第三話 パーティ結成~緊急クエストの受注


 「よう、さっきは悪かったな。まさかそんなに腹が減ってるなんて知らなかったぜ」


 肩を竦めながら謝罪する男にロナルドは苦笑いを浮かべる。どうやら思っていたほど傍若無人な人物ではないらしい。


 「もういいですよ。それより、ツノウサギの肉ありがとうございました。美味しかったです。……ええと」


 「オレか?オレはヴィルヘルム。長い名前だからが気軽にヴィルとでも呼んでくれ。職業は見ての通りの拳闘士グラップラーだ。お前は?」


 「僕はロナルド。戦士ファイターをやっています。ところで今の料理っておいくらですか?」


 懐から財布を取り出そうとするロナルドに、ヴィルヘルムは慌てて制止する。


 「おいおい、別にいいって。俺が好きにやっただけだからよぅ」


 「いやいや、そういうわけにはいきませんって。僕の家では借りはすぐに返すっていう決まり事があるので」


 「まてまて、流石にダチから金はとれねぇって。それともお前んところの教えでは人の気持ちを無下にする決まり事もあるってのか?」


 「でもでも、このままでは引き下がれませんよう」


 あーだこーだと押し問答を始める二人の間に近づく影が一つ。それはまた、ロナルドが会いたくない人の内の一人であった。――海賊風の伊達男、ディーンである。


 「……お前ら。また喧嘩してんのか、懲りない奴らだ。まぁいい丁度新入り共に行ってもらう依頼クエストがあってな。――おい、そこで暇そうに瞑想しているリルドラケン……そうお前だ。こっちに来い」


 食堂の壁にもたれかかり、腕を組みながら瞑想していたリルドラケンの男は、瞑目していた両目を静かに開けると、堂々とした足取りでディーンの元へやってくる。

 ヴィルヘルムはその男をよく観察すると、さっき自分とロナルドのいざこざを止めにきたリルドラケンと同一人物であることに気付いた。

 ロナルドは思わず息を呑んだ。間近で見ると自分の1.5倍はあるであろうリルドラケンの巨体からは思わず威圧感を覚えるほどの覇気が溢れていた。


 「それでギルドマスターの代理殿が俺ごときに何の用が? 何の仕事をさせようってんのか知らねぇが雑用要員というなら御免だぜ」


 思いのほか静かな声で話すリルドラケンにロナルドは少し胸を撫でおろす。そこまで恐ろしい人物ではないのかもしれない。故郷で見かけることはなかったとはいえ、

偏見で人を評価してしまったことに対し、ロナルドは心の中で恥じた。

 

 「まぁそう言うな。お前が追っている『例の種族』にも関係があるかもしれないことだ。――おっと、顔色が変わったな。ちっとは興味は沸いたか?」


 「チッ――あんた、何処でそれを?」


 「フフッ……さぁな。答えてやる義理もない」

 

 口元にニヤリとニヒルな笑みをたたえるディーンに、苦虫を潰したような表情を浮かべるリルドラケン。それよりもロナルドは隣でワナワナと小刻みに震えるヴィルヘルムに視線がいった。そして、彼の獲物を射抜くような目を見た時、直感が告げた。

 ――これはマズイと。

 早く止めなくてはとヴィルヘルムの肩を掴もうとしたが、その手はあっけなく宙を切った。ヴィルヘルムの狙いすました拳は真っすぐディーンへと伸びていた。


 「――ギルドマスターの代理だかなんだが知らねぇけどよぉ。さっきから勝手に話進めやがって、蚊帳の外にされているのが気に入らねぇぜ。後、さっきよくもボコボコにしてくれたよなぁ。併せて気に入らねぇ!喰らいやがれ!」


 「ん?ほいっと。さてとそろそろ本題に移りたいところだが。っと、その前に」


 ヴィルヘルムの意表を突いた急襲をディーンは目もくれず、片手で往なすとヴィルヘルムへと向かってニコリと微笑んだ。そして、残酷な一言を放った。


 「ええと、今殴り掛かってきた狼青年の君。3日間朝飯抜きな」


 ヴィルヘルムの絶叫が辺りに一体に響き渡ったのは言うまでもない。




***** ***** *****




 「では、これからお前たちへっぽこ冒険者諸君に依頼内容の説明をしていくわけだが。生憎この俺様は見ての通り忙しい身でね。こっから先はウチの美少女看板受付嬢のリーナちゃんにお任せするとしようか。――リーナちゅわ~ん、お願~い!」


 さっきまでの真面目は表情からは一変、だらしなく破顔したディーンはギルドの事務室へと呼びかける。間もなく、呆れた顔をしたエルフの少女がこちらへやってきた。


 「きたきた。いやぁ今日も一段と綺麗だねリーナちゃん。今度また俺と食事でもどうだい?勿論サシで」

 

 「まぁたこんなこと言ってる……ディーンさん、もしかしなくてもお酒飲んでます?全く、素面だったらあんなにカッコいいのに。――コホン。ええと、『竜の吐炎ドラゴン・ファイア』受付嬢のリーナです。よろしくお願いします。それでは依頼内容へと話を進めていきたいところですが……皆さんもう自己紹介は済みましたか?」


 リーナの発言にリルドラケンは馬鹿にしたような鼻を鳴らす。


 「フン、一回限りの即席パーティに自己紹介が必要だと?本当にそう思うか」


 「ええ、必要ですとも。だってお互いの命を預け合うんですよ。短時間で信頼関係を築くにはお互いのことを少しでも良く知る。これが大事なんです」


 リーナの力説にリルドラケンは、さも面白くもなさそうな顔で「ああ、そうかよ」と零した。そして、一度咳ばらいをすると口を開いた。


「俺はガート・ルード=ダイラス。見てのとおりのリルドラケンで戦士ファイターをやっている。呼び方は各々に任せる。……最もこれが最後だろうがな」


 リルドラケンの男――ガート・ルードは面倒くさそうに自己紹介を済ますと、視線をヴィルヘルムに向ける。


「次はオレだな。オレはヴィルヘルム。拳闘士グラップラーだ。後は――見てのとおりリカントだ。好物は肉で嫌いな物は野菜だ。よろしくな」


 ヴィルヘルムはそう言うとフードを脱いだ。短く逆立ったダークブラウンの頭髪の上には狼によく似た耳が生えている。またさっきは気付かなかったが、開けた口からは鋭い犬歯が覗いている。


 「……なんだロナルド。何か言いたげだな。フードを被っていた理由についてはご想像にお任せするぜ。さて最後はお前だ」


 「――はい。僕はロナルドと言います。ここから少し離れた故郷から立派な冒険者になるためにここへやって来ました。短い間になるかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします」

 

 「うんうん。よろしい、よろしい。それでは依頼内容について説明していくよ」


 三者三様の自己紹介を聞き終え、リーナは満足そうに頷くと依頼内容の説明を始めた。一番大事な伝え忘れたいたことに気付くのは彼ら3人が出立した後になるのだが、今は誰も知る由もない。







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