第9話 in 試着室
「ちょっと、あんまりこっちに詰めてこないでよ!」
「狭いんだから仕方ないだろ!」
ランジェリーショップの試着室に男女二人……。
それに、今の体勢……これは非常によろしくない。いきなり引っ張られた
これを見られたらマジで言い訳ができない。しかも……なんかいい匂いするし、柔らかいし吐息は近いし。
このままでは俺の理性ブレーキが壊れてしまう。とりあえず、服を着てもらうおう。服さえ着てればどうということはない。
そう考えた俺は、吸い込まれそうになる視線をなんとか逸らしつつ、咲良に服を着るように
「おい、俺は上向いてるから服着ろ」
せめて服さえ着ていれば変な緊張をしなくて済む。そう思ったのだが……。
「それは……ムリよ」
「なんでだよ! お前そう言う趣味でもあんのか?」
「そ、そんなわけ! 試着しようと思ってたから、今ブラ外しかけなのよ……このまま服着る訳にはいかないでしょ!」
なんで……もう泣きたい……。
「お客さまー。大丈夫ですか?」
俺がアンラッキースケベに絶望していると、追い討ちをかけるように、カーテンの外から店員が声をかけてきた。
恐らくずっと試着室の中にいる咲良を気にして声をかけてきたのだろう。まぁ、この試着室には俺もいるんだけどな!
「あっ、すみません。もう少し大きいのをいいですか?」
時間を稼ごうと
だが、こんなのはその
……とりあえず虹本御一行をこの店の外に出さなければならない。
「おい、お前虹本の連絡先わかるか? 電話で誘導できると思うんだが」
「そんなことしたらこっちの声が聞こえてしまうでしょ」
「それもそうか……。でも、あいつらを店の外に出さないと、俺たちも逃げられないぞ」
頭をフル回転して絞り出したんだけど……だめだ、俺にこれ以上の策はない。なかなか短い人生だったなぁ……。
そう諦めかけていた俺に、咲良は声をかけてきた。
「……こうなったら仕方ないわね。つけるのはやめてこのまま服を着るから、目閉じてなさい!」
「マジかよ……でも、それってノーブ……悪りぃ。何でもない」
事実を言いかけたところで睨まれてしまったので、もうそこに関しては気にしたら負けってことで。
「一応、他にも方法はあるけど……」
咲良は顔を真っ赤にしながらそう呟いた。これも、あまり良い手段ではなさそうだが……どうせ、これ以上悪い状況にはならないだろう。
「他の方法って、どうすんだよ」
「あ、あなたがホックを留めなさい! そうすればそのまま服を着れるでしょ! その……今回だけは下着見ても、特別に許してあげるから! 早く終わらせなさい!」
「無茶言うなよ! 男がそんなのつけられるわけないだろ!」
「じゃあ私にこのまま服を着ろっていうの? この変態」
ぐふっ……心が痛い。どっちを選んでも変態と罵られ続けられる気がするんだけど……仕方ない。ここは咲良のためにも腹を
「わかったから、つけるから! ジッとしてろよ。あと絶対に文句言うな!」
「うるさいわね。早くしなさい!」
ゴーサインを受け取った俺は、指先の感覚に集中して、咲良の背中に両腕を伸ばす。
そうすると自然にハグをしているような体勢になるのだが……えぇ、なんで顔真っ赤にして
さっきみたいに『変態!』とか『バカ!』とか言われた方が、まだ精神的に楽なんだけど!
「おっ、おい。そんな恥ずかしがるなよ。こっちまで恥ずかしくなる」
「し、仕方ないでしょ! こんなの初めてだから……ひゃっ、どこ触って……」
「ちょ、ジッとしてろって!」
はぁ、なんで俺がこんな目に。
神様、次にラッキースケベを起こす時はもっと気を遣ってください。
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