5月6日Ⅹ(6)

「どうしたの?」

私はきっと酷い奴だ。

大方、詩歌が言いたいことも、言いあぐねている理由も察しがつくと言うのに、詩歌の口から言ってほしい、という一心で訪ねてしまっている。

「その、昨日の、ことなんだけど…」

詩歌は俯いて、私の袖を掴んだまま細々と言う。

「えっと、あの…」

「私はちゃんと聞くから、ゆっくりで大丈夫だよ?」

詩歌は、突然私の袖から手を離すと、パチンと大きな音を立てて、真っ白な頬を叩く。

「昨日のキス、私はしたくてやったことだから! 場の雰囲気に呑まれたわけじゃないから!」

「あ、う、うん」

詩歌は、いつもの調子を取り戻したように、私の手を取って大きな声で言う。

「ずっと私は架那ちゃん大好きだから!」

詩歌は私の手を離すと勢いよくハグする。

「いや、だった?」

詩歌が耳元で蠱惑的に呟く。

「…ううん。全然そんなことない、嬉しい」

「よかった」

私の返事に、えへへと微笑んで、詩歌が腕に優しく力を込める。

なんとも言えない、互いの心がスッと奥底まで分かり合えたような気持ちが湧き上がる。


「じゃあ私、シャワー行ってくるね! 朝ごはん楽しみにしてる!」

「うん、任せて」

詩歌は私から離れると、手を振りながら浴室へ走っていった。

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