動かなかった。

「やれやれ、可哀そうなことしたかね。でも、もう一つだけやんなきゃいけない儀式があるんでね。あんたも一緒に唱えなきゃいけないし」

 パトラは、そう言うと、部屋の入り口の床に置いていたランプを再び取って、小さな子のところに戻ってきた。

「さ、名前を見せておくれ」

 小さな男の子は、《名前》という単語に反応して立ち上がった。まだ目を細めたままで、まぶしそうに目を手で何度も目をこすっている。細い目つきをしたまま自分の手を見つめた小さな子は、自分の右手に何かがあることにやっと気が付いたようだった。

 パトラは、小さな子の手を取り、掌の横にランプをかざし、右目に胸ポケットから取り出した拡大鏡をあてがった。そこに書いてあった古代文字は、まだうっすらと朱色に光って燃えているように見えた。それを見たパトラは一瞬たじろぎ、そうしてまた天に向かって震えるような声を絞り出した。今度は、古代語ではなく、今の言葉で。

「今日、齢、五歳となった《レオ》に指輪を授けたもうし精霊たちよ。感謝の想いを贈ります。精霊たちの想いに背くとき、指輪は精霊に、レオはこの世界に戻したまえ」

 小さな子は、驚いた表情でパトラを見つめている。どうやら視界が戻ってきたようだ。パトラは、小さな子に向かってほほ笑んだ。

「さぁ、レオ、あんたの名前はレオだ。その指輪にそう書いてあるからね。後に続いて、一緒に唱えなさい」

 小さな子は、慌てて同じ言葉を唱え、パトラを真似て天を仰ぎ見た。下弦の月が、雲の合間から覗いているのが見える。祈り終えると、小さな子は弾けるような笑顔でパトラに問いかけた。

「僕も、レオっていうの? あの子と同じ名前なの? 僕にも指輪がもらえるなんて夢みたい。指輪は誕生日にもらえるものなんでしょう? 僕も誕生日なの? ああ、本当に名前があるって不思議な気分」

 そう言った後、小さな子、もう一人のレオは、耳の先をピンと立ちあげて、もう一度、天窓を見上げた。

「上の世界でたくさんの人が、怪我をしているみたい。痛いって声が聞こえる。それと、あの子、レオが上で呼んでるよ。急いでって言ってる。あなたの名前はパトラばあ様?」

「ああ、そうだよ。まったく、グリーングラスの血は争えないね。その耳は、聞きたいことだけじゃなくて、聞きたくないことも聞こえちまうんだ。だから、こんな深いところに……。ああ、要らんことを言ったね。もっといろいろとお話してあげたいところなんだがね。今日のところはここまでだ」

 パトラはそう言って、ランプを手にすると、部屋を出た。上で待っているもう一人のレオに教わった通り、手探りでレンガを押すと、壁はゆっくりと閉じ始めた。振り返ると、好奇心で膨れ上がった輝くような瞳を持った笑顔の半分だけが見えていた。

「ありがとう。パトラばあ様」

 パトラには、その柔らかい優しい笑顔がとても不吉なものに思えた。この屋敷の入り口で会ったハンナに憑いていた妖気は、この子のものではなさそうだ。それでは一体どこから出ていたものだろうかと思いながら、パトラは廊下を走り階段を駆け上がった。

 上まで来ると、エサ入れの縁から下を向いたもう一人のレオが顔をのぞかせているのが見えた。パトラはその顔を見て、一瞬大きな不安が押し寄せてくるのを感じたが、考えている時間は無かった。慌てて外に出たあと、レオが乱雑に草を板の上に乗せるのを見届け、今度は台所の勝手口の方へとレオに続いて走った。正面玄関側ではまだ怒号が飛び交い、助けてという声が幾つも聞こえている。一体何が起こっているのか、パトラには分からなかったが、とにかく人目に触れないように屋敷の中に入らなければと考えていた。

 パトラは、ふと、ポケットに手を当てた。持って来た指輪は、ひとつだけだ。ポケットに手をやり、箱を開けてみると、やはりそこには指輪はもうなかった。目の前を今走っているこっちのレオに頼まれて、地下にいたあの子に授けてしまった。いや、指輪があの子を選んだのだ。この屋敷には代々伝わるものがあるとボバリー伯爵は言っていたが、なにせ、ボバリー伯爵自身が《経験者》にも《守り人》にもなっていないのだから、この家に代々伝わる指輪が眠っているわけなどなかった。ボバリー伯爵のことだ、海外で買い付けて来た骨董品があるに違いない、そうパトラは思っていた。

 パトラは、必死に裏口へと走って行くもうひとりのレオの後姿を追いかけながら、これから始まる二度目の指輪授与の儀式を思い、心が重く沈んだ。

「パトラばあ様、早く!」

 前を走るこのもうひとりのレオは、自分に指輪が授与されることを信じて疑っていないのだ。けれど、おそらくそれはないだろう。

「レオ、ちょっとだけ、あたしに時間をくれないかい。ここに来てご覧」

 レオは立ち止まると怪訝そうな顔でパトラに近づいてきた。パトラは、レオの右手を取ると、何やら長い呪文のようなものを呟きだした。けれど、さっきのように指輪が突然現れることも、掌が光ることもなく、呪文だけが空しく暗闇に響き続けた。

「パトラばあ様、何やってるの? 見つかっちゃうよ。早く行こうよ!」

 もうひとりのレオはそう言うと、パトラの手を振り払って屋敷の中へと走って消えていった。パトラは真っ暗になったままの屋敷を見つめ、止まずに聞こえ続けている悲壮な叫び声を遠くに聞きながら、かつてこの国でグリーングラスの軍人たちが語っていた恐ろしい言い伝えを思い出していた。

《異形異端のものに名前を与えれば、その名を与えし者たちには死神が付きまとう》

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