第6話 勘違いと答えあわせ

「どうかしら!」


 試着室から出てきた咲良さくらは元気よく聞いてきた。


 どうか? と聞かれてもよく似合うとしか言いようがない。もちろんお世辞は抜きでだ。


 膝上数センチの、淡い水色のスカート。上は袖の部分が透けてる半袖のTシャツ。


 全体的に華奢きゃしゃだが、出るとこが出ている体のラインを、この服はより引き立たせている。


 正直なところ、俺の好みどストライクだ。そりゃ俺が選んだ服だから、俺の好みなのは当たり前なのだが……この感覚をなんと表現したものか。


 俺なりに言葉にするのならば『咲良が着てこそ、この服の良さが出る』といった感じだろうか。


 中々にわかりづらい表現だが、そう言い切れるほど、咲良にその服が似合っていた。そういう事だ。


 でもこんな事を本人に言ったら、当たり前でしょとか言って、調子に乗りそうだからなぁ。少し控えめに褒めておこうか。


「可愛いと思うぞ。結構俺の好み、かな」


「そ、そぉ……」


 咲良はそう言うなり、そそくさとカーテンを閉めてしまった。俺的には『ジロジロ見るな』とか文句を言われるものかと思っていたが、一体どうしたのだろうか。

 

 さてはあいつ、自分の見た目を褒められると照れてしまうタイプだな。いや、でも待てよ。


 見た目を褒められるというのなら、さっき店員にも言われてたし、何より常日頃男子から言われまくって、なんなら聞き飽きている可能性さえある。それなのに、見た目を褒められて照れる理由……。


 乙女心なんて微塵みじんも理解できていない俺の頭は、最終的に一つの答えを導き出した。


 その答えは『好きな人に褒められたから照れてしまった』という、まぁありきたりなものだった。


 咲良の好きな男子って……えっと、俺、だよな? あ、待って待って、今のなし! 自分で自分が恥ずかしくなってきたぁ!


 昨日はっきりと、面と向かって好きだと伝えられたわけなんだが……あれ、改めて考えるとすごい照れくさいというか……あぁ! 一体俺はどうしてしまったんだ!


 こうなったら、確認……してみるか。でもなんて聞けばいいんだ? そのまんま『照れてるのか?』とか『俺のこと好きか?』とか……って、二つ目のはいらないだろ!


 これ以上余計なことを考えないうちに聞いてしまおう。そう決心した俺は、緊張で裏返ってしまいそうな声をなんとかコントロールして、咲良に質問をする。


「えっと、咲良……もしかしてなんだけど、俺に褒められたから照れてるのか?」


ーバタバタッ!


 俺は咲良に声が届くように、少し大きめで質問をしたが、それに対して返事はなかった。そのかわり、試着室の中から大きな物音がした。足がもつれたような音がしたけど大丈夫か?


 心配していたのも束の間。俺の声はしっかりと咲良に届いていたらしく、わざとらしい咳払いをしてから咲良は喋り始めた。


「そ、そんなわけないでしょ! か、勘違いも大概にしておきなさい!」


「そ、そうだよな! 悪りぃ悪りぃ」


 やはり俺の勘違いだったようだ。まったく、俺は少し自意識過剰になりすぎているようだ。今後はこんな事がないように気をつけないとな!


 俺は自分の導き出した答えが間違いだったことを確認し、安堵あんどしていた。


 だがしばらくして、なぜか今度は咲良から声をかけられ、俺は何を言われるか不安になりながら耳を傾けた。


「けど……わ、私のために服を選んでくれて……それで似合ってる言ってくれたの、嬉しかった……。き、着替えの途中だから、これ以上話しかけてこないで!」


 咲良はピシャリと俺には言いつけ、再び黙ってしまう。えと、もしかして、俺の答え合ってた……?


 咲良からのデレと感謝の言葉によって、なんとも言えないむずがゆさに包まれた俺は、それを紛らわすため、体をよじって再び姿鏡の方を向いた。


 なんで赤面してんだよ、俺。これは決してドキドキしてるわけじゃないんだ! 自分の自意識の過剰さに対する恥ずかしさで赤くなっているだけなんだ……!


 それに、こんな顔をあいつに見られたら何を言われるかわかったもんじゃない。何があっても平静を装うんだ!


 そう鏡の前で自己暗示を続ける俺だったが、結局、咲良が試着室から出てくるギリギリまで顔の赤らみは引かなかった。

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