第3話 ツンでデレなチョロイン

「私、あなたのことが好きになったんだけど……どうすればいいの?」


「は……え、なんて?」


「なんで聞き返すのよ! ……私が、あんたのこと好きになってあげたって言ってるのよ!」


 なぜ恩着せがましい! というか、それを俺に言ってどうすんだよ。こいつ、実はアホなのでは?


「えっと、そんなことを言って俺にどうしろと?」


「責任を取りなさい!」


「せきっ……その言い方はちょっと」


 咲良は店中に響き渡るほどの大きな声でそう言った。責任取れとか……こいつ、絶対に意味分かってないだろ。


 というか、あんなデカい声で責任を取れとか言うから、店の中にいる人達みんなこっち見てるよ。というか、主に俺のことを見てるんだけど? めっちゃ冷たい目で見られちゃってるんだけど?!


「おい咲良、一回落ち着こうぜ。すごい誤解ごかい生んじゃってるから。すっげぇ冷たい目で見られちゃってるから。俺が、俺だけが!」


「そ、そうね。私とした事が、少し取り乱してしまったわ」


 そう言うと、咲良は再びパフェを口に運び始めた。勘違いかもしれないけど、さっきよりも一口が小さいような気がする。それにちぢこまって俺から目をらしているような……。


 まさか照れてるのか? あんな横暴な言い方をしておいて照れてるのか? まぁツンデレだしな……どこでデレが目覚めるかなんて、常人には理解できないよな。


 一方の俺はというと、照れると言うか驚いているというか。女子に好意を持たれて、しかもそれを直接伝えられるなんて……やっぱり、歯痒はがゆいというか何というか。


 とりあえず成り行きを聞こう。まだ咲良の言っている事を信じきってる訳でもないし。もしかしたら俺をからかっているだけかもしれないからな!


「その……自分で聞くのも変な感じなんだけど、なんで俺のことを?」


「あ、あんたが、可愛いとか……言ってくるから」


「俺そんなこと言ったっけ?」


「言ったわよ。私がお昼ご飯忘れちゃった時に」


 言ったかぁ? うーん……え、もしかしてあの時の?


 俺はかすかに頭の中に残っていた、数日前の昼休みの会話を思い出す。


『だ、だって……私こんなんだから友達もいないし……作ろうとしても……上手く、いかないし……』


 これに対して俺が……。


『なんかお前、可愛いな』


 言ってないこともないな。でもちょっと待て。あれは必死に頑張ってるのが小さい子みたいで可愛いという……。


 というか、それだけで好きになるってどんだけチョロいんだよ?! 告白してくる男を薙ぎ払うとかいう噂は?


 まぁそんな事は後回しでいい。今はちゃんと誤解を解くことの方が大切だ。このまんまだと、俺の高校生活にすごい支障をきたしそうな気がするし……。


「あのな、あれは恋愛的な可愛いじゃなくて、頑張ってるのが可愛いってことなんだよ」


「でも可愛いって言ったじゃない!」


 だから、それだけで好きになるってどんだけチョロいんだよ。正直すごく心配になるんだけど。


 ツンデレチョロイン……なんて危険なかほり。


 ええぃ、もうこうなったら屁理屈へりくつでも何でもこねてやる!


「みんなが咲良みたいな可愛いのとらえ方をしていたら、世の中の父親は娘の頑張りに対して『可愛い』という言葉を使うたびにロリコンになるのだが」


「そうよ! そうなるわよ! だからあなたもそういう可愛いを言ったのよ!」


 ならねぇよ、なるわけねえだろ! もはや何を言っても無駄だというのか、このツンチョロさんは。


「あの可愛いはそういう意味じゃないんだよ。勘違いさせちゃったのは悪いけど、ホントにそういう意味じゃ……」


「なによなによ……。もういいわよ。どうせ私なんて……孤高ここう気取りで一人悲しく生きていけばいいんでしょ……グスン」


 えぇ……。急にキャラ変わってるんだけど。


 つか、泣くな泣くな! また周りからすごいヤバいやつみたいな目で見られてる。俺が!


「お、おい。泣くな」


「私なんて私なんて……グスンッ」


 だめかぁー。全く聞いてない!


「なぁ、責任を取る……というか、さっき言ってたお前の友達作りの手伝いをするってのじゃダメか?」


「友達……グスンッ、作り?」


「あぁ。それならお前も一人でいることないだろ。どうだ?」


「わかった。でも、途中でやめたりしたら、わかってるわよね?」


 いや、わからんけどこれでもういいわ。これ以上厄介なことになっても困るし。


 このまま咲良の勘違いを放っておいたら、イチャモンやら文句やらつけられ続けて、俺が校内のトレンド入りを果たしてしまう。



 もう一つの選択肢、つまり咲良が言うところの責任をとって付き合うという方を選べば……想像に難しくはないだろう。俺がデス○ートのトレンドを独占してしまう。



 そんなのは嫌だろ?! だから咲良のもう一つの相談を手伝って、このことを許してもらう。これしか道はない。


「俺もそんなにうまく手伝えるかわからないけど……なんかこうしてみたいとかあるか?」


「そうね……それなら、明日ショッピングモールにいきましょう」


「だから、なんでそうなるんだよ」


 ダメだ、俺。落ち着くんだ。これは俺のためでもあるんだ……慎重に、そう慎重に。


「世の中の友達という関係同士の人たちは、休日にショッピングモールに行くものでしょ? それを見て学ぶのよ」


「なるほど。まぁ、一理あるな」


 ショッピングモールで実際に見て学ぶって事か。言葉でどうこうするより、手っ取り早くて良さそうだ。


「ということで、明日は朝からデート……じゃなくて! 視察に行くわよ!」


「今デートって言わなかったか?」


「違うわ。デートしてるカップルが多いかもしれないけど、と言おうとしたのよ」


 めっちゃ睨みつけられてんだけど。怖いから。ツンツンしすぎだから。


「まぁいいや。連絡先教えとくから、時間とか決まったらそれで知らせてくれ」


「連絡先?! 連絡先を教えてくれるの?! ちょ、待って! すぐ準備するから!」


 おぉ、また表情が変わった。ツンチョロがデレチョロになった。やっぱり、こういう単純なとこが小さい子みたいで可愛……だめだな。こんなこと思ったらまた言いがかりをつけられそうだ。


 それに、なんというか……デレチョロインって、ツンチョロインよりも危ないのでは?




 そんなこんなで連絡先を交換した俺たちは、明日の段取りを決め、しばらく雑談をしてから解散した。


 友達ができたらこんなことをしたいとか。自分の趣味はこうだから、同じ趣味の人を見つけたいとか。


 その話を聞いていると、あんまり自信はないけど、友達作りぐらい手助けしてやるか、と思えた。


 まぁ、そうだな。無理のない程度に頑張りますか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る