03.「Sランク昇格おめでとうございます!」

目の前のプレートに手を重ねると、その脇にレベルとステータスが表示される。


「レベル……、81!?」


ギルドホールのテーブルを挟んで座った、職員のサークルさんが俺のレベルを大々的に叫ぶ。


驚きすぎて、かけてる真ん丸な眼鏡がずり落ちそうだ。


ちなみに個人のレベルやステータスは非公開情報なので、彼女はすぐに失礼しましたとテーブルに額がつく勢いで頭を下げる。


「す、すみません!」


その勢いで後ろで括られたポニーテールがふさっと広がる。


うん、許した。


それにまあ気持ちはわかる。


数十日でAランクの人間がレベルを8つも伸ばしてきたら、俺だって何かの間違いを疑うだろう。


当然なように、レベルは高くなるほど次のレベルに上がるのが難しくなる。


資質があってレベルが一桁の期待の新人ならともかく、このレベル帯でこれだけ急激に上がるのは本当に稀だろう。


というかその前に小まめにレベル確認しに来いって話だった。


とはいえこのレベルシステムの根幹は古代に神が造ったものなので、その測定結果に疑う余地はない。


ちなみに、レベルとステータス、それにクラスは神が決めた世界の理であり、それを悪用したり欺こうとしたりすると神罰が下る。


具体的に言うと雷が落ちてきて死ぬ。


まあそんなことはどうでもいいんだけど。


「という訳でギルド証の更新を」


「はいっ、しばらくお待ちくださいっ」


ギルド証は首飾りになっていて、中央に埋められた魔石を固定するように金属で装飾されている。


俺がそれを差し出すと、サークルさんがトレイに受け取ってそのままギルドホールの奥へ入っていく。


「館長ー」


若干慌てたような彼女の声が聞こえてくる。


いつの間にか周りにいる冒険者とギルド職員の視線が集まっているような気がするけどきっと気のせい。


冒険者というのは他の冒険者の情報に無駄に詳しい。


少し前まではパーティーでここを訪れていた俺が、ひとりでここにいるのが注目を集めている理由のひとつかもしれない。


まあ一番はさっき漏らされた俺の個人情報のせいだろうけど。


それにこの街を拠点にしてもう何年も経つもんなあ。


同じようここを拠点にしてしている冒険者とはほとんど顔見知りのような間柄だった。


まあ人間性が合わない相手もいるのでみんな仲良しとは言わないけれど。


というか冒険者という人種に限っていえば、仲が悪い方がデフォルトかもしれない。


全員が同じ仕事を生業とする競合相手のようなものだし、そもそも人間性が真っ直ぐじゃないような奴も多いからな。


そりゃ仲も悪くなるだろう。


いや、俺の性格が悪いのが原因なんじゃなくて、全体的な話で。




「お待たせしましたー」


ぼっちの俺が若干周囲の意識を集める中、そんな空気を無視して戻ってきたサークルさんが朗らかな笑顔でギルド証をテーブルの上に置く。


彼女とは前のパーティーからの付き合いなので、あえて空気を無視している部分もあるのかもしれない。


まあなんでパーティー抜けてぼっちになったんですか?とか聞かれても困るしな。


今は彼女の心遣いに感謝しておこう。


「どうぞ、こちらです」


差し出されたギルド証は俺のSランク昇格にともなって、以前のものより装飾が絢爛なものになっていた。


魔石の周囲の金の細工が光を反射してキラリと輝く。


手に持ってマナを込めると、中央に添えられた魔石が赤色にうっすらと光った。


これは所有者本人がマナを込めたときにのみ見られる現象で個人認証として使われている。


ギルドにある装置を通せば中に書き込まれたレベル等の個人情報も参照できて、それが身分の担保にもなるぞ。


ちなみにこれの仕組みも神の遺産のひとつであり、偽造しようとすると死ぬ。


正確にはこのギルド証を加工する技術と装置が遺産なんだけどね。


「Sランク昇格おめでとうございます!」


「ありがと、サークルさん」


嬉しそうにお祝いの言葉をくれる彼女に感謝して、ギルド証に繋がったチェーンを首にかける。


必ず身に付ける必要はないんだけど、無くすと面倒だし結局大抵の冒険者は胸元が定位置だ。


それから簡単なランクアップに関する通知を受ける。


Sランクは人類の到達点だけあって、ギルド側から様々な優遇制度の説明もあったがあまり興味はなかった。


それでも大人しく一通りの説明を聞いて、帰る前にそうだと思い出して、荷物から取り出した俺の物ではないギルド証を差し出す。


山中で白骨死体から回収してきたものだ。


事情を聞いた彼女が再びとてとてとギルドホールの奥へ行って、中身を確認してきてくれた。


「持ち主は数年前から消息不明。登録されている縁者も無しですね」


「そうか」


ギルド側に登録されていたら遺族への死亡通知なんかも手配してくれるんだけど、今回はそのケースには当たらなかったらしい。


拾った髪飾りが故人の物ならその縁者に届けようかと思っていたが、その必要もなかったな。


「これは処理しておいて貰える?」


「はい、承りました」


彼女にあとのことはお願いして、俺の用事は終わったのでそのまま席を立つ。


「それじゃあ今日はこれで。さよならサークルさん」


「またのお越しをお待ちしています」


お辞儀をした彼女に見送られて俺はギルド館を出る。


サークルさんは一挙手一投足が癒されていいなぁ。


まあ再び彼女と会うことがあるかは不明だけど。




さて、次は道具屋だな。


所有権が正式に俺の物になった髪飾りを握りながら道を歩きだした。


いくらくらいになるかなー。

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