11.「お前を追放した奴ら、全滅したんだってな」

酒場で夕食と一緒に酒を頼む。


冒険者のパーティーがひとつ全滅しても街はいつも通りだ。


親しかった人間は悲しんでいるかもしれないが、それより外側の人間からすればいつものこと、とまでは言わなくても珍しくない出来事で。


周囲は世界の平和なんかに興味もなくて、今日も金を稼いで飲んで騒ぐ、平均的な冒険者で溢れている。


そういえばまともな料理は久しぶりだな。


運ばれてきたちゃんと味付けのされた肉を堪能する。


当たり前だが魔物肉とは雲泥の差だ。


まず口に入れても、おえってならないのが最高である。


そんな『料理』を黙々と胃袋に納めて、ビールを何杯か補充していると、横からスキンヘッドがニュッと生えてきた。


「いよお、ビダン」


スキンヘッドが親しげに話しかけながら隣の椅子に座る。


特に親しくもない、俺と同じ冒険者だ。ランクはたしかBとかCとかそれくらい。名前は覚えていない。話したことも数えるくらい。スキンヘッドの持ち主でなければ存在も覚えてなかっただろう。


人の名前覚えるの苦手だからなぁ。


アリスにはよくその事で小言を言われていた。


師匠は覚えられない名前なら覚えなくていいなんて言ってたが、あの人は独特だからあまり真に受けてはいけない。


なんでも言われた通りにしていると、気付いたら社会不適合者になってなってそうで怖い。


まあ人の名前を覚えない原因が、あまり他人に興味がないからなので既に若干手遅れ感があるけど。


そんなことを考えていると、スキンヘッドが喋りかけてくる。


「お前を追放した奴ら、全滅したんだってな」


「ああ」


「Sランクだか知らねえが、魔王討伐なんて身の程知らずのことを考えなきゃもちっと長生きできたのになあ」


「そうだな」


「まあそう考えると、あいつ等は死んで当然だったのかもなっ。それでよかったら俺と一緒にパーティーをっ」


そう言った瞬間に、スキンヘッドの本体が吹き飛ぶ。


勢いよく店の壁に叩きつけられて、そのまま壁を抜いて通りに転がっていく。


俺は立ち上がり、会計に金貨を数枚重ねて、店を出た。


外はすっかり日が暮れていて、通りには人の流れが交錯している。


その真ん中で倒れたままの男は気絶しているようだ。


さすが冒険者、頑丈に出来てる。


それを無視して宿に戻ろうと視線を曲げると、そこには予想外の顔があった。


外套のフードを目深に被り、通りの向こう側からイリスがこちらを見つめている。


隠れているわけではないようだ。


だが俺に気付かれても反応を示す気配はない。


何を考えているのか、なんて聞くまでもない。


俺はイリスを無視してそのまま宿へと歩を進めた。




翌朝。


荷物をまとめて袋に詰め、最後に立て掛けてある聖剣を握る。


宿の窓から視線を落として外の路地を覗くと、こちらの部屋を見つめるイリスの姿があった。


もしや一晩中見張っていたんだろうか。


風邪引いても知らんぞ。


なんてまあ、俺が気にする立場でもないか。


宿を出ると射し込んだ朝日に目がくらむ。


そのまま歩き出すと視界の端で、イリスが着いてくるのが見えた。


朝の準備に活気付く大通りを抜けて、外壁を潜る門を通過して外へ出る。


目的地はその目と鼻の先にある大きな平屋の建物。


隣には馬小屋が併設されているそれは、街と街を運ぶ馬車の待合所だ。


中に入って隣の街までと伝えて案内を受ける。


最寄りの街までの馬車は日に数本。


組織的に管理されているわけではなく、個人でやっている馬車をここで案内してくれるというだけなので本数はまちまちだ。


基本的には朝の出発が多いがその日の天気によっても変わったりする。


ゆっくりしたいなら個人で馬車を借りたり、ギルドで行商人の護衛を受けたりもできるが今回はオーソドックスな方法を選んだ。


ということで案内された先で御者に料金を払う。


少し待つと、イリスも同じように料金を払い、席が埋まったので出発すると御者が告げる。


馬車の中は左右に長椅子が並べられていて、定員8名ほど。


当然お互いのことを気付かないわけがない距離だが、関係がない見ず知らずの他人だと振る舞う不文律が俺とイリスの間に生まれていた。


俺はその理由を知らないんだけど。


イリスがそうしているから、俺も合わせているだけで。


座りやすいように奥行きのある長椅子が取り付けられている荷台は狭く、自然と向かいの席とは手を伸ばせば届く程度の距離になる。


そのせいで意識せずともイリスの胸元に下がるペンダントに気付く。


あれは……。


ギルド証ではない。


それは、アリスがずっと身に着けていたもの。


形見の品だった。

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