第18話 右手の青春
約3ヶ月経った。
僕と師匠はいつもの岩場で魔法の修行をしている。
魔導書で読み取った、全属性の上級魔法までは完全にコントロールできるようになった。
脳内でイメージした魔法を詠唱破棄で使える僕は上達が早かった。
だが、超級はまだ使った事すらない。
おそらく今の僕なら超級魔法も難なく発動できるだろう。
しかし、魔法の発動にはそれぞれ必要魔力量が存在する。
魔導書では、必要魔力量がどれくらいなのか分からない。
だから実際に魔法を使い、感覚で覚えるしかないのだ。
じゃあ使ってみればいいじゃないか。…そう思っただろう。だが、僕は桁違いの魔力を持っている。
上級魔法を初めて放った時、僕は全魔力量の内、3割程度の魔力で放った。
そしたら広い岩場では足らず、その奥の森にまで魔法が到達してしまった。
そう、その魔法に対して魔力を使いすぎたのである。
何故3割の魔力を使用し、魔法を放ったか…
師匠から聞いた話だと、上級魔法が使えるレベルの一般の魔法使いは魔力を6〜7割程使用するのだとか。
その分、魔法は強力で一撃必殺の技として使える。
ちなみに師匠は最初5割消費していたらしい。
今では魔力量が増え3割になったそうだ。
つまり超級の魔力使用量がわからない以上、ここで放つ訳にはいかなった。
間違いなくコントロールできない超級の魔法範囲は森に届くし、そこにいる動物、冒険者、モンスターを巻き込む可能性はかなり高い。
生態系に影響を及ぼし、モンスターが近くの村を襲うかもしれない。
…というわけで、それなりの広さを確保した場所を見つけるまで、超級はお預けだ。
さて、全属性(闇以外) は習得した。
次は無属性である。
無属性は便利な魔法が多い。しかし無属性の魔導書は存在せず、習得は難しい。
唯一習得しやすい無属性魔法は《身体強化》だ。
《身体強化》は全身を覆う微力な魔法だけで使用できる。
魔力のコントロールができなくても、剣士など、身体能力を極めた者は自然と習得できる。
身体能力を極めていない者でも、魔力コントロールさえできれば習得できる。魔力を全身に薄く伸ばし、行き渡らせるイメージだ。
僕が今から教わるのは
【
師匠と初めて会って握手した時に使われた魔法だ。
「コー。まずは右手に魔力を持っていくわ。持っていったら渦のような物をイメージして。その状態で相手に触れ、相手の魔力の塊をイメージするの。そしたら相手の魔力をこちら側に吸い込ませるイメージ。そうすれば発動するわ。無属性の良いところは詠唱が必要ないところ。難点は魔導書が無いから術式が分からず、イメージもしずらい」
師匠の説明を聞き、僕は右手に魔力を持っていき渦をイメージした。
ヒューーー…ゴーーーーーッ!!!
気づいたら風属性魔法が発動していた。
これは…難しいぞ。
「難しいでしょ?渦を作るイメージをしても、渦の方に気を取られ魔法を放ってしまうの。今発動した竜巻は、コーがイメージした渦ね。体内に渦を留めるには集中力が必要よ。慣れるまで時間かかるかもしれないわ」
―――この日の修行では、体内に渦を留めることができなかった。
―――――――――――――――――――――
3ヶ月経ったことで、僕と師匠は大分親しくなった。
食事が終わった後も僕の部屋で魔法の話やら、師匠の学園での思い出など、話をして過ごす事が多くなった。
先週からは僕の部屋にもう一つベッドが置かれ、僕と師匠は同じ部屋で寝るようになった。
今日もいつも通り他愛のない話をして、それぞれのベッドに入った。
(今日は全然上手くいかなかった。初日で出来るようになるとは限らないし、普通は無理だ。仕方がない。
体内に渦をイメージするのがこんなに難しいとは。
何か他にいいイメージは無いだろうか……
……そうだ!
掃除機!!掃除機の吸引をイメージしてみよう。
もしかしたら上手く行くかもしれない)
僕は咄嗟の閃きでワクワクし、明日が待ち遠しくなった。
ベッドに入ってから暫く考え事をしていた。
明日に向けてそろそろ寝よう。
――僕は目を瞑った。
――――ゴソッ…ゴソッ――――
師匠が布団の中で何やらゴソゴソしている様だ。
寝返りかな?
そう思っていたら、師匠が必死に声を押し殺しながらゴソゴソしていた。
――――これは…あれだ。間違いない。
師匠は今、右手をフル活用し青春を謳歌している。
僕の前世の記憶が、見なくても師匠が今どういう体制で何をしているか即効で答えを出した。
僕の心はドキドキしている。っくぅ〜〜。
やばいっ…見たい。
見たくない男性などいない。
僕は8歳児だ。だから師匠も僕が隣で寝ていても気にせず右手の青春を楽しんでいるのだろう。
だが僕は元々高校生。17歳である。
師匠は15歳。この世界では成人として扱われる歳だ。
――この状況。キツすぎる。
魔法で第三の目を習得、または空間視野が広がる魔法を習得したいと心の底から思った僕であった。
僕個人の目標は決まった。
伯爵邸に泊まっている間に、絶対師匠の自家発電の様子をこの目に焼き付ける。僕は決意した。
―――師匠の息遣いが荒くなってきた。
さっきまでは左手で口を押さえていたのだろう。
だがおそらく今は布団か枕に顔を押し当てて声押し殺しているのか?
てことは今は左手も…
名探偵鏑木こうきは推理した。
―――声が抑えきれなくなってきている。
おそらく師匠は女性のもう1つの武器を弄っているのだろう。
間違いない…二刀流りょうてだ。
僕の心を踊らせる液体の音が部屋に響いている。
――――――しばらくして、師匠は眠りについた。
もちろん僕は寝不足ですよ、ちくしょーーー!!
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