第19話 巨漢の男



僕達はミュノラム王国の王都へ着いた。


一緒に乗って行ったお兄さんと沢山話していたからあっという間に感じた。


そうそう、お兄さんの名前はザーグトというらしい。

なんでもAランク冒険者なんだとか。


教えてはくれなかったけど、ガラム帝国でやる事があって、ちょうどそれを終えて帰国すると言っていた。


今はお兄さんを王都の冒険者ギルドまで馬車で向かっている。


王都で一泊してもいいけど、少しでも早くソルクド王国に着きたい。

だからお兄さんを送ったら、僕はそのまま王都を後にする。



「おっ!ここだ」


お兄さんが外を見て、声を出した。

どうやら冒険者ギルドに到着したみたいだ。


「ありがとなコーキ。本当にいいのか?礼に一杯奢るぞ?」

お兄さんは馬車を降りた後、振り向いて僕に聞いてきた。


「はい。僕はこのまま出発しますので!」


「そうか…何かあったら、いつでも俺を頼れよ!コーキの為ならどんな依頼でも受けるぜ」


なんと頼もしい!


「はい。ではお元気で」


僕は手を振った。


馬車は出発した。



――――――――――――――――――――


お兄さんと別れてから1週間程経った。


僕は今、ミュノラム王国とソルクド王国の国境線付近にいる。


馬車の通る道はしっかり整備されている。

しかしソルクド王国に入ると、森の木がものすごく増える。


ミュノラム王国は適度に伐採して資源に使っていたが、ソルクド王国では余り伐採しないのだろうか?


暫く馬車を進めると、村にしては大きいが、町とまでは行かない集落があった。


泊まれる所があれば…今日はここにお世話になろうかな。


僕と御者さん達は泊まれそうな民宿を見つけ、宿を確保した。


「今日もお疲れ様でした。後もう少し…お付き合いください」


僕は御者さん達にお礼を言い、一緒にご飯を食べる事にした。



村一番の飲食店を紹介してもらい、そこに向かった。


――――キィ〜…―――――


僕は飲食店のドアを開けた。


質素…だか、昔ながらの個人飲食店といった感じ。

僕はこういうの好きだ。


店内は沢山のお客さんで大盛況だ。



「いらっしゃい。おや?見ない顔だね〜」

奥からおばあちゃんが出てきた。


「他国から来ました。とても美味しいお店だとお伺い致しまして。3人ですが大丈夫ですか?」


僕はおばあちゃんに聞いてみた。

余所者には食わせない…なんて言われたらどうしよう…。


「へぇ〜他所の国から来るなんて…珍しいね〜。そこが空いてるから座りな〜」

おばあちゃんが奥にあるテーブルを指差す。


国境線から1番近い村なのに、他国の人間が珍しいってどういう事だろう…。


3人分の水を持ってきてくれたお姉さんに聞いてみた。


「他所のから来た冒険者や商人と言った人を狙う盗賊がいるのよ…。みんな、この村に滞在している時を狙われる。だから誰も…寄り付かなくなったの…」


お姉さんが暗い顔をしている。


「盗賊が出る前は…この村は結構栄えてたのよ」


「村にしては大きいと思っていましたが…昔は栄えていたんですね」


それにしても…盗賊か。


僕の所に来ても返り討ちにできるが…

ここに来るまで誰にも付けられてはいない。


まだ僕達に気づかれていないだけか?


「盗賊はいつ襲ってくるんですか?今の所、盗賊っぽいのには付けられてませんが…」


「夜よ…。寝ている所を襲われる」


寝ている所!?

つまり、宿に侵入してくるって事か。


御者さん2人の顔が真っ青になる。


これは…帰る時も付けられてないか警戒する必要があるな…。


僕達はご飯を食べ、宿に帰る事にした。


あ、そうそう。ここの料理は特に珍しい物はなかったよ。


―――――――――――――――――――


☆村【民宿】


僕達は宿に着いた。


御者さん達はまだ不安そうな顔をしている。


「大丈夫ですよ。今の所誰にも監視されていません。それに…襲ってきても僕がお二人を守りますから」


僕は2人に笑顔で言った。


「だが…話に聞いた限りその盗賊…めちゃくちゃ強いんだろ?」

「冒険者も相手にして寄り付かなくなるくらいだ…戦うのはやめたほうがいい…」


2人共、まだ不安そうにしている。


「大丈夫。問題ないです」


僕は2人にSランクのギルドカードを見せた。


「「!!!」」


「え?…うそ!?」

「ま…まじですかい!?」


2人とも物凄く驚いている。


「これで分かりました?安心してください。僕が守りますから」


「は…はは…。護衛いらないと言ったのはそういう事か…」


「はは……よろしくお願いします」


2人は声を絞り出しながら頭を下げた。


僕がSランク冒険者だと分かってから、2人は元気を取り戻した。


長い旅路で元々仲良くはなっていたが、今までは言わなかった身の上話もするようになり、さらに距離が縮まったと思う。


民宿のため、一部屋しか借りれなかったが結果的には良かったな。


僕達は色々話し、眠りについた。


僕は《気配察知》魔法を使いながら寝るつもりだ。

そうすれば、近づいてくれば分かるしね。



――――――――――――――――


―――――――――――


――――――――


真夜中。

《気配察知》により、僕は目を覚ました。


「来たか…」


僕は起き上がる。


盗賊らしき集団が民宿のすぐ近くまでいる。


待っててもいいけど…

ここが戦場になるのは避けたい。


僕は外に出て迎え撃つ事にした。


階段降りるより窓から飛び降りたほうが早い。


――――スタッ――――


僕は2階の窓から飛び降りた。


すると…


どうやら盗賊の集団が到着したようだ。


盗賊達は驚いている。


ターゲットが急に窓から降りてきたんだ。

しかたないか。


「盗賊のみなさん。何の用?」


僕は盗賊達に声をかける。


……?


盗賊?


盗賊にしては身なりがマシだ。


それに1番奥にいる巨漢。

何者だ?


1人だけレベルが違う。


まぁ…僕には敵わないけど。


「「「…………」」」


盗賊達は予定が狂ったからか、驚いているからか、さっきから声を発しない。


「ねぇ…皆さん本当に盗賊?」


僕の言葉にギョッとしたのか、みんな視線を逸らした。


そして…


「俺らは盗賊だ。余所者め!痛い目にあいたくなければ大人しくしていろ」


そう話しながら、奥から巨漢がこちらに向かって来た。


で…でかい…。


なんだこの体格。


おそらく盗賊…じゃないだろうけど、何処かの国のギルドマスターと言われても納得してしまう迫力だ。


「何故他国の人間を狙うんです?」


「貴様には関係ない」


いや…関係大ありだろ。


ん…?

あれ…?

そういえば…【災厄の魔王】の噂の1つに屈強な戦士ってあったよな?


ってことはこの人がその噂の?


……………


……だとしたら拍子抜けだ。


強いが…こんな程度で魔王を名乗られても…


「【災厄の魔王】ってあなたの事ですか?」


僕は馬鹿正直に聞いてみる。


「【災厄の魔王】…やはり…貴様も……」

巨漢の男が青筋を立て、僕を睨みつける。


どうやら【災厄の魔王】について、何か知っているようだ。


「魔王について、知っている事を教えて下さい」


「誰が貴様に教えるかっ!!」


巨漢の男の怒声が響く。


―――シュ――――――


―――――ドカッ、ボコッ、ドコッ―――――


僕は巨漢の男以外の盗賊を気絶させる。


「なっ…」


一瞬で部下達がやられた光景を目にし、巨漢の男は目を見開いている。


「もう一度言います。魔王について知っている事を教えてください」


「…………」


少しの間、互の目を見て沈黙が続く。


「誰が教えるか…貴様も…あの子の力を利用するつもりだろ…」


「利用?そんな事はしません」

ルージア神の使徒なら倒すが、違うなら用は無いし。


「嘘つけっ。お前以外にもそういう奴がいて、全員あの子を攫おうとした。誰も信用できんっ」


巨漢の男は頑なに何も言うつもりはないようだ。


「そうですか。なら…いいです」


――――――ドカッ――――――


僕は巨漢の男の腹に1発食らわせ、気絶させた。


倒れている自称盗賊達を全員縛り、その場に放置した。



「ふぁ〜…」


眠い…もう寝よう。


何も情報は言ってくれなかったが、収穫もある。


〔あの子〕って事は、やはり噂の小さな女の子ってのが正しいのだろう。

…って事はドラゴンも従えている可能性が高くなったな…。


あと5日で最西端の森に着く。


無駄足にならないことを祈ろう。



――――――僕は宿に戻り、布団に入った。

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