第13話 帰路

王都滞在3日目。僕はベスカさんのお店で上級魔導書を読み取っていた。


初級・中級魔導書は全属性買い占め、既に使用してしまった為、売り場の棚はスカスカだ。


それにしても上級魔導書23冊、超級魔導書8冊、今日含め残り3日で全部読み取れるだろうか…

ベスカさんの言っていた通り、読み取り量は桁違いだった。適度に休憩挟まないと頭がパンクしそうだ。


ティオーラちゃんは相変わらず僕の背中に張り付いている。…といっても今日はあと数時間したら帰るらしい。ティオーラちゃんは嫌がってたけど、用事があるなら仕方ない。


―――――――――――


――――――――


―――――


5日目…


僕はこの3日間、魔導書を読み込む生活を続けていた。

超級なんて滅多にお目にかかれない魔導書を読み込まずに帰るなんて勿体ない。

何としてでも読み取り終える。



僕はひたすら読み取った。


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☆王都


翌朝。

何とか読み取り終え、僕はデルガさん達と合流した。

あとは読み取った魔法を習得するだけだ!

…それが一番大変らしいが…


「それでは皆さん。出発しましょう。3日間よろしくお願いします」

デルーズ商会のデルガさんは馬車を動かし始めた。

僕達もそれに合わせて歩き始める。


荷台には沢山の荷物。王都で仕入れた物をサランド領のデルガさんのお店で売るんだろう。

サランド領のお店はデルガの奥さんミーズさんが経営している。デルーズ商会という名はデルガさんとミーズさんの名前を合わせたからだとか。

折角の縁だ。いつかお店の方にもお邪魔してみよう。



「おいガキ、てめぇ今の内に祈っときな。このまま何も遭遇しなけりゃ、てめぇは間違いなく降格だ。実力を示すことが出来なかったんだからなぁ」

ブルドは笑いながら僕に話しかけてきた。


降格どころかAランクに昇格してますけどね。

まだ誰にも言ってないから知らないんじゃ仕方ないよね。

ベスカさんの話では王都では僕の事が噂になってたらしいけど、どうせブルドの事だ。5日間酒飲んでるだけでギルドにも顔を出してないんだろうな。

それに――


「このまま何事も無ければ依頼は達成です。降格する事なんて無いでしょう。平和な旅で終わる事が一番ですよ」

僕はブルドの方は見ず、前を向いたまま答えた。

ブルドは気に入らなかったのか、無言で歩いていた。


本当、平和に終わるのが一番だよ。

…え?王都に向かう途中、モンスターに遭遇しろって思っていたのは誰だって?

…さぁ…誰でしょうね。



―――――――――――――――

サランド領へ向かう途中。

2日目の昼頃。


僕達は道のど真ん中で20人くらいの盗賊に囲まれていた。

剣と槍を持った盗賊達は馬車ごと積荷の明け渡しとソルティナさんを狙っているようだった。


全く…積荷ならまだしも馬車まで要求する盗賊がいるなんて。なんて強欲なやつらだ。

ソルティナを狙っている?まぁそれはそうだろな。

美人だぞ。狙う盗賊がいても可笑しくはない。

まぁ盗賊達知らないんだけどな。ソルティナは強い。

盗賊が勝てるような相手ではない。


それに…来るなら王都に向かってる時に来いよ。

心待ちにしている時には来ないで、平和に終わらせて魔法習得しに早く依頼を終わらせたいと思ったら来るんだ。

ほんと、空気読めないやつら。


自分で言うのは何だけど、普段あまり怒りを露わにしない僕が珍しく苛ついた顔をしているな…と自覚できる程顔に出ていたみたいだ。


僕の正面にいる盗賊数名が急にオドオドし始めたからだ。


僕ってそんなに威圧感あります?

疑問に思いながら僕は剣を抜いた。

僕と盗賊が睨み合ってる間に、前方にいたソルティナと道を塞いでる盗賊が戦闘を開始した。


盗賊達が剣と槍を構えソルティナとデルガさんに向かって走っている。


ソルティナは杖を前方に構えた。

戦闘経験豊富なソルティナは、睨み合っている間に詠唱は既に終わらせていた。


火炎弾ファイアーショット


ソルティナの周囲に5つの炎の玉が浮かんだ。


前方に構えた杖の先端を盗賊達に向けると同時に、その炎の玉は盗賊に向かっていった。


ドカーンッ、バーン、


物凄い音があたり一帯に響いた。


ソルティナの放った炎の玉は、盗賊に当たるのと同時に3倍程大きくなったのだ。


魔導書で火炎弾も読み取ったから分かる。

5つ出すのも、大きくするのも努力しないと出来ない芸当だ。


「ぎゃぁぁぁぁ」

ソルティナの方を見ている間に僕の反対側で叫び声がした。

声の主はブルドだ。

鍔迫り合いの末、他の盗賊に斬られたのだろう。

多VS一の戦いには慣れていなかったのか。

ブルドのパーティーメンバーは懸命に戦っているが、それでも不利だ。


僕は後方の荷台から馬車の先頭を結ぶ一直線に並行する場に斬撃が飛ぶ様に剣を振るった。

イメージ通り斬撃が前方の盗賊まで届いたようだ。

僕と睨み合っていた盗賊・ソルティナ達と戦っていた盗賊は僕の一振りで足や腹・首などが切れていた。

僕に近い盗賊程足が斬られ、前方に行くほど斬撃が上にいってるイメージだ。

3人程取りこぼしたが、目の前で仲間が一瞬で斬られたのを見て戦意喪失していた。3人は武器を捨て、投降したのである。


ブルド達やベスタが戦っていた反対側はまだ投降した事に気付いてない。


ソルティナが投降を促すが従うそぶりは見せなかった。


僕は反対側に周り、盗賊達に向かうよう地面を蹴った。

みんな止まっているようにしか見えなかった。

反対側にいた盗賊は全員僕が斬った。



「「「「「………………」」」」」


ブルド達は、気づけば僕は前方にいて、盗賊達は目の前で血を吹き出して死んでいった事に、言葉を発さず剣を構えたまま立ち尽くしていた。




――そして僕は、今日初めて人を殺したのだった――

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