第11話 どうして…
両者睨み合う中、先に動いたのはヘルディだった。
《剛拳衝破》
僕とヘルディさんの距離など気にせず放たれたその拳から、物凄い拳圧が放たれた。
――――ブォォォォォ――――――
――――バキバキバキバキッ――――
拳圧で僕の後ろにあった木がどんどん折れていく。
僕は必死に耐えていた。
すると一瞬でヘルディは僕の目の前まで来て
――――ボコッ――――――
僕は吹っ飛ばされた。
―――――ピシッ―――――
僕の鎧にヒビが入った。
なんて威力だ…
僕は咄嗟に拳を防ぎ鎧にヘルディの拳は当たらなかったのだ。
それなのにヒビが入った。
もし…拳を防ぐ事が出来なければ、鎧は粉々になっていただろう。
《炎拳えんけん》
《雷拳らいけん》
ヘルディの右手は炎を、左手は雷を纏った。
《炎拳弾》
拳を振ると、巨大な握り拳の炎が僕に向かってきた。
《風雷一閃》
――――シュッ―――――
僕は剣を振り、炎を斬った。
風雷一閃…風魔法で振りのスピードを、雷魔法で貫通力・斬れ味を高めた僕のオリジナル魔法?オリジナル剣技だ。
「この炎を斬るか…本当…凄えな」
――――ドッ――――
「グハッ……」
いつの間に僕の懐に…
僕はヘルディの雷拳をくらった。
僕の鎧にはヘルディの拳の穴が空いた。
どうやらヘルディの雷拳も、貫通力を高める効果があるらしい。
(強い…これがSランクか)
それにしてもこの拳…物理攻撃…もしかして…
「ヘルディさん…1つ聞いてもいいですか?半年ほど前、ガドーネス王国の神殿に行きましたか?」
僕はあの崩れた神殿がヘルディの仕業ではないかと思った。
「ああ行ったぜ。つーか…まどろっこしい話は無しだ。お前、使徒だろ」
「え!?」
驚いた。僕から確かめようと思っていた事を、ヘルディが言ったのだから。
これで、ヘルディが神の使徒というのは確定だろうな。
……問題は…どっちの使徒だ?
「ヘルディさんも使徒ですか?」
「ああ。そうだぜ。やっぱり…お前は使徒だったか、んじゃ悪いが死んでくれ」
そういうとヘルディさんは全身に雷を纏った。
「6速に雷。さっきのに反応できなかったお前には防ぐことはできねぇ」
――――バチッバチッバチッ――――
纏った雷が音を立てる。
《七剣星・氷結》
――――パキッパキッ――――
氷でできた7本の剣が僕の周りに出てきた。
一本が僕の近くに落ちる。
―――パキパキパキパキッ―――
落ちた剣を中心に地面に氷が広がっていく。
ヘルディの足元にも氷がいった。
ヘルディがジャンプした。
―――その瞬間を狙い、残り6本をヘルディ目掛けて飛ばした。
《極熱炎拳》
魔力を右手に集中させ、強力な炎が右手を纏っていた。
向かってくる拳を一飲みにする程の炎を放つ。
一瞬で残り6本が解かされた。
……かに思われただろうが、違う。
ヘルディの拳を氷漬けにした。
「うぉおおおお!!」
炎の出力を上げ、必死に解かそうとする。
僕がその隙を見逃すわけがない。
――――シュッ――――
―――パキパキ――――
僕が振った剣をモロに受け止めて、鎧は崩れていった。
丸腰になったヘルディ。もはや勝負は見えた。
「くそっルージア神の使徒に負けるとは…」
ん?ヘルディさんは今、ルージア神の使徒…と言ったのか?
「ヘルディさん。僕ルージア神の使徒ではないです」
「じゃあ…お前も…地球神の使徒?」
「はい」
「そうか…悪かったな、殺そうとして」
僕達は戦うのをやめ、握手した。
「それで、聞かせてもらえませんか?何故、ガドーネス王国の神殿を破壊したんですか?」
戦いが終わり、僕は聞きたい事を質問した。
「あ〜…そうだな。コーキと一緒にいたカリンも地球神の使徒なのか?」
「いえ、彼女は聖女ですが使徒ではないです」
「そうか…ならギルドで話すよりここで話した方がいいな」
そう言うと、ヘルディさんは岩の方へ歩き、座った。
僕もそれに続き、適当な岩に座る。
「俺と同じ、地球神の使徒に会うのはコーキが初めてだ。だが、俺はルージア神の使徒とは会った事がある」
なんと、ヘルディさんは既にルージア神と遭遇していた。
「いいか、コーキ。お前はルージア神の使徒ならSランク冒険者になっていると思い、俺の元に来たのだろう?だがな、ルージア神の使徒が冒険者とは限らねぇ」
ヘルディさんは真剣な表情で僕の目を見て言った。
「ガドーネス王国の神殿を俺が壊したと言ったな。あの神殿の神殿長はルージア神の使徒だった。だから俺は戦った」
遭遇したどころか戦ったのか…。
「つまり、ルージア神の使徒と戦った結果、あの神殿が壊れたと…。ヘルディさんはルージア神の使徒を倒したのですか?」
僕の問いに、ヘルディさんは顔を曇らせた。
「それがな。追い詰めてトドメの一撃を当てたら、スーッと消えたんだ…」
消えた…?
「…って事は、逃げられたって事ですか?」
「そうかもしれないし、倒した時に死体が残らない様にしたのかもしれない。ただ確実に言えるのは、消えた瞬間、奴の気配は完全になくなった」
逃げた場合でも気配は無くなるだろう。
本当にどっちだか分からないな…。
「ルージア神の使徒…どうでした?」
やっぱり…使徒だから強かっただろうな。
だが僕達地球神の使徒は、ルージア神の使徒も授かるであろう加護に加え、祝福も授かっているのだ…。
正直負ける気はしない。
「あ〜…強かったぜ。何故かあいつ、力を出しきれていない様だった。それなのに俺と互角以上に戦ったからな。最初に一撃与えるまでにかかった時間は、コーキよりも長い」
「ヘルディさんの6速で僕はすぐに一撃をくらいました」
僕は鎧の穴の空いた部分を指差しながら言った。
「ルージア神の使徒はそれすら避けたのですか?」
僕は苦い表情をして質問する。
「ああ、さっき使った6速に雷を纏ったやつ、あれで何とか一撃を当てる事ができた」
なるほど、僕はあれを見た瞬間やばいと思い、《七剣星・氷結》を使った。
あの魔法は7本の剣が属性効果を持ち、自在に操る事ができる魔法だ。
今回使ったのは氷属性。
落とした一本目で広範囲に氷を張り、足止めしつつ防御壁を展開するのが目的だった。
そして残りの6本でヘルディさんを倒すつもりだった。
結果的には防御壁を発動する前に勝てたが、もし失敗したらヘルディさんのスピードを見切れず、僕が負けていたかもしれない。
そのヘルディさんが何とか一撃を与えたと言っているのだ。
相当手強いな……
「コーキ。お前はまだルージア神の使徒と戦っていないんだろう。よく覚えておけ。ルージア神の使徒は加護の他に才・能・と言うのを授かっている」
……才…能…それって…地球が滅ぼされる前、まだ地球神が神だった頃、人間に授けていたと言っていたものだ。
どうして……ルージア神の使徒が才能を……
―――僕は驚き、沈黙してしまった。
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