第20話 災厄の魔王



巨漢の男と戦ってから5日経った。


今、【災厄の魔王】の住処と言われる西の森に向かっている。


巨漢の男達は朝起きたら居なかった。

直ぐに目を覚まさない様に気絶させたから、おそらく誰かが連れて行ったのだろう。



そうそう、西の森に向かう前に冒険者ギルドに寄った。

だが、カリン達から手紙は来ていなかった。

大丈夫かな?カリン達…


僕がソルクド王国の冒険者ギルドに着く頃には、もうスヴェール王国には着いているはずだ。

魔物使いの鳥モンスターが手紙を運んでくる時間を考えても、こっちに手紙が届いていてもいいはず…。


とりあえず僕はソルクド王国に着いた事、これから【災厄の魔王】を探しに行く事を手紙に書いて送った。



流石に御者の2人を連れて行く訳にはいかないから、森まで歩いているが結構距離がある。



暫く進んでいると、美しい草原があった。


この草原の先が住処の森だ。


自然豊かでとても気持ちがいい。


不思議と歩く足が軽やかになる。



ん〜…新鮮な空気。

いいね!


辺り一帯の草原。

座っている女の子とそれを見る黒いドラゴン。

気持ち良さそうに空を飛んでいる鳥。


他国に来たって感じがするよ!



心地好さそうな風に揺れる草。

女の子に顔を近づけるドラゴン。

ドラゴンの存在に怯えるモンスター。



………あれ?


「危ないっ!!!」


《身体強化・風煙》


――――ドッ――――――


身体強化を使い、思いっきり地面を蹴って女の子の方に向かう僕。


向かってくる僕に気付き、拳を握るドラゴン。


それを見て拳を握る僕。


――――――――――ガッ――――――――


僕とドラゴンの拳がぶつかる。


ものすごい衝撃波により草原の草達が寝そべる。


拳の中心の真下にある地面に穴ができる。


ものすごい衝撃波なのに、優雅に佇む女の子。



「うわっ」


――――――ズサァァァァ――――――


勢いに負け、軽く飛ばされる僕。


「君!危ない!逃げろっ!」


僕は座って動けないでいる女の子に叫ぶ。


「え?私?なんで?」


「いや、なんでって―――」


ハッ…!!!


そうか、この子が【災厄の魔王】か。


だからドラゴンを目の前にしても平気なのか。


「違っていたらすまない。君が…【災厄の魔王】か?」


僕は恐る恐る聞いてみる。


「失礼しちゃうわっ!私は魔王なんかじゃないわよ!しかも災厄って、ヒドい!!」


女の子が可愛くぷんぷんしながら怒る。


「ふん。お前もユーリを狙う者か。なら容赦はせん」


黒いドラゴンが魔力を高め、戦闘態勢に入る。


「え?ドラゴンが喋った!?」


僕はドラゴンが話す方に衝撃を受けて、思わず声に出してしまった。



「そうなのっ!クラちゃんは喋るのよ!」

女の子が無邪気に嬉しそうに話す。



「ユーリ。気安く話しかけるな。奴はユーリを攫いに来たのだぞ」


ドラゴンが女の子に向かって言う。


「いやいやいや、待って!別に攫うつもりなんてないから!」


僕は手を振り、否定する。


「だって!クラちゃん!」


「いきなり襲いかかるやつなど信用できんだろう」


あ〜…

そうだよね。

向こうからしたら僕が先に襲いかかった様に見えるよね。


「それは…ごめん。てっきり女の子がドラゴンに襲われてるのかと思ってたから…」


僕は頰を掻きながら言い訳する。


「仕方ないわよ。初めて見れば誰でもそう思うわ!」


女の子は肯定してくれる。


優しいな。


「そうか、なら、さっさとどっか行け。もう用は無いだろう」


ドラゴンは冷たい!!



「いや…ごめん。攫うつもりはないんだけど、僕、【災厄の魔王】に会うためにここまで来たんだ…」


そういって僕はSランクのギルドカードを見せた。


「Sランクか。それで…攫うつもりは無いと言ったな?とてもそうは思えんが…」


「本当に攫うつもりはないよ。ただ、話がしたい」


「ふん。貴様と話すような事など―――」

「分かったわ!」

「ユーリ!?」


ユーリと呼ばれる女の子は僕に全く警戒はしていないようだ。


「ふん。少しでも怪しい行動を取れば、即座に殺す。覚えておけ」


ドラゴンは僕を睨む。


この様子からして、ドラゴンを従えるって噂も本当なんだな。


「私の家で話しましょ!さぁ乗って!」


そう言うとユーリちゃんはドラゴンに乗った。


「お前は歩け!誰が乗せるかっ!」

ドラゴンは目で威嚇しながら言い放つ。


「クラちゃん。乗せてあげて!」

「ユーリよ。我、屈辱…」


そう言いながらドラゴンは僕が乗りやすいように体勢を低くしてくれた。


「ありがとうクラちゃん」


僕は心を込めてお礼を言った。


「貴様ーーーーーーっっっ!!!!!!!」


クラちゃんは滅茶苦茶怒りながら空を飛び始めた。



――――――――――――――――――――


森の中心に、木が生えていない空間があった。


そこには立派な家が建っていた。


「ここが私の家よ」


ユーリちゃんが上空から指を指した。


クラちゃんがそこに向かって降下する。


「貴様、早く降りろ。不快だ」

クラちゃんはご機嫌斜めだ。


「連れてってくれてありがとう。クラちゃん」

僕は笑顔でお礼を言った。


―――――コォォォォォオオオオオオ―――――


クラちゃんが大きく口を開き、ブレスを吐くため魔力を溜めている。


「ちょっ……クラちゃん!ここでそれぶっ放したらやばいって!!」

僕は慌ててクラちゃんを止める。


だが、クラちゃんは魔力を溜めたままだ。



「クラちゃん!ダメよ!」

ユーリちゃんが注意してくれて、何とか回避できた。



「ブルードラゴンやレッドドラゴンより威圧感すごかったよ。クラさん」

僕はクラさんって呼ぶことにした。


「クラ〔さん〕か。…ふん。まぁいいだろう。あんな奴らと我を一緒にするな」


ちょっとだけ機嫌が直ったクラさん。

もしかしたら、チョロイぞ、クラさん。



―――――ガチャ――――――


ユーリが部屋の中に入る。


僕もそれに続こうとした時、ふと思った。


この家…クラさん入れないな。


「ねぇ。クラさんって小さくなったり人間になったりできるの?」

僕は興味本位で聞いてみた。



「はぁ?何言ってんだお前?ドラゴンが人間になれるわけないだろ!小さく…ってのは考えたことなかったな。魔力調整すればできるかもしれんが…今はできん」


なんだ。

できないんだ…。



「貴様っっ!!我を哀れむような目で見るなっっ!!」


あら。そんなつもりなかったんだけど…。


って事はクラさんは家に入らず外で番犬…番竜か。


僕は家の中に入った。


窓の外からクラさんがすごい見てくる…。



「そこに座って待ってて!今お茶を持ってくるわ」


そう言ってユーリちゃんは台所に向かっていった。


なんというか…部屋は凄く綺麗だ。


きちんと掃除が行き届いている。


だが、一人暮らしなのかな?


お父さんとお母さんはいないのだろうか?


辺りを見渡していると、ユーリちゃんが戻ってきた。



「どうぞ!」


対面の椅子にユーリちゃんが腰掛ける。


「そういえば自己紹介がまだだったね!私はユーリ!外にいるのが黒龍ブラック・ドラゴンのクラちゃん。黒いドラゴンだからクラちゃんよ!」


ユーリちゃんは明るく無邪気に自己紹介する。


「僕はコーキ。ゴースリア王国って所から来ました。さっき見せたけど、Sランクの冒険者だよ」


僕達は自己紹介を済ませた。


「それで、コーキお兄ちゃん!私に話って何?」

ユーリちゃんが笑顔で聞いてくる。



「うん。単刀直入に聞くね!」


そう言って僕は一呼吸置いて、勇気を出して聞いてみた。


――――「ユーリちゃんって、ルージア神の使徒?」

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