第27話 黒神狼7


………はぁ、はぁ、危なかった。


《身体強化・極》を使ってなかったら、かなり深手を負ったはずだ。



僕が必死に抵抗した効果か、エネルギー砲の威力は落ちていた。


思っていた程のダメージは受けなかった。


だが…

(この方角…南の村は大丈夫か?エネルギー砲の威力が落ち、射程範囲はかなり狭まったはず。当たってないといいけど…)



黒神狼は魔力をほぼ使い果したのか、フラついていた。

おそらく黒神狼も最後の賭けとして、あれを放ったのだろう。


僕は黒神狼の方へ右手を向け


《炎纏矢ファイアー・アロー》


必要以上の魔力を込め、強力になった炎の矢を放った。


―――黒神狼は炎の矢によって命を落とした。


生き残っていたモンスター達は一斉に逃げ出した。


恐らくあのモンスター達は黒神狼に操られていたのだろう。

そう考えると、馬車を置かせてもらった東の村で、他種のモンスターが徒党を組んでいたのも納得いく。



(強かったな…。魔法を覚えなければ負けていた。師匠との修行の日々は無駄ではなかった!

それに、この依頼受けてよかった。闇魔法を見る事が出来たんだから。

《空間移動》か…僕にもできなかいかな?

闇属性が使えないといけないのかな?)


僕は右手を出し、黒神狼が闇に吸い取られる様子を思い出しながら魔力を放出した。


――すると、そこには円型の不思議なものが出現した。


(もしかして、これは別空間?)


僕は近くに倒れていたオークを、半分その空間に入れた。

10秒ほどして取り出したら、何も消滅する事なくオークが出てきた。

今度はオークの全身をその空間に入れてみた。

勇気を振り絞り、僕はその空間に手を入れた。


(……あっ!何かある!……これは、オークの足だ!)


僕は空間の中にあるオークの足を掴み、空間から引っ張り出した。


――状態そのままのオークが出てきた。


――僕は思いがけず《空間収納》を習得したのである。


僕は次々と倒れているモンスターを空間収納でしまう。

残りは黒神狼。

僕は黒神狼に触れた…。


―――ドクン―――


(な、なんだ…この感じ…)


僕が驚いていると、《魔力吸収》を使用していない筈なのに、黒神狼の魔力が僕の中に入っていった。


――――特に何も変わらなかった。


(なんだったんだ…今の)


僕は不思議に思いながら、黒神狼を空間収納にしまった。


――――――――――――――――――――


僕は馬車の置いてある東の村ではなく、南の村の様子を見てきた。


黒神狼の放ったエネルギー砲は村の近くに落ちたらしい。

大きいクレーターができていた。


衝撃波により家が崩れはしたが、命を落とした人はいないようだ。


よかったー!


僕は南の村の村長さんに、空間収納の中にある一部のモンスターの死体を渡した。


(これで修繕費の足しになれば……食料にもなるし、オークも置いてくか)


―――戻ろう。

僕は馬車の置いてある東の村に向かった。


―――――――――――――――――――


翌日。


僕は東の村で一泊し、馬車に乗ってダルパニア王国へ向け出発した。


来た時と変わらない道。


5日程で着いた。



以前とは違う守護兵に黒神狼の討伐が終わったから謁見させて欲しいと伝えたら、すぐに通された。



――――――謁見の間――――――



「黒神狼を討伐したと…ありがとう。討伐した証に、素材を見せてくれ」


僕は空間収納から黒神狼を取り出した。


「「「なっ……」」」


僕以外の全員が驚いていた。

もちろん黒神狼がそのまま謁見の間に持ち込まれたのもあるが、おそらく何も無いところから黒神狼を出した《空間収納》の方に驚いたのだろう。



「こちらが今回討伐した黒神狼になります」


「「「…………」」」


みんな黙ってしまった。


少しの間沈黙が続き―――


「今、其方はどうやって黒神狼を出したのだ?」


国王は不思議そうな顔をして聞いてきた。


「空間収納と言う魔法を使いました。習得の仕方に関してはお話しできません」


僕みたいに習得できるとも限らないし、習得できる人が増えれば大容量の魔法バックの価値が落ちてしまう。

それに偶然の産物だしね。


「そ…そうか…」

国王の残念そうな顔を見ながら、僕は黒神狼をしまった。


「――っ。その黒神狼の素材は貰えないか?」


「今回の依頼は討伐であって、素材の納品は含まれていません。それに、本国に帰り我が国の王にも証拠としてお見せしないとなので」


討伐依頼で素材の納品希望が無ければ、売るも売らないも自由だ。

友好国とはいえ、他国で売るつもりはない。


国王は何か言いたそうな顔をしていたが、納得した。


僕の剣も折れちゃったし、黒神狼のツノで剣をつくれば強度抜群のができそうだ。


皮は師匠とシャルミア姫に服を作ってプレゼントするつもりだ。


師匠と出会わなければ僕は黒神狼に負けていたし、シャルミア姫は僕の婚約者だ。

喜んでくれると嬉しいな〜!


僕は報酬を受け取った。

白金貨40枚と大金貨15枚。


……やばっ!

これで半分!?


白金貨は日本円で1枚1000万。

大金貨は日本円で1枚100万だ。


―――つまり、4億1500万円だ。

これが半分だから、トータル報酬8億3000万円。


……凄すぎ。



だが、大金貨以上は貰っても使うのが困る。

大抵の店ではお釣りが足りない。


貴族家当主みたいに大金を使って領地運営するならともかく、ただ飲み食いするだけに大金貨は使えないのだ。



だからブルードラゴンの報酬でも、大金貨ではなく金貨で500枚にしてくれたのだ。


参ったな〜。高額な貨幣にも限度は必要だよ…


――――謁見が終わり、僕は一泊したのちゴースリア王国に向け出発した。

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