5月5日Ⅹθ(36)

「というわけでだな、あんたは佐藤実花本人じゃないみたいだが、どちらさんかな?」

「な、何言ってるの汀。私がイタリアにいたのはもう3年も前のことよ?今はもうすっかり日本の暮らしにもなれたし」

佐藤さんになりすましたと思われる暗殺者さんは、懸命に釈明しようとする。

「ほう?つい3日前に私に資材の買い出しを言い渡した時は、親指と人差し指で2個とやっていたのに、か?」

暗殺者さんは静かに黙り込んだ。

嘘がつらぬき通せそうにないと悟ったのだろうか。


「佐藤、いや、暗殺者さんよ。あんたから情報を引き出すよう依頼されていてな。ちょっとばかし痛いかもしれんが、正確に答えてくれよ?」

完全に状況的に優位に立った師範が、あえて高圧的に笑いながら告げる。

うつむいていた暗殺者は途端、にやりと不敵に口を歪ませて笑った。

まるで、計画通りとでも言うかのように。


「師範!こいつ何かおかしい!」

私は咄嗟に師範に危険を知らせる。

まずい、何か危険な匂いがする。

暗殺者は、私が叫ぶと同時に、自由になっていた右手の人差し指で親指の爪を強く弾く。

「神坂、そいつから離れろ!」

師範は、暗殺者を固めたままだった私に咄嗟に叫ぶと、立ち上がった私を庇いながら全力で後方へと飛んだ。


刹那、脳を揺さぶるような轟音と激しい熱風が私たちを襲った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る