第19話 帰路…そして…


…眠い。


いつもの岩場で昨日の続きをしている。


昨日僕が閃いた掃除機作戦は上手くいった。

僕の右手は光るが、魔法は発動していない。


「凄いわね!コー!ちゃんとコントロールできてるわ。じゃあ次、そのまま私の魔力をすってみて」


そういって師匠は僕に右手を差し出した。


(…っ。昨日師匠はこの右手で…)


僕は楽しんでいたであろう師匠の右手を把握し、掃除機で師匠の魔力の塊を吸引するイメージをした。


――コォォォォ――


師匠の魔力が僕の身体に吸収されていく。


「成功よ。まさか魔力に余力がある状態で、ここまで持っていかれるとは思わなかったわ。《魔力吸収マナ・ドレイン》習得おめでとう」


師匠は嬉しそうに笑った。

あの目つきの鋭い師匠がとても可愛く見えた。



その後、僕はいくつかの無属性魔法を教えて貰った。

それとは別に、僕は例の目的の為あの魔法の習得も同時に目指した。



結論から言おう。

僕は第三の目、空間視野。この魔法を習得する事は出来なかった。

だが何も収穫がなかった訳ではない。

副産物として《索敵サーチ》魔法が使えるようになった。

今はまだ半径1kmといったところか…

練習を重ねていけば範囲は広がるだろう。


師匠の青春を見るのは当分先になるか、機会は無いか…勿体ない。


ちなみにもう一つ。《転移》魔法が使えれば便利だろうと思い、それも習得を目指したが出来なかった。

そもそも《転移》魔法が使える人はいないらしい。


僕は転移先の風景をイメージし、魔力を全身に行き渡らせていたが、やり方が違うのかもしれない。


転移もまた、いつか習得したい魔法だ。


――――――――――――――――――――――


あれからまた約3ヶ月経った。


僕は明日、サランド領に帰る。


今日はガルドス様に模擬戦を申し込まれ、僕が勝った。

ガルドス様の槍術は凄まじく、ちょっと手こずった。

全力で剣を振る訳にはいかないしね。

技能の加護が無ければ上手く捌くことはできなかっただろう。


模擬戦が終わった後は、食事をした。

最後だからと、カレーライスをいただいた。


泊まるのは今日で最後。


今日は師匠が僕のベッドで一緒に寝た。

師匠からしたら8歳の男の子と一緒に寝てるだけ。

貴族令嬢だか、特に気にしていないだろう。

だが僕からしたら違う。15歳と8歳(+17)だ。


くそっ…

僕は最終日、寝不足で朝を迎えた。


―――――――――――――――――――


ファルド伯爵家、屋敷の扉の前で、僕はファルド伯爵一家にお見送りしてもらった。


「コー。あなたと過ごしたこの半年、楽しかったわ。私決めた!学園で魔法の教師を目指すわ」

師匠は鋭いキラキラした目つきで宣言した。


「コーキ君。ありがとう。君のおかげでナチールにやりたい事ができた。またいつでも来てくれ。歓迎するよ」


僕はガルドス様と握手し、お世話になったお礼を言って馬車に乗り込んだ。


この半年間で僕はかなり成長したと思う。

今ならルージア神の使徒を相手にしても負けない自信がある。


サランド領に戻ったら、久し振りにギルドへ行き依頼を受けよう。


僕はそう思いながら馬車に揺られていた。

帰路も無事、何事もなくサランド領に到着した。


―――――――――――――――――――――


☆サランド領【自宅】


僕はレイジェント邸に着いた。


半年振りの我が家だ。

今日はゆっくりして、明日ギルドでも行こう。


僕は明日の計画を立て、レイジェント邸の門を潜った。


バンッ!!


屋敷の扉が勢い良く開き、ダムルスが慌てて出てきた。

なんだ父様。半年振りの息子と感動の再会で感極まって抱きしめに来たのか?我が父ながら可愛い奴め!


なんて思いながら

「ただ今戻りました。父様」

と、僕は満面の笑みで言った。

さぁさぁ、抱きついて来なさい。そして感動の涙を流しなさい、なんて思っていたら


「待っていたぞ!コーキ!そのまま直ぐに出発するぞ!これから王都へ行く」


慌てた様子で、先程まで僕が乗っていた馬車に僕を担いで乗り込んだ。


…えっ?


…えっ?


…どういうこと…?


…なんで王都?


「父様、慌ててどうしたのですか?」


「国王様に謁見しにいく。先月から話をいただいていたが、お前が魔法習いに他領行っていると伝え、待っていただいたのだ。本来なら途中で連れ戻すべき所、国王様はお前の予定を優先してくださった。お前の予定が終わった今、急いで行かなければ失礼だろう。早馬でお前が戻ってくる事は伝えてある」


………えええぇぇぇぇぇっっっっ!!!!!!


…謁見…緊張する。


僕は半年振りの屋敷に入る事もなく、サランド領を後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る