7月23日[金] 桃の木もどき
近所に住む大家のおばあちゃんの家に、暑中お見舞いのあいさつへ行った。
日ごろから大変お世話になっているので菓子折りを持っていく。なんにしようか迷ったけれど、やっぱり水ようかんの詰め合わせにした(気に入ってもらえて、安堵)。
コロナが心配だったから、玄関先で失礼しようと思ったけれど上がっていけと言われて断れず……、ダメな僕です。
縁側から大家さんの畑が見えたが、想像以上に広かった。家の裏手にあり住宅に囲まれた場所で、家が丸々一件建ちそうな広さ。
トマトやナスなどの夏野菜が、緑色の葉の影に見え、露に濡れて輝いていた。鮮やかな宝石のようなその様は、いとをかし。
ここの野菜を時々おすそ分けしてもらっているのだ…。よっしゃ!せっかくここまで来たんだ!と、気合を入れて、草むしりなどの畑仕事を手伝うことにした。
久しぶりの外仕事で汗をかいた。世間では夏休みも始まり、空も夏色をしている。
休憩中、畑の隅に植わっている桃と柿の木の木陰で風にあたる。桃や柿ももらったことがあるけど、ここの畑のものだったんだな…。
なんて思っていると、急に首根っこを捕まれて空高く放り投げられた。わたしを放ったのは、桃の木だった。
正確に言うと、それは桃の木ではなく、桃の木もどきだった。うかつだった。そして隣に植わっていたのは、これまた柿の木ではなく柿の木もどき。二匹のもどきは、わたしをお手玉のように放り合って遊びはじめた。
「ありゃりゃ!これ、二人ともやめなさい。お客さんをおろしなさい」
麦茶を取りに台所へ行っていた大家さんが、血相変えて縁側から飛び出し、もどきたちを止めてくれた。
軽く腰をいわしたわたしは、情けなくも大家のおばあちゃんに肩を借りて、へっぴり腰のまま、ヒィヒィ言いながら縁側へ逃れた。
「ごめんなさいね。孫たちも大きくなって、もうここには、人があまり来ないものだから……。久しぶりに人が来て、嬉しくてはしゃいじゃったんだと思うのよ」
大家さんがしみじみと言っていた。ここのもどきたちは、人でお手玉をするのが好きらしい。
大家さんの孫たちがまだ幼かったころ、二匹のもどきにポイポイ投げられて、その様子を大家さんが、微笑ましく縁側から眺めている。そんな場面を、わたしは想像した。
感慨深げな大家さんの横顔を見て、「わたしでよければ、いつでも」と、わたしはうなずいていた。
それにしても、毎年もらっていたのは、もどきの実だったのか…。ま、毒はないだろうし問題ない。……毒、ないよね?
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