第25話 黒神狼5



「助けていただきありがとうございました。なんとお礼を言えば―」


「礼は不要です。そんな事より怪我された方はいらつっしゃいますか?」


ヨボヨボのお爺さんが村の住民を代表して、僕にお礼を言ってきた。


「抵抗して戦っていた大人達が怪我を…」

そう言ってヨボヨボのお爺さんは、歓喜に湧いている住民達より奥を指差した。


僕は怪我人のところへ向かった。


(男性5人か…。ん…この人の怪我は酷いな)


僕は肩と腕、右足を噛まれて血だらけになっている男性に近づき、魔法バッグから回復薬を取り出した。


(ダルパニア王国の宰相様がくれた回復薬、役立ったな〜)


ダルパニア王国の宰相様が宿泊先を手配してくれた時、この回復薬もくれたのだ。


(凄い効果だな〜)


どんどん傷が塞がっていく。


「……っはっ!ゔっ…」

男性は意識を取り戻した。


「大丈夫かっ?」

ヨボヨボお爺さんが大怪我を負っていた男性に話しかけた。


「大丈…ゔっ…!大丈夫です…。村長」


村長だったーーー!!!

ヨボヨボなお爺さんって言ってごめんなさい!!!

だって事実なんだもん…


「この方が我々を助けて下さり、お前に回復薬まで使って下さったんだ」


僕の方を2人が見つめてくる。


「助かりました。この御恩は…」


「いえいえ、お気になさらず。それより今は安静にしていてください」


そして僕は、モンスターの死体の山を見て村長に尋ねてみた。


「それにしても、何故この数のモンスターが人里に…こういう事は過去にもあったんですか?」


「いえ…この規模は今までありませんでした。しかも他種のモンスターが徒党を組んでくるのは初めてですす」


(なるほど…黒神狼と何か関係があるのか…?)


「では、このモンスターの死体は村の皆さんに寄付します。魔石や素材を取り、損害の出た家や柵の修繕に充ててください」


「なんと…助けていただいただけでなく素材まで…。それは受け取れません。私共では何もお返しできない」

村長は首を横に振りながら、申し訳なさそうに言った。


「僕が乗ってきた馬車を置かせていただければ十分です。あ、あとこの村で宿泊できるところを教えていただければ」


僕は笑顔でそう答えた。

村長はまだ申し訳なさそうにしていたが、折れた。


その日の夜、村はお祭り騒ぎで、僕はその宴の主役になった。


―――――――――――――――――――――


翌日、僕は村のすぐ近くにある森の中にいた。


黒神狼の寝床の場所は分かっている。


そろそろ探索の範囲内かな?


探索サーチ


僕は辺り一帯の魔物の気配を感じ取った。


(……うん。寝床と情報貰った場所に一際大きな反応がある。間違いない黒神狼だ)


僕は反応のする方へ向かった。


―――――――――


――――――


――――


20分程歩き、黒神狼の寝床に到着した。


――――そこには、黒い塊りが眠っていた。


その塊りは僕に気付き、顔をこちらに向けた。


数秒睨んで、重い腰を上げるかのように起き上がった。


(デ…デカイ)


僕が小さいってのもあるけど…

でも180cmくらいの男性よりあると思う。


そして威圧感が半端無い。


ドラゴンとは比べ物にならない。


――僕は剣を抜き、ゆっくりと呼吸を整えるように構えた。


黒神狼は僕の方をずっと睨んだままだ。


その瞬間―――


―――ヒュン―――


黒神狼は物凄いスピードで僕の右側に回り込むと、爪を立てて右前足を振り下ろしてきた。


(ものすごく早い。…けど見えないわけじゃ無い。反応もできる!!)


―――ガキンッ―――


僕は剣で受け止めた。


防がれた黒神狼は一度距離をとり後退した。


―――ドンッ―――


後退してすぐに、黒神狼は僕に向かって突進してきた。


僕は剣で防ぐも、衝撃には耐えきれず吹き飛ばされた。

吹き飛ばされてる間も黒神狼の攻撃は止まらない。


――キン、キン――キンキンキンッ―――


吹き飛ばされながらも、僕は攻撃を防いでいた。


さっきから背中に木が当たってくる。

全部折れていくが…


―――ズサァァァァ―――


ようやく攻撃が止み、僕は地面に着地した。

1km近く飛ばされた。


(スピードは見えるけど…これは身体強化を使わないと突進の衝撃には勝てないな…)


《身体強化》


僕は身体強化を使い、また黒神狼と正面で睨み合いながら剣を構えた。


黒神狼はまた、突進してきた。


――――ドンッ―――


「……っ。ふぅ〜今度は耐えたよ」


剣の面と、黒神狼の頭がぶつかり合っている。

両者一歩も引かず、力が拮抗している状態だった。


黒神狼は後退し、上を向いた。


「グォォォォォォォォ」


物凄い咆哮だ。

黒神狼を中心とした、半径500mくらいの木々は全部吹っ飛んだ。


僕は必死に耐えた。



黒神狼がこちらを向く。


黒神狼の頭には角が二本生えていた。


それだけじゃない。


――黒神狼は全身に闇を纏っていた――



―――闇魔法は、やはり存在していた。


禍々しいオーラに包まれた黒神狼はギラギラした目でこちらを睨んでいた。

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