5月7日Ⅹ(4)

「あ、あの・・・」

今にも消え入りそうな小さな声で蘆花さんが返事をする。

「何の用かって話だよね?」

私が尋ねると、蘆花さんはうんうんと顔を小刻みに縦に振る。

「その、蘆花さんのお姉さんのことなんだけど」

「実花お姉ちゃん・・?」

蘆花さんは首を右に軽く傾ける。

この子動作が一つ一つ可愛いな。

「お姉さんが今ちょっと、仕事で出張に行くから、暫く会えないってことを三和さんから伝えるように言われて来たんだよ」

「は、はい」

即興のそれっぽい嘘を告げる詩歌に、蘆花さんは曖昧に頷く。

「で、そのお仕事が終わるまで蘆花さんは、愛奈さんの管理してるマンションで暮らして欲しいんだそうだけど、大丈夫?」

「はい、それは大丈夫、です」

蘆花さんはどこか私たちじゃないところを見つめながら頷いた。


「その、えっと・・・」

「ん?」

「あ、いえ・・・。なんでもないです」

蘆花さんが何か言いたげに切り出すも、詩歌の返事にびっくりしてしまったのか、それきり黙ってしまった。

「とりあえずそういう訳だから、よろしくね」

「わかりました。ありがとう、ございます・・・」

最後まで弱々しく返事をして、蘆花さんは教室へと戻って行った。

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