第21話 決意の揺らぎ



僕とユーリちゃんは互いの目を見て…数秒沈黙する。


「ははっ……そっか…」


ユーリちゃんは少し俯き、悲しい顔をする。


やっぱり……ルージア神の使徒…なのか。

なら…やはり戦わなくてはいけない。


ユーリちゃんとも…クラさんとも…。



「ねぇ。コーキお兄ちゃん。私ね…」


ユーリちゃんが何かを伝えようとしている。


【ルージア神の使徒】と認めるのか?


ユーリちゃんはゆっくりと顔を上げ、僕の目を見て言った。


「私…ルージア神の使徒じゃないよ!」


え…?

違うの…?


じゃあ…なんで…さっきあんな顔を…。


「そうなの?じゃあ…なんであんな悲しそうな顔を…?」

僕はユーリちゃんに聞いてみた。



「クラちゃんとお兄ちゃんが戦ってる時、何となく分かったの…。お兄ちゃんが神の使徒だって…」


ユーリちゃんはお茶を飲み、一息ついてから話を続けた。


「お兄ちゃん…。地球神の使徒でしょ?」


ユーリちゃんが悲しそうに僕を見る。


「う…うん…」


僕は何でこんなに悲しそうな顔をしてるんだろう…と思いながら頷いた。



「同じ地球神の使徒に会っちゃった以上、もうここでゆっくりはできない…」


なるほど。それで悲しい顔を…。


「私ね。何でルージア神の使徒を倒さなくちゃいけないの?って今でも思ってるの…」


ユーリちゃんが外にいるクラさんを見ながら言う。


「だって…ルージア神の使徒を倒した所で、地球に帰れるわけじゃないのよ?地球はルージア神が隕石を落とし破壊された。もう…戻る場所はないし、戻ったところで前世の家族や友達に再会する事もできないわ」


……たしかに…。


「しかもそれは前世であって、今世とは関係ない。私はルージア星のソルクド王国で生まれた【ユーリ】よ。前世とは別の人生を歩んでいるの」


………たしかにその通りだ…。

何も言えない。


ルージア神の使徒を倒したからと言って、帰れるわけじゃない。


地球を滅ぼしたのはルージア神であって、ルージア神の使徒ではない。

もちろん。ルージア神に近づくには使徒を倒す必要がある。


だが…結局僕達は…地球神、地球という星に住んでいた生命の仇を取るってだけで動いている。


僕は…分からなくなってしまった。


「もちろん、地球神には感謝しているわ。滅びゆく地球の中で私達の魂を保護して、この世界に転生させてくれたのだから…」


ユーリちゃんが僕の方を見る。


「コーキお兄ちゃんは……やっぱり仇を取りたいの?」


僕はその問いに答えられなかった。


暫く沈黙が続く。


僕は悩みに悩んだ。


今まで、地球神に言われた通りルージア神の使徒を倒す事しか考えていなかった。


同じ使徒のカリンもヘルディも…その気持ちに迷いは無かった。


だからこそ、ユーリちゃんに言われた言葉は強烈だった。


前世の記憶があるだけで、僕は地球人じゃなくルージア人だ。

じゃなきゃ加護は授からない。


―――僕は頭を抱える。


ユーリちゃんは僕を1人にするため、外でクラさんと一緒にいる。


僕なんかより、ずっと大人だ。


僕は悩んだ。


すると、僕の周りに闇の様なモヤが現れ、僕を覆った。

僕は頭を抱えていた為、全く気付かなかった。


僕の頭の中に語りかける声が聞こえる。


(何を悩んでいるのです。悩む必要などありません。ルージア神は悪。ルージア神の使徒も悪に加担する者。ルージア星の人々の為にもなるのです。さぁ、戦いなさい!倒しなさい!)


僕の目が充血する。


「ぐぁ…ガッ…ガガ…ォグァ」


頭の中の声がどんどん大きくなる。


…………………………………


………………………


……………


「………はぁ、はぁ、はぁ…………」


気付けば僕は汗ビッショリになっていた。


闇のモヤもない。


「なんだったんだ……今の……」


気づけば、僕に迷いは消えていた。


僕は外に出て、ユーリちゃんの元へ向かった。



「決めたよ。ユーリちゃんの言っている事は正しい。でも…やっぱり僕はルージア神の使徒と戦う。ルージア神を倒し、地球神にこの星の神になってもらう」


僕はユーリちゃんの目を見て言う。


「そう。わかったわ!じゃあ…私も協力する!でも私が協力するのはルージア神の使徒を倒すまで!ルージア神まで倒す気はしないわ!それでもいい?」


「うん…。よろしく!」


僕はユーリちゃんと握手した。


「こいつ…何か雰囲気が変わったか?何があった…」

クラちゃんがそう呟いていたが、僕達には聞こえなかった。



僕とユーリちゃんは家に入り、改めて自己紹介した。


「僕はコーキ。10歳。前世では鏑木こうきという名前だった。日本に住む17歳の高校生」


「私はユーリ。7歳。前世では城田友里よ。私も日本に住んでた。14歳の中学生だったわ。でも10歳まで住んでいたのはアメリカよ!」


「帰国子女だったんだ」


今の所みんな日本に住んでいたんだな。

てことは最後の1人も日本人…か?


「ユーリちゃんって魔物使いなの?クラさん従えてるし…」

僕は噂について聞いてみた。


「う〜ん…どうなんだろう…前世でもそうだったんだけど、動物にはよく好かれてたわ!こっちでも似たような感じだから…自然と仲良くなってるのっ!」


なるほど…。

自然と仲良く。……なれるものなのか?ドラゴンと!?


「クラさんとはいつから?」

すごく…気になる!


「クラちゃんは私が生まれて1週間くらいで既に近くで見守っててくれたそうよ!」


はやっ!

生まれて1週間って…

強力なモンスターを惹きつける何かがあるのか?


「クラさん以外にも従えてるモンスターはいるの?」


「従えてはないよ!お友達!クラちゃんとコンちゃん以外はそれぞれの住処にいるよ!」


コンちゃん…?


「コンちゃんはここに住んでるの?」


「うん!今ご飯取りに行ってる!もうそろそろ帰ってくるんじゃないかな?」


狩猟ですか…そうですか…。

これは…コンちゃんもクラさん並みに強いんだろうな…。


「コンちゃんって…狐?」

コンコン鳴くからコンちゃんなんだろうか?


「そうだよ!よく分かったね!」


やっぱり。


「狐とは言っても毛は黒いし、本当の姿は尻尾が9本あるけどね!」


え?

九尾の狐って…

ユーリちゃんが従えてるモンスター…やっぱりヤバイな…。

こんなのを従えてるんだ…

【災厄の魔王】 なんて噂が広がる訳だ。


「あっ…帰ってきたね!」


そう言ってユーリちゃんは窓の外を見る。

僕も一緒に外の方を見ると、黒色の狐がいた。

尻尾は…1本だ。

普段は隠しているのだろう。


僕達は再び外に出た。


「コンちゃんおかえり!」

ユーリちゃんはコンちゃんに埋もれる。


「ユーリや。今日のご飯は2本角馬ツインホーン・ホースよのぅ。いっぱい食うのじゃ」


しゃべったーーーー!!!

クラさんだけでなくコンちゃんも喋るんかい!


「おぬしは誰じゃ?」


「はじめまして。僕はコーキ。よろしくコンちゃん」

僕は笑顔で挨拶した。


「妾を愚弄するとは…いい度胸じゃ」

コンちゃんに怒りのオーラが漏れ出る。


「コンよ…。奴はこんな感じだ…。我にもクラちゃんとか抜かしやがった」


「ほう…クラにもそんな口を…面白い奴よの。じゃがのぅ…ちょっとここで、どちらが上かハッキリさせておこうかの?」


ダメだ…。コンちゃんの怒りは抑えられていなかった…。


「コンさん!美しい毛並みですね!」


僕はゴマスリ作戦を決行。


「ぬぅ…妾の毛並みはそんなに美しいかの?」

チラチラこちらを見ながらクネクネしている。


あっ…これはいけるな。

てか、チョロいな。


「とても綺麗で艶もあり、美しいです!コンさん!」


「ほほほほほほ!そうかそうか!おぬしを妾の舎弟にしてやろうぞ!」


コンさんの機嫌が良くなった。


舎弟になる気は無いが、機嫌がいいならそのままにしておこう。


――――僕達はコンさんが取ってきた2本角馬のお肉を食べた。


【災厄の魔王】はルージア神の使徒ではなかった!

明日ソルクド王国のギルドに行って、カリン達から何か手紙が届いていないか確認しよう!



―――強力な仲間が加わり、明日に向け僕は寝ることにした

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