第10話 ドロップアイテム

「無事に出てこれたみたいね」


「あぁ、なんとかなったな……すげえ疲れたけど」


 俺と咲良はモール内の休憩スペースで合流していた。着替えを済ませた咲良が先に店を出て、虹本達の隙をうかがって俺も店を出たのだ。


 奇跡的に虹本と取り巻きの3人が全員試着室に入ったため、周りの客から不審な目で見られつつも店の外へ逃げられた。生きて出てこれたことに感謝だ……。


 それはそうと、俺が試着室を脱出する際に、とあるブツを回収したのだが……多分、咲良のだよな……。


「えっと咲良……お前、なんか忘れ物しなかった?」


 俺はそう言いながら、右手にある咲良の小さくて大きい忘れ物を差し出した。


「……」


「……これって……わ、私の下着……!?」


「……」


 そう! 俺が回収したのは咲良の下の下着。というか、普通忘れるか? はいてないことに気づかないなんて事あるか?!


 咲良は涙目になりながら、『キッ』と俺を睨んだ。ほんっとごめん……いや俺もね、本人が忘れてるならいいかと思ったんだけど、どう考えてもダメだろと思って……。


「置いていくと悲惨ひさんなことになりかねないと思って……」


「へ、変なことしてないでしょうね?!」


「してねーよ。潔白だ、無実だ!」


 咲良は俺の顔を疑り深く見つめた後、急に椅子から立ち上がった。


「……る」


「え、なに?」


「私もう帰るぅぅぅ!」


「あ、おい待て!」


 咲良は俺に一瞥いちべつもくれずに全速力で逃げていった。その場に取り残された俺は、周りの人間からとても哀れな視線を向けられていた。


 一応、俺初めてのデートだったんですけど……あの、その。あぁ……もういいや……。

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