第12話 査定




☆ジャーロヘガル州【冒険者ギルド】


僕とヘルディは岩場で話をした後、レッドドラゴンを持ち帰り、ギルドに戻った。



「それにしてもコーキには驚かされる。まさかそんな便利な魔法まであるとはな…」


ヘルディが驚きながらも、感心した様子で僕を見る。


「《空間収納》は偶然できました。本当に便利な魔法ができてよかったです。まだまだ入りますよ」


僕は笑顔で答えた。

レッドドラゴン2匹は、僕の《空間収納》の中に入っている。



「コーキ!お疲れ様!ギルドマスターが部屋で待ってるわよ」


一足先に戻っていたカリンが、僕達を見つけて駆け寄ってきた。


「……って!ちょっと!鎧に穴空いてるじゃない!?大丈夫?」

カリンが僕を心配そうに見ている。


「大丈夫ですよ」

僕は余裕な表情で答えた。


「本当…すげぇよな。あれモロに食らって血も吐かないんだもんな…自信無くすぜ…」


ヘルディさんが空笑いしつつ落ち込んでいる。


「今僕が使える中で1番防御力のある身体強化を使っていたので…それでもかなりダメージありましたよ…。それに、ヘルディさんの最後の強化。あれで一撃食らってたら多分立てなかったかも…」


僕はちょっと気を使って言った。


「はは…そう言うことにしておいてもらうよ…」

ヘルディさんは苦笑いしている。


「そうだ。カリン。ギルドマスターと話しが終わったら、少しお話ししたい事が…」


僕はカリンの目を見て言った。


「……重要な事?分かったわ!」


カリンは何かを察した様に頷いた。



「待っていました。ヘルディさん、コーキさん。どうぞこちらへ」


僕達が帰って来た事に気付いたベルビアさんが、奥の部屋から出てきた。


僕達は出発前に借りた応接室に行った。


――――――――――――――――――――


☆ジャーロヘガル州【冒険者ギルド:応接室】


出発前に部屋を借りた時と同じ席にそれぞれ座る。


「緊急な依頼の中、被害もなく討伐していただき、ありがとうございました。まずはこちらが討伐報酬になります」


そう言ってベルビアさんは僕とヘルディさんの前に木のトレーに綺麗に置かれている白金貨2枚を置いた。


「俺の報酬はいいって言ったろ?」

ヘルディさんが笑いながらベルビアさんに返した。


「いいえ、被害ゼロで討伐していただいた冒険者に無報酬では…ギルドの信用に関わります。受け取ってください」


そう言われたとあっては断る事ができず…ヘルディさんは受け取ることにしたようだ。


「ドラゴンの死体は業魔の森にそのまま?」

「いや、コーキが2匹とも持って帰ってきた」


「……え?」

ベルビアさんが理解出来ていないような表情をしていた。


「まぁそう言う反応になるよな…俺もこの目で見るまで信じられなかったし…」


ヘルディさんがベルビアさんの表情を見て共感していた。


「流石にここは狭いので後で出しますね」

僕はベルビアさんに笑顔で言った。



「だ…出す!?は…はぁ…お願い…します…」

ベルビアさんは困惑した表情のまま、細々とした声で答えた。



「そうだベルビアさん。俺また旅に出るつもりだ。今度は…暫く帰ってこないかもしれない」


「そうですか…でも…やらなければならない事なんですよね!頑張って下さい。私たちはいつでもヘルディさんの帰りを待ってますよ」


ヘルディさんとベルビアさんは相当信頼関係が厚いらしい。



「コーキ。ドラゴンの死体、下の訓練場に置いてはどうだ?そうすれば査定してもらえるだろう。ついでに魔石も採取しないとだしな」


「そうですね!では行ってきます」

「私も行くわ」


僕はヘルディさんの提案に乗り、カリンと共に応接室を出た。



―――――――――――――――


「……で、鎧が粉々になっていたって事は…コーキさんと手合わせしたんですか?」


「ああ…負けたよ」


「!!」

ベルビアが驚いた顔をした。


―――スッ――――


ヘルディはベルビアの方に体ごと向いた。


「たぶん…コーキはまだ、力を隠してる。俺と戦った時に今ある最強の身体強化を使ったと言っていたが…コーキの奥底から得体の知れない力を感じた。俺でも計り知れない力だ…」


ほとんど笑顔のヘルディが、真面目な顔をしていた。


「彼は…信用に足る人物なのですか…?もしかして…彼を監視する為に旅を?」


ベルビアが心配そうにヘルディを見て、問い掛ける。


「ハハッ!監視なんてしねぇよ!…だが…手合わせをしてよかった。あいつは信用できると俺は思う」


ヘルディは笑いながら答えた。


「――――問題は…カリンの方だ」


ヘルディがまた、真面目な顔をした。


「カリンさんですか…スヴェール王国出身と言っていましたね。あの白いローブ…おそらく聖女様だとは思いますが」


ベルビアも考え込む表情をした。


「そう、それなんだ。スヴェール王国の聖女様と言えば、歴代の聖女の中で1番強力な聖魔法を使うと聞く。その聖女様が何故コーキと共にいる?そもそも…何故国を出ているんだ…?」



白いローブ自体は魔法使いでも着る人はいるし、女性神官も白いローブを着ている。

だから白いローブを着ているだけで聖女と断定はできない。


だが、出身がスヴェール王国となると違う。

スヴェール王国は神殿の本拠地があり、白を纏うとこを許されたているのは、大神殿の関係者だけだ。


白を少し使うくらいなら平気だが、カリンみたいに模様以外は綺麗な白が使われているローブを着れるのは、大神殿関係者でもごく一部だ。


ヘルディとベルビアが聖女だと考えるのも無理はない。

まぁそもそも、カリンに聞けば普通に答えてくれるから、考える必要すらないのだが…。



「カリンさんが聖女様なら…スヴェール王国が放っておく筈がありません。もしかしたら追っ手が来ているかも知れませんね」



「ああ…俺がコーキと共に旅に出る事をカリンに話すつもりで一緒に夕飯を食べる予定だ。その時に…聞いてみようと思う」



「それがいいですね…もし聖女様なら…」


ベルビアが喋るのをやめた。


「…………」


ヘルディも沈黙する。


―――――応接室はとても静寂としていた


―――――――――――――――――――――


☆冒険者ギルド【訓練場】


一方その頃、訓練場では――



―――ズド〜〜〜ン――――



「「「…………………」」」


訓練場に置かれたドラゴンの死体に、査定員・受付のお姉さん・噂を聞きつけた冒険者達は言葉を失っていた…。


「こっちの頭が無いのが僕が倒した方で、こっちがヘルディさんが倒したやつです」


僕は2匹のドラゴン、それぞれを指差しながら説明した。


「査定は一応僕とヘルディさん別でお願いします」


「「…………」」


……ダメだ。

この場で喋ってるの僕だけだ…。


唯一カリンが笑っているだけで、みんな一言も発しない…。



―――――査定が今日で終わるはずもない。

僕はカリンと訓練場を出て、以前ドリアを食べたお店に行った。

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