第13話 敵か味方か
「いらっしゃい!部屋は向こうだ」
店主が奥を指差す。
僕達は以前座ったカウンター……ではなく、奥の個室に向かった。
他のお客さんは誰も来ない。
今日ここで、僕とヘルディさんが神の使徒だと打ち明けるつもりだ。
カリンは聖女。ルージア神の使徒を倒す為の旅だと知れば…おそらく彼女は…。
「ヘルディさん、強かった?」
個室の座椅子に腰掛けたカリンが、僕の方を見て問い掛ける。
「強かったですよ。殺さない様に調節したとはいえ、僕オリジナルの強力な魔法を使わされましたから」
僕はカリンと対面の座椅子に腰掛けながら答えた。
「それで、話って何?」
カリンは笑顔で僕の方を見ていた。
「そうですね。ヘルディさんが来るまで待ってください」
「やっぱり…ヘルディさん関連ね…」
カリンは笑顔のまま、ちょっと引き攣った顔をしていた。
「カリンは聖女ですが…旅はいつまで出来るんですか?」
「そうね…。女神様からいいって言われるまで…って神殿には伝えて出て行ったわ」
カリンは少し悩みながら話していた。
「でも…本当は帰るのに何年掛かるかは分からないわ」
「僕と同じですね。僕も全てが終われば祖国に帰ると話していますが…果たしていつになるやら…」
―――――バッ――――
個室のドアが開いた。ヘルディが到着した様だ。
「待たせたな、コーキ。カリン」
ヘルディさんは僕の隣にある座椅子に腰掛け、一息ついた。
「全然待ってませんよ」
僕はヘルディさんの顔を見て言った。
「さて、コーキ。どこまで話した?」
「まだ何も。ヘルディさんが来るまで待っていたので」
「そうか…」
少しの沈黙の後、ヘルディが覚悟を決めた様だ。
そう、聖女であるカリンにとって、僕達は敵になる可能性が高いのだ…。
ヘルディさんはカリンが聖女だとは知らないが、おそらく検討ついているだろう…。
「カリン。実は俺も、コーキと一緒に旅する事になった。俺とコーキの目的が一致していたんだ」
ヘルディさんがカリンを、真剣な表情で見て話した。
「そうでしたか」
カリンは特に驚いた様子もなく、普通に返事をしていた。
「……で、な。カリン。ここからが重要なんだが…。その前に1つ確認させてくれ。お前は聖女か?」
ヘルディさんは言葉を詰まらせながらカリンに問いかけた。
「はい。そうですよ!」
カリンは笑顔で答える。
――――ゴクッ――――
ヘルディはその返答を聞き、一気に緊張した。
そんなヘルディさんを横目に、僕が本当の事を話す事にした。
「実は、僕とヘルディさんは神の使徒…なんです」
「ええ。何となくそう思ってたわ。その歳でそれ程の力…普通はあり得ない」
カリン…どこまで僕の事を察していたのだろう。
僕とヘルディさんが神の使徒と言っても平然としている。
「もしかして、重要な話ってそれの事?」
カリンは笑顔で問い掛ける。
「いえ、ここからが重要なんです…」
僕とヘルディさんに緊張が走る。
次の一言で、カリンとの関係が終わってしまうかも知れないのだ。
「―――神の使徒…ではありますが、ルージア神の使徒…では無いのです…」
「……」
いつも平然と、笑顔で相づちを打っていたカリンが何も発しない。
「信じられないかも知れませんが、僕とヘルディさんには前世の記憶があります。僕達はその、前世の神の使徒なんです」
「…そう」
カリンは絞り出す様な声を発しながら、笑顔で答えた。
「僕達の旅の目的は、ルージア神の使徒を倒す事です。カリン。女神様もルージア神の内の1人。…って事は…聖女と言われていますが、あなたもルージア神の使徒のうちの1人ではないですか?」
僕とヘルディさんは気になっていた事を聞いた。
もし、僕とヘルディさんが予想した事が正しければ、カリンはルージア神の使徒の可能性が高い。
そして、今日話をして…その可能性が高くなったと思っている。
普通神の使徒と言われれば…普通は信じない。
だが、カリンは平然と受け入れた。
ってことは、僕達が地球神の使徒だと知っていた可能性が高い。
…思い返してみれば、ガドーネス王国の王都にある神殿に行った帰り、カリンは元気が無かった。
あの時は疲れただけかと思っていたが…もし、女神様から僕の正体を聞いて、いずれ戦わなければいけない…と言われていたとしたら?
カリンは既に僕の正体を知っていながらも旅を続けていた事になる。
「ふふっ。ルージア神の使徒だなんて…私は聖女よ」
カリンが笑って答える。
あれ?
もしかして今、誤魔化された?
…って事はやっぱりルージア神の使徒なんじゃ。
「私もね、知ってはいたのよ。コーキが神の使徒だってことは」
カリンが笑顔で言ってきた。
「どこから知っていたんですか?」
僕は唾を飲み込み、聞いた。
「コーキが神の使徒だと知ったのは、ガドーネス王国の神殿よ」
…やはり。
「でもまさか…ヘルディさんまで神の使徒だとは思わなかったわ…。しかもルージア神ではない、神の使徒とは…」
「カリンは…本当に…ルージア神の使徒ではないのですか?」
僕は恐る恐る聞いてみる。
「だからそう言ってるじゃない」
カリンは笑顔で答える。
「そっか…よかった〜」
僕は心の底から安堵の声が出た。
カリンと戦わなくて済む。
「いや、ルージア神の使徒では無くても聖女だ。カリンにとって俺たちが敵である事は変わらない」
ヘルディさんが緊張したまま言ってきた。
「たしかに…」
そっか。ルージア神の使徒では無くても、敵対してしまう事には変わらないのか。
――僕は俯く
「あら。私、別にあなた達は敵だと思わないわよ」
「「え?」」
僕とヘルディさんは思わず声に出てしまった。
「私も、前世の記憶持ってるから」
―――カリンから衝撃の一言が発せられた
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