七夕ss(番外編2)

「『むかしむかし。

夜空に輝く天の川のそばに、天の神さまが住んでいました。

天の神さまには一人の娘がいて、名前を楠木架那といいました。

架那は物理を予習・演習をを繰り返して、物理オリンピックを連覇したり、物理の新しい公式を作る仕事をしていました。


 さて、架那が年頃になったので、天の神さまは娘にお嫁さんを迎えてやろうと思いました。

 そして色々探して見つけたのが、天の川の岸で剣道の達人だと言う、神坂詩歌という少女です。

詩歌はとても強く可愛い、立派な若者です。

そして織姫も、とても賢くて美しい娘です。

二人は相手を一目見ただけで、好きになりました。

二人はすぐに楽しい生活を送るようになりました。


でも、仲が良すぎるのも困りもので、二人は仕事を忘れて遊んでばかりいるようになったのです。

「架那さまが物理を進めてくださらないので、みなが新しい公式を習いたくて禁断症状が出ております。はやく新しい公式をつくるように言ってください」

「詩歌が道場の掃除をしないので、道場や竹刀が汚くなってしまいました」

 というように、天の神さまにみんなが文句を言いに来るようになりました。

天の神さまは、すっかり怒ってしまい、

「二人は天の川の、東と西に別れて暮らすがよい!」

と、架那と詩歌を別れ別れにしたのです。


「…ああ、詩歌に会いたい。詩歌に会いたいよ…」

 毎日泣き続ける架那を見て、天の神さまが言いました。

「娘や、そんなに詩歌に会いたいのか?」

「はい。会いたいです」

「それなら、一年に一度だけ、七月七日の夜だけは、詩歌と会わせてやってもよいぞ」

天の神様は折衷案を架那に申し出ました。

それから架那は、一年に一度会える日だけを楽しみにして、毎日一生懸命に新しい物理の公式を作り上げるのです。

 

天の川の向こうの詩歌も、その日を楽しみに剣道以外にも空手や柔道などにもせいを出しました。

そして待ちに待った七月七日の夜、詩歌は天の川を渡って、架那のところへ会いに行くのです。

しかし雨が降ると天の川の水かさが増えるため、詩歌は川を渡る事が出来ません。

 でも大丈夫、そんな時はどこからともなくカササギと言う鳥が飛んで来て、天の川に橋をかけてくれるのです。

その後二人は七夕の日を楽しみに働きました。

その甲斐あって二人は天の神様の許しを得て無事結婚し、幸せに暮らしましたとさ』

ちゃんちゃん」

「おおー」

詩歌は自分で作った紙芝居を使って、捏造童話を語り終えた。

私は話し終えて礼をした詩歌に拍手を送る。

「急に呼び出されて何事かと思ったら、詩歌七夕の紙芝居なんて作ってたの?」

「どう?私と結婚する気になった?架那姫様」

詩歌は得意げにふふんと胸を張る。

「ならないよ。てかできないよ」

「ええー」

私が冷たくいなすと詩歌は、はぁと小さく落胆する。

「お話では二人は結婚したって言ってるよ?」

「作者は詩歌さんでしょうに」

「えへ。ばれちゃったか」

「えへじゃないよ」

詩歌の軽口に突っ込んで二人して笑い合う。


「おい詩歌。何遊んでる」

「げっ、師範」

突然部屋に入ってきた汀さんを見て詩歌は、驚愕の表情を浮かべる。

「げっ、とは何事だ。いいから稽古に戻るぞ」

「そんなぁ〜。架那ちゃんまた後でね…」

詩歌はずるずるひきづられながら部屋を後にした。

「これ稽古の合間に作ったのかな。ほんとばかなんだから」

架那は静かになった部屋の中で紙芝居を見つめ、一人呟く。

しかしその顔はひどく優しい、まるで童話の中の織姫のような慈愛に満ちた表情だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る