百合の日ss(番外編)

架那×詩歌です。

時期は、まあこの前の話(ロートスの木編)くらいかなと思います。

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「かーなちゃん!」

「何?詩歌」

愛奈さんの別荘の一室で、テスト勉強をしていたら、笑顔の詩歌が部屋に入ってきた。

手を後ろに組んで、軽く前屈みになってるところを見ると、何か持ってきたのだろうか。

なんだろ。


「今日何の日か知ってる?」

おっと。そうきましたか。

んー、6月25日。

なんかあったっけか。

「…加須市うどんの日?」

「な、なにそれ…」

詩歌は戦慄と言った表情を浮かべながら私を見つめてくる。

「1711(正徳元)年ごろ、埼玉・加須かぞ名物の『饂飩うどん粉』

が茨城・舘林城主だった松平清武宛に贈られたんだって。

で、その御礼状に6月25日付けとなっている記録が、埼玉県加須かぞ市にある不動ヶ岡不動尊總願寺に残されていることにちなんで、加須市が記念日に制定してるらしいよ」

「でたカナペディアちゃん。そんな知識どこで仕入れるの…」

私が昔の知識を総動員しながら喋ると、詩歌はぽけーとした顔で私を見つめている。

そんなに変?このくらい普通じゃ…。

「昔新聞で見たんじゃないかな、確か」

「ま、まあそれはいいとして!他には?他にないの?」

詩歌は、無理矢理話を切り上げると別の話題を引き出させようとする。


うーん。あ、思い出した。

「スペインの建築家アントニオ・ガウディ氏の誕生日にちなんで、全国建設労働組合総連合が6月25日に記念日を制定した『住宅デー』のことか!」

「違うよ!アントニオさん誰!?」

詩歌はノリノリなツッコミを入れてくる。

うーむ、違ったかぁ。

「もしかしてわざとやってるでしょ…」

詩歌は肩で息をしながら、私を見上げる。

「今日は!『百合の日』なの!」

「ああ、そんなものもあった」

「一番大事でしょ! アントニオさんとか、なんとかうどんとかじゃなくて!」

詩歌は、やっと言えたとばかりに安堵の息を吐きながら、早口で捲し立てる。


「で、百合の日がどうしたの?」

詩歌は私の問いに、やれやと言ったアメリカ人風にオーバーなリアクションを取る。

「もう、やっと本題に入れた。架那ちゃんに、今日百合の日だからこれどうぞ。って持ってきたの!」

「ああ。百合の花か!」

詩歌が手渡してくれたのは、白い円柱型の花瓶に生けられた純白の百合の花一輪だった。

「百合の花言葉は、『純潔』『洗練された美』。架那ちゃんにぴったりだよ!」

「あ、ありがと」

詩歌は気持ち早口になりながら、花言葉について述べる。

花言葉とか好きなのかな。

詩歌のイメージ通り、って感じがする。

うまく言えないけど。


「とにかく、今はこれ私に来ただけだから!じゃぁまた後でね!」

詩歌は、説明だけすると颯爽と私の部屋から去っていった。

まるで、たつ鳥跡を濁さずだ。


嵐のような詩歌が去って、改めて百合の花を見てみると、花弁が日光を反射して、美しい白色を輝かせている。

「この花、詩歌が選んでくれたのかな…」

そんなことを思いながら百合の花を見つめていると、無性に微笑ましくなってくるのであった。

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