第9話 魔導書を求めて


朝、心地良い日差しにより眼を覚ます。

ベッドから起き上がり、窓から外の景色を眺めていた。



昨日は楽しかった。

ギルドの帰り、僕は急いで飲み屋に向かった。

ブルド達は違う席で酒を飲んでいたから話す事は無かったが、ソルティナ達と騒ぎ、冒険者気分が味わえた。

昨日の討伐で大きな収入も入ったし、魔導書が欲しいとソルティナに相談した。

そしたらソルティナが冒険者になりたての頃、買いに行っていたお店を紹介してくれるらしい。

王都ギルドへは午後行く予定だから、時間には余裕がある。



――コン、、コン――

僕はソルティナの部屋のドアをノックした。


「今行くわ坊や」

なんと、声かける前に僕だと分かったようだ。

流石Cランク冒険者。


「お待たせ。それじゃ行きましょ」

ソルティナはいつもの冒険者装備ではなく、女性らしい私服を着ていた。

それにしてもこの着こなし。もしかしてソルティナは、僕と同じで家名を名乗ってないだけで、貴族の出なのか?そう思う程品のある姿だった。


―――――――――――――――――――

☆魔導書店


僕達は宿を出て20分程歩き、魔導書店に着いた。

魔導書店からは王城の門が見える。

王城は立派な造りだった。

王城の近くにはダルムスの第1夫人と兄様達が住んでる王都邸がある。

時間があるようなら挨拶したいが、この格好だからな…。

僕は今、ジャールから貰った剣と、ダルムスから貰った防具を装備した冒険者としての姿だ。

家族とはいえ、貴族の屋敷に行くのにこの格好では些か気が引ける。


僕達は魔導書店の中に入った。

「いらっしゃい。おや、ソルティナちゃんじゃないかい。立派になったねぇ」

店に入ってすぐ、店主と思われる70代くらいのお婆ちゃんが声をかけてきた。


「お久しぶりです。ベスカ様」

ソルティナは頭を下げお婆ちゃんに挨拶をした。


「おや、その子はどうしたんだい?」

ベスカさんはソルティナの横に立つ僕を見て、話かけてきた。

平然を装っているが、何かを感じ取っている様子だった。


「実はこの坊やが魔導書を購入したいそうです。なのでよくお世話になってたベスカ様のお店を紹介させていただきました」


ソルティナは何で、さっきからベスカさんのことを様付しているのだろう。

気になる。…が、僕はそれ以上に物凄い品揃えの店内に眼を奪われていた。


「凄い。魔導書がこんなに沢山」

僕がキラキラ目を光らせ、店内を見渡していると


「ここには初級・中級の魔導書は全部置いてあるからねぇ。一般には売ってないが、上級・超級魔導書もあるさねぇ」

ベスカさんは何者だ?余計に気になってしまった。

初級・中級全部取り扱っているだけ、魔導書店としてはかなりレベルが高いはず。いや、むしろ他にそんな店は無いんじゃないか?

それなのに上級・超級魔導書もあるなんて。

ソルティナには良いところを紹介してもらった。

そして流石王都だな。このレベルの魔導書店、大規模なギルド、綺麗な街並み。王都に来れてよかった。


「超級の魔導書を取り扱ってるなんて、ベスカさんは何者なんですか?」

僕は思わず聞いてしまった。だって気になるじゃん。


僕の質問にソルティナが答えてくれた。

「ベスカ様はね。元Aランクの賢者様よ。そして、現国王様の叔父様の第1夫人。叔父様はデューゼル公爵と呼ばれている方よ」

ソルティナは自分の事のようにドヤ顔で教えてくれた。

まさか賢者様だったとは。だから超級も扱えるのか。

この店の規模にも納得だ。実質公爵家が経営しているようなものだ。

だが、不思議だな。賢者と呼ばれるまでに強くなったベスカさんですらAランクだなんて。

前世のゲーム基準だと、勇者や賢者なんてSランク超えのイメージしかない。


「失礼しました。ベスカ様。わたくし、Cランク冒険者をしております、コーキと申します。」

僕は頭を下げた。公爵ならうちより格上だし、僕は家名を名乗らない。上位貴族の方に対して気軽にさん付していたのは、謝罪しない訳にはいかない。


「幼そうなのに、もうCランクなのかい?凄いねぇコーキくん。孫みたいに可愛いねぇ。コーちゃんと呼んでも良いかい?あたしゃベスカさんでいいよ。様なんて付けなくていい。」

ベスカさんはニコニコと嬉しそうに言った。

賢者様、良い人だなぁ〜。


打ち解けてきた所で、何故賢者様なのにAランクなのか聞いてみた。

「簡単な話さねぇ。ゴースリア王国には今までSランクになった冒険者はおらんねぇ。このルージア星に現在いるSランクは8人。ルージア星600年の歴史の中でSランクに到達したのは、現在含め13人。賢者だからといって早々なれるもんじゃないねぇ。」


驚いた。Sランクってそんなに高い壁なのか。

だからダムルスも、僕が水晶割った時にAかBランクと言ったのか。前代未聞の水晶を割るということをしてもSランクの壁は超えられない。そういう意味だったのか。


「むしろ今世紀は凄いんだよ。なんせSランクが8人もいるんだからね。坊やも強いし、ゴースリア王国最初のSランクになるかもね」

ソルティナは笑顔を浮かべながら言った。



僕は各属性全ての初級魔導書を買った。

魔導書を開き、手を置くと光った。

どんどん頭の中に呪文や魔法のイメージが入り込んでくる。

1つの魔法に対して1冊である。

初級魔導書は300冊以上ある。

魔導書を買い、頭にイメージが入り込んだとしても使えるとは限らない。ここから先は本人の努力次第だ。

だからこそ、手当たり次第買った。


200冊を超えて少し経った頃、王都ギルドとの約束の時間が迫っていた。

まだ80冊近くは残っているだろう。


「すみません。ギルドとの約束の時間が迫ってるので、残りは用事を済ませてからでもよろしいでしょうか?」



僕は申し訳ないと思いながら、店を出てギルドへ向かった。

ソルティナはベスカさんの店で待っていてくれるみたいだ。




まぁ…昨日の残りの報酬受け取るだけだし!

早く終わるだろ!


僕は軽い気持ちでギルドに向かって走っていった。

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