5月5日Ⅵ(1)

別荘の近くに車がついた時、時刻は24時を回って、5月5日になっていた。

「ねえ、あれ」

詩歌が別荘の入り口を指で指す。

「どこの間者でしょうか」

愛奈さんもぼやくように、別荘の入り口付近に漫画でしかみないような全身黒尽くめの人が一人窓の側を屯していた。

「神坂、殺さずに相手を無力化してこい」

え、汀さんそれはいくらなんでも無茶振りでは?

「了解しました師範」

詩歌は頷くと勢いよくリムジンの扉を開けて走り出した。


「え、詩歌剣道はできますけど、いくらんでも剣を持たずに戦えってのは…」

「みていればわかりますよ。神坂は以前の神坂ではありませんから」

私の不安げな言葉に、汀さんは不安さを滲ませない笑顔で笑った。


詩歌は無言で相手の元へと猛スピードで走り寄っていく。

相手は詩歌の姿を捉えると、胸元からナイフを取り出す。

「上等っ!」

詩歌は不敵な笑みで応じると、相手がナイフをもって突き出してきた右腕を左足の蹴り上げで払う。

その衝撃で相手は右手を痛そうに抑え、ナイフは勢いよく宙を舞う。

「はぁっ!」

鋭く短い気合いを発すると、上体の空いた相手の鳩尾に渾身の右正拳突きを放つ。

「…かぁっ」

相手は腹部に食らった正拳突きによって、行き場を失った空気を口から吐き出す。

詩歌は後方に倒れかかった相手の胸ぐらを勢いよく掴むとその勢いのまま相手を背負い投げで地面に叩きつけた。



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