第16話 波乱の帰国
カリン達と別れて5週間は経っただろうか…。
あと1週間程でガラム帝国を抜ける。
この5週間…特に何も起きなかった。
ひたすら馬車に揺られ、野営して、またひたすら馬車に揺られる。
そんな生活を送っていた。
ぼーっとしながらも、こんな魔法が欲しい、もし災厄の魔王がルージア神の使徒だったら…と色々考えてはいたよ。
今1番欲しい魔法?
【転移】だね。
まぁ何回も試してはいるけど失敗続きだ。
それに比べれば現実的な【飛行】魔法が使えれば…と野営中にこっそり試してはいる。
イメージはできるが、それに使う魔力のコントロールが難しい。
足元に魔力を集中させたり、体全体を覆い支えるイメージでやってもダメだった。
だがいつか習得したい。
…ってな事考えていたら、今日の乗合場に着いた。
ここから馬車を乗り換える。
次の馬車には先客がいた。
他の馬車から乗り継いできた人だろう。
僕はその人の正面に腰掛けた。
「坊主1人か?」
その男性が声をかけてきた。
「はい。今1人で旅しています」
僕は無視せずちゃんと答えた。
無視良くない!
「そっか、そんなに小さいのに1人で…気をつけてけよ!だがこの馬車にいる間は安心しな、俺が守ってやるよ」
男性はドヤ顔で僕に言ってきた。
「お兄さんは強いんですか?」
「あ〜そこらの奴と比べれば間違いなく強いぜ!」
男性はまたもやドヤ顔で親指を立てた。
「よろしくお願いします。お兄さんはどこまで行くんですか?」
僕は頭を下げ、男性に質問した。
「隣の国だ。ミュノラム王国ってとこだ。坊主は?」
「僕はアーリジャ大陸の最西端にある国を目指してます」
「!!」
僕の返答を聞き、男性は驚いていた。
「最西端って事は…ソルクド王国…か…」
男性はブツブツ呟いている。
「坊主、ソルクド王国の西にある森には絶対近づくなよ」
男性が真剣な表情で僕を見る。
「何故ですか?」
「あくまで噂だが、ソルクド王国の西にある森に【災厄の魔王】の住処があるらしい…」
なんと!!
思いがけない情報GET!!
噂だから信用できるとは限らないが、何もないより全然いい!
「あの…【災厄の魔王】ってどんな人なんですか?」
僕は新たな情報が無いか、聞いてみる事にした。
だが、この男性から聞いた話も、ヘルディが教えてくれたのと同じだった。
う〜ん…ここでも屈強な戦士と小さな女の子…2つの噂があるのか…。
「とにかく悪い事は言わねぇ。近づかないに越した事はねぇからな!」
男性の真剣な表情を見て、僕は頷いた。
――――――――1週間後―――――――――
ガラム帝国の国境線近くにある乗合場に着いた。
さて、ここからは馬車を探さないとな。
「すみません。長期でお借りできる馬車はありますか?」
僕は乗合場の従業員に話しかけ、聞いてみた。
「う〜ん…どこまでだ?」
渋いおじさんが僕の方を見て、対応してくれた。
「ソルクド王国を目指してます」
「れ!ソルクド王国っ!!??」
おじさんは思わず大きな声を出してしまったようだ。
「坊主…そりゃ無理だ…馬の負担を考えるとな…」
「ミュノラム王国の国境寄りまででもダメですか?」
僕は妥協案を探り聞いてみた。
「行けなくはない。だが、ミュノラム王国に馬車乗合場はないぞ。あの国は庶民の馬車使用を禁じてるからな」
まじか…。
ミュノラム王国で別の馬車を探そうと思ったが、それはできなそうだ。
やっぱり、身体強化使って走るか?
「どうしても無理ですか?」
「馬2匹、御者2人連れて行って、順に馬車を引くならソルクド王国に行けなくもない。だが、かなりの大金になるし、行ってくれる奴がいるか聞いてみないとだな」
おじさんが若干困った表情で言った。
「長期で馬2匹と御者2人お借りしても大丈夫でしたら、お願いしたいです。お金は前金でお支払いするのも可能です」
「まぁ…うちは人も馬もそれなりにいるから大丈夫だが…この距離と人員だと金貨6枚になるぞ?本当に大丈夫か?」
金貨6枚…約60万円か。
今世で長距離移動に人材を長期独占。
全然安い。
「大丈夫です。では先にお渡しします。お釣りは結構です」
僕は大金貨1枚を渡した。
「!!大金貨っ!!ちょっ…ちょっと待っててくれ。直ぐに用意する」
おじさんは急いで奥の方へ行った。
―――――――――――――
――――――――
――――
「待たせたな」
おじさんが2人の御者・馬・馬車を連れてきた。
「この2人がソルクド王国まで送り届ける。それと…これはお釣りだ。いらないと言われたが、子どもにそんな気を使わせるつもりはねぇ…」
そう言っておじさんは金貨4枚を僕に握らせた。
「いや…本当にお釣りは平気だったんですが…」
仕方ない。
出発したら2人の御者さんにチップとして渡そう。
「もう準備はできてる。いつでも出発できるぞ」
「では早速、お願いします」
―――僕は馬車に乗った。
しばらく馬車に揺られていると、見覚えのある人が見えた。
「ちょっと止まってください」
僕は御者さんに馬車を止めてもらい、窓から顔を出した。
「お兄さん。もしよければ乗って行きますか?」
「坊主!なんで馬車を…いいのか?」
先程まで一緒に馬車に乗っていた男性だ。
馬車に乗っている僕を見て、とても驚いていた。
「どうぞ」
そう言って僕は馬車のドアを開けた。
「すまんな」
男性は中へ入り、腰掛けた。
―――――僕達は再び、馬車に揺られた
―――――――――――――――――――――
☆船
「あともう少しね」
カリンは外の景色を眺めながらヘルディに言った。
「久し振りの故郷だろ。この世界の家族に会いに行くか?」
ヘルディがカリンの顔を見る。
「いや…いいわ…。この世界の私に血の繋がった家族はいないから…」
カリンは海を眺めながら遠い目をしていた。
「…そうか…すまねぇ」
「「………………………」」
しばらく沈黙が続いた。
「なぁ、あれなんだ?」
ヘルディが見えてきた陸の方を指差す。
「ん?何?」
カリンはまだ気づいていない。
「いや、港に衛兵がものすごい数いるんだが…いつもこうなのか?」
「え?」
カリンが驚いている。
「いえ、普段は入国審査の所にいるだけで、港付近にはそんないないはず…」
どんどん陸に近づいていく。
よく見ると、衛兵は武装していた。
何かあったのだろうか。
船が港に着いた。
―――ドタドタドタドタドタドタッ―――
衛兵達が勢いよく船に入ってくる。
あっという間に2人は囲まれた。
「聖女様ですね。お帰りお待ちしておりました。さぁこちらへ」
衛兵のリーダーらしき人物がカリンに話しかける。
「え?待って!何で武器を構えるの?」
カリンは衛兵達に話しかける。
「聖女様が怪しい男と行動を共にしていると情報がありまして…国王様から捕らえるように…と」
武器を構えたまま、リーダーらしき人が答える。
「ヘルディは怪しくないわ!あなた達も知ってるでしょ!彼はガラム帝国のSランク冒険者よ」
カリンは必死に伝えようとするが、衛兵達は聞く耳を持たない。
ジリジリと近づき、カリンは衛兵達に保護されてしまった。
ヘルディはカリンの立場を考え、あえて抵抗せずに大人しくしている。
「ヘルディ!!あなただけでも逃げてっ!!」
カリンが叫ぶが、ヘルディは無視して大人しく捕まった。
――――ヘルディとカリンは王城の地下牢にそれぞれ入れられた。
「なんで私も牢に入れるの!?」
カリンが衛兵に聞く。
「すみません。王令ですので…」
そう言うと、衛兵はカリンの元を去っていった。
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