第16話 師匠
僕の魔力を大量に奪ったナチールさんは驚いていた。
「いきなりごめんなさい。凄いわね、コーキ君。何ともないの?かなりの魔力を吸ったんだけど」
ナチールさんは戸惑いながら聞いてきた。
「はい。魔力を吸われた感覚はありましたが、特に身体に異常はないです」
「そ…そうなのね。驚いたわ。私の魔力が全回復するまで吸ったのに。魔力量が私とは桁違いだわ。これで魔法が使えるようになれば、コーキ君は賢者様にでもなれるわ」
「そもそもお前、そんなに魔力を消費していたのか?」
「ギルドの訓練場で中級魔法1発分の魔力が残るまで、魔法を打っていましたわ。」
あの物凄い爆発音。ナチールさんのだったのか…!!
俄然楽しみになってきた。流石魔法科の首席。
「それで…コーキ君。魔力を奪った私が言うのも何だけど、今から教えるのでも大丈夫?」
ナチールさんは物凄いやる気だ。気合いがこちらまで伝わってくる。
「はい!いけます!よろしくお願いします!」
僕はナチールさんのやる気に答えるよう、大きな声で返事した。
「それじゃ早速。いくわよ!コー!」
「はい!師匠!!」
僕達は走って応接室を出て行った。
取り残されたガルドス様は
「……模擬戦…ナチールが戻る前に申し込むべきだった…」
と残念な様子だった。
まぁ普通…伯爵家当主を前にして、走って居なくなるなんて思わないもんね…。ごめんなさい。
――――――――――――――――――
☆エークドル領【岩場】
僕達は馬車で領都から出て30分程したところにある、誰もいない岩場にいた。かなり広い。
「ここなら大抵の魔法を放っても領都には影響ないわ。もう魔導書は読み取ったと聞いたわ。なら、魔力の使い方を覚えて詠唱すれば打てるわ」
僕達は岩に座り、師匠の説明を聞くことから始めた。
「魔力はね。誰もが生まれ持ってるものなのよ。だけど全員が使いこなせるとは限らないわ。魔法神の加護を持ってる人は例外だけどね。」
師匠は右手を岩に向け説明を続けた。
「魔力は心臓の位置に塊があるイメージよ。そのイメージができたら、魔力の塊から右手に持っていく。右手まで持ってきたら詠唱開始。『炎の矢よ。我が魔力を用いて獲物を貫け!《炎纏矢 ファイアーアロー》』」
師匠の右手の前に小さい炎の矢が出てきた。
その矢は岩に真っ直ぐ飛んでいき、岩を貫いた。
「今のは初級魔術。魔力を使うのも、魔法も使うのもイメージが大事よ。じゃあ、やってみて」
僕は頷くと、右手を岩に向けた状態で目を瞑り、イメージした。
(まずは魔力の位置を確認。心臓付近。これか!今度はこれを右手へ。……なかなか動かない。ちょっと動いてはすぐ元の位置に戻ってしまう。……ダメだ)
僕は目を開けた。
「気にする必要はないわ。魔力を最初から扱える人なんていないわ。魔力は心臓の位置にあるけど、微力な魔力は全身に行き渡っているわ。だから誰でも生活魔道具を扱えるのよ。右手にある、その微力な魔力目掛けて伸ばすイメージよ」
(伸ばす…伸ばすイメージか。伸びる物…ゴム!…いやダメだ。伸びるイメージとしてはいいが、ふとした時にゴムパッチンをイメージしたら終わる。他に無いか…。……!!!)
僕は再び目を瞑り、右手を岩場に向けた。
(餅やピザのチーズをイメージした。………惜しい!!けど良いところまでいったぞ!いける!脳内に口をイメージした。そのイメージした口で魔力の塊がを噛む。その口を右手まで持っていった。……きた!食べ物だけでなく、食べているところまでイメージしたら伸び具合が良くなった。で、えーっと。次はさっきの炎の矢をイメージするのか。……よし!イメージできた!後は詠唱するだ「えっ!!」…)
イメージしている途中で師匠の驚いた声が聞こえ中断した。
―――ドーン―――
なんか凄い音がした。
僕は右手を向けていた岩の方を見た。
狙っていた岩はなく、その岩があった場所の周辺には大きな穴が…
「詠唱しないで魔法を放つなんて…信じられない…」
師匠は腰を抜かしたようだ。
どうやら僕がさっき炎の矢をイメージした時に、既に魔法は発動していたらしい。
「コー。あなた。間違いなく賢者様になれる才能があるわ。使用する魔力量のコントロールは努力でどうにでもなる。けど、詠唱破棄なんて努力でできるものじゃないわ…」
魔法神の加護を持たない僕が詠唱破棄で魔法を放てる。もしかして地球神達の祝福の恩恵か?
「魔力量といい、魔力操作といい、詠唱破棄といい、コーには驚かされてばかりね。次は違う属性を使ってみましょ。そうね、じゃあ―――」
僕達は2時間程、魔法を放ち領都へ戻った。
初級魔法とはいえ、こんなに早く使えるようになるとは思っていなかった僕は、約半年間伯爵家でお世話になる予定だった。
これならもう少し早くサランド領へ戻れるかもな。
人には適応属性がもちろんある。属性が適応していなければ、どんなに修行しても使えない。
ちなみに僕は、ベスカさんのお店にあった属性の魔法は全部使えた。
ベスカのお店にすらなかった属性。それは闇属性だ。
闇属性は誰も使えない。存在すら怪しい。
でも昔から闇属性はあると言い伝えられているそうだ。
領都へ戻る途中の馬車で、もう一つ興味深い事を聞いた。
なんと魔法は、今では大賢者と呼ばれる魔法の始祖が誕生するまで誰も使えなかったらしい。
まぁそれはそうだ。何事にも初めて成し遂げた偉人はいるものだ。
僕が興味深いと思ったのはそこじゃない。
なんと、その大賢者が誕生したのが今から約450年前らしい。
今はこんなに魔道具が発達しているが、歴史としてはそんなに浅いのか。
前世の記憶でも科学は急速に発展した。
魔法も同じ様なものか…?
今はそんな事はどうでもいい!お腹が空いた!
自分の家以外の貴族が召し抱える料理人のご飯を食べるのは初めてだ!
とっても楽しみ!!
ベスカさん家泊まった時に食べたって?
あれはベスカさんの手料理だ。公爵家の料理人じゃない。
――伯爵家で出された料理に驚愕するとは、この時の僕は全く思っていなかったのである
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