第26話 黒神狼6


う〜ん…


黒神狼は間違いなく本気になった。


――ジリッ――


僕は右足を少し動かし、移動する動作をした。


その瞬間―――


黒神狼の右後方から爪を立て、右前足を振り落としてきた。


「見えてるよっ!」


僕は身体を後ろに向けながら、剣を振った。


(――捉えたっ)


これなら黒神狼が前足を振り落とすより前に、僕の剣が黒神狼に当たる。


――――ブゥン――――


僕の剣が空振りする虚しい音が聞こえた。


「えっ?」


僕は驚いた。


さっきまで目の前にいた黒神狼が一瞬で消えたのだ。

しかも動きを追うことができていた僕が見失うほどのスピードで…


(どこいった…)


僕はキョロキョロしながら周りを見た。


(いない…《探索サーチ》)


辺り一帯は先程、黒神狼の咆哮で吹き飛んだ。

だがその範囲に黒神狼は見えない。


僕は探索を使い黒神狼を探した。


「……!!ありえない…」


見つけた。1kmは離れたであろう、黒神狼の寝床に戻っていた。


僕は急いで寝床に向かおうとする。


が、黒神狼は逃げたわけではないみたいだ。


闇属性の、黒い雷を纏ったビームを放ってきた。


「ぐっ…」


僕は剣で受け止めた。

ビームは僕を境に左右に分かれている。


……………防ぎきった。


――――――ドドドドドドドド――――――


物凄い音がする。黒神狼は僕のところ目掛けて走ってきているのだろう。

すると森と更地の境で黒神狼が大きくジャンプした。


雷光線サンダー・ビーム


僕は空高くジャンプした黒神狼に向かって、大きな雷の光線を放った。

僕の使える、雷の上級魔法のうちの1つだ。


タイミングは完璧だった。


このまま何もしなければ確実に当たる…そう…何もしなければ。


黒神狼の左前足に闇属性魔法の力が集まっている。


すると空に巨大な黒神狼の左前足が出現した。

そして黒神狼が左前足を振り抜くと同時に、巨大な闇の左前足も振り抜かれた。


僕の上級魔法は防がれた。


だがその間に、僕はジャンプし黒神狼の背後を取った。


空中だ。

今度こそ避けられない。


僕は全力で剣を振った。


――――ズドーーーンッッ!!!!――――


僕が振り抜いた剣の斬撃が地面を抉る。


また空振りしたのである。


だが、今度は見逃さなかった。


黒神狼は僕の剣を避ける瞬間、全身に纏ってる闇のオーラを自身を中心に円になるようにコントロールしていた。

その円の闇に吸い取られるようにして移動したのである。


(《空間移動》の魔法だ!人間では誰一人習得できなかった魔法だ。さっき寝床に一瞬で戻ったのもこれか…。さて、どうしたものか…)


黒神狼は、今度は遠くには行ってなかった。



(空間移動の魔法を使ったのは2回。両方とも剣を避ける時だ。ここぞという時にしか使えない、何かしらの理由があるのか?……魔力の消費が激しい…とか、身の危険を感じた時のみ使える…とか?)


「…ふぅ。強いな。仕方ない。あれを使うとしよう」


《身体強化・風煙》

《闘気魔法・火》


「さて…と。いくよ」


僕は黒神狼の方を見て剣を構えた。


《身体強化・風煙》は普通の身体強化に風属性が加わり、スピードが更にアップする魔法。


《闘気魔法・火》は武器に属性を付与する魔法だ。

今回は火だから、ジャールから貰った剣に炎を纏わせている。


どちらも僕のオリジナル魔法である。



―――ドッ―――


僕が地面を蹴った音が大きく鳴り響いた。


僕は黒神狼に近づいた。

流石だ。僕の動きに食らいついてくる。


だが今の僕の攻撃とスピードはいつもと一味違う。


いくら黒神狼のツノとはいっても、火属性付与された僕の剣を受け止めることはできない。


「まずは一本」


僕は黒神狼のツノを一本斬った。


ツノで僕の剣を受け止めようとした黒神狼は驚き、距離を取ろうとした……


「………二本」


僕はツノを二本とも斬り落とした。


僕の攻撃でツノを失った黒神狼は、もう僕の攻撃を受け止める手段はない。

ツノを容易く斬られた以上、爪で受け止めても前足ごと斬られるのは黒神狼も想像ができたのであろう。


黒神狼は距離を取り、僕を睨みつけていた。

その顔からは怒りと恐怖が入り混じっている様に見えた。


「グゥゥヴヴゥゥゥ………」


黒神狼は威嚇音を発しながら、毛を逆立てていた。


纏っている闇が大きくなる。


(ここは南の方にある村まで約2kmといったところか。これ以上の力では村も巻き込まれる可能性がある…そろそろ決着をつけないと…)


僕はそう思い、黒神狼に向かって行こうとした。


―――――ドドドドドドドド―――――――


何かの大群が走ってくる音が聞こえる。


森から大量のウルフがこちらに向かって走ってきている。

奥にはゴブリン、オーク、ジャイアントスネーク。

空には怪鳥。


森に生息しているモンスター達が集まってきている様だ。


僕は大量のモンスターに囲まれた。


だが、今の僕ならこの量のモンスターを相手にしてもあまり時間はかからない。


《爆炎斬》


僕は後ろを振り向きら火属性付与されている剣に更に火属性魔力を込め全力で振った。


炎の斬撃が僕の後ろにいたモンスターの大群を斬っていく。

今の僕の攻撃スピードについて来れるモンスターはいなかったのだ。


《火炎砲》


僕は左手を左側にいたモンスターの大群に向け、僕の身長の3倍はある炎の玉を放った。



《爆炎斬》


左側にいたモンスター達が炎の玉に気を取られているうちに、右側にいたモンスター達に炎の斬撃を放つ。


これで左右・後ろにいたモンスター達は、殆ど倒した。

生き残りはいたが、もう戦意はないだろう。


あと残っているのは黒神狼と、その近くにいる正面のモンスター達だけだった。


僕が黒神狼の方を向くのと同時に、黒神狼が闇のエネルギー砲を放ってきた。

さっきのとは違い、黒い雷は纏っていなかったが、威力は桁違いだった。


「ぐっ……」


僕は全力で受け止めた。


(これを止めなければ、南の村に直撃する)


剣に付与されている火を更に強くした…。


――――バキッ――――


剣は闇のエネルギー砲に耐えきれず折れてしまった。


僕は両手でエネルギー砲を受け止める。


―――ズズズッ……ズサッ…――――


エネルギー砲にどんどん押されていく。


《身体強化・極》


僕は身体強化の強化版を使用した。

これは魔力消費が多く、《身体強化・風煙》よりはスピードが強化されない。

どちらかというと、攻撃と防御に重点を置いた身体強化だ。


押されることはなく、拮抗した。

これならいけるっ!!


―――そこに、僕がエネルギー砲に耐えてる隙をねらいモンスター達が襲ってきた。


両手が塞がった状態の僕はウルフの突進により体制を崩した。


――――僕はエネルギー砲にのみ込まれた。

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